東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2016年05月08日 | Weblog

 漫画家、エッセイストの東海林さだおさんが「塩むすび」の思い出について書いている。なんでも、小さいころの東海林さんは一日中、お母さんのエプロンの裾をつかんで離さない子だったそうだ▼台所でも庭でもどこでも一緒。「役得」もあった。お母さんが炊きたてのごはんをお櫃(ひつ)に移すとき、お釜の底に残ったごはんとおこげをしゃもじでこそげ取って小さな塩むすびを握ってくれる。「ホレ」と、手渡してくれる。強い塩気におこげの香ばしさ。おいしくないはずがなかろう▼作家、向田邦子さんの塩むすびはおばあさんが握った。朝ごはん前に父親に隠れて食べる。塩がきつめで「実においしいと思った」。物理学者の中谷宇吉郎のはお手伝いさん。「幼い頃のおこげのお握りのような温かく健やかな味」には「二度と出会ったことがない」と書いている▼人の手で直接握り、こしらえる不思議な料理。母の日である。カーネーションを用意する資金も怪しい少年少女に知恵を授けるとすれば、塩むすびはどうか▼具も海苔(のり)もおこげもいらぬ。小さな手に塩をつけて、力を込めて握ればよい。やけどには気をつけて。小さかった手が塩むすびを握れるほどに成長したことがお母さんにはおいしい味になる▼お母さんがいないのか。ならば、自分でほおばってみようか。ひょっとしたら、懐かしい味が口に広がるかもしれぬ。