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今日の筆洗

2016年05月19日 | Weblog

 <荒き手とやさしき手とを感じわける植物のように介護さるる身>。これは、十年前に八十八歳で逝った社会学者・鶴見和子さんが詠んだ歌だ▼鶴見さんは七十七歳の時に脳出血で倒れ、左半身がまひした。俳人・金子兜太さんとの対談をまとめた『米寿快談 俳句・短歌・いのち』で、彼女は介護について、こう語っている▼「荒っぽい手の人に介護されると、あとで足がとっても痛くて、夜眠れなくなるの。ところが男でも女でもやさしい手の人があるの。そういう人が介護してくれると安心して夜ぐっすり眠れるの」▼そういう大切な「手」が、「悩める手」になってしまっているという。介護の現場では、うつなど心を病む人が急増している。精神疾患になったとして労災を申請した介護職員は、二〇一四年度までの五年間で倍以上になった。全業種で最悪である▼介護職員の平均賃金は全産業の平均より月額で十万円ほど安い。待遇が悪いため人手不足が慢性化し、仕事はきつくなるばかり。「介護離職ゼロの実現」をうたう政府の「一億総活躍プラン」は、この悪循環を断ち切れるかどうか▼<萎(な)えたるは萎えたるままに美しく歩み納めむこの花道を>。これも、鶴見さんの歌。役者をしっかり支える黒子がいてこそ、人生最後の花道を、心おきなく歩める。黒子をないがしろにしていては、いい終幕も期待できまい。