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今日の筆洗

2016年05月23日 | Weblog

 搗米屋(つきごめや)の若者が絵草紙屋で一枚の花魁(おいらん)の錦絵を見て、恋煩いしてしまう。落語の「幾代餅(いくよもち)」の一席である▼いつの時代も熱狂的なあこがれの対象になるアイドルがいる。ファンがいる。どなたにも自分のアイドルがいたはずで、部屋のポスターや定期券入れの切り抜き写真を忘れたとは言わせまい▼スターやアイドルへのあこがれは青春期の健全な通過儀礼である。一時の熱狂もやがて冷める。どんなに夢中でもその偶像は絶対に手の届かぬ存在とやがて気がつく。その現実を受け入れて、大人になっていくのだろう▼二十七歳の男はなぜ現実が見えなかったか。東京都小金井市でアイドル活動をしていた女性が男に刺された事件である。男は贈ったプレゼントを送り返され、腹が立ったと報道されているが、愚かな了見違いである。相手は友人ではない。送り返されても仕方のない手の届かぬアイドルである▼女性を心配する一方、最近のアイドル商売も気になる。かつての「絶対に手が届かぬ」ではなく、「手が届きそう」に見えてしまうアイドルを大量生産しているようである。幻惑されて、現実の見えぬ曲がった輩(やから)こそ問題だが、その分、アイドルが危険にさらされていないか▼搗米屋の若者は、あこがれの花魁と所帯を持つ。<傾城(けいせい)(遊女)に誠なしとは誰(た)が言うた>。ほろっとするが、落語である。こんな現実はない。