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今日の筆洗

2016年05月09日 | Weblog

 空港の税関職員は米国から届いた物体を前に身構えた。「楽器」と記されているが、中には無数のつまみやコード穴のついた箱が並ぶ。実に怪しい▼受取人の男性は楽器という。「ならば音を出してください」。職員は求めるが、男性は「まだ、使い方が分からない」「これは電気的に音を変化させるもので、すぐに音は出せない」とおかしな説明をする。ますます怪しい▼届いたのは当時珍しかった大型シンセサイザーだった。一九七一年のこと。税関職員を説得する男性はやがてこの種の機械を使い米グラミー賞にノミネートされる作曲家、演奏家になる。亡くなった冨田勲さんである。八十四歳▼シンセサイザーを「新しい清涼飲料水の名か」と聞く人もいた時代。商業的な成功よりも新しい音を探す旅を選んだ冒険の人である。「こんな小舟でどこへ行こうというのか」。夢でそう叫ぶ日もあったというが、その流れは「世界のトミタ」につながっていた▼「ジャングル大帝」「リボンの騎士」や特撮の「キャプテンウルトラ」。その手による主題歌が宝物という世代がいる。NHK「きょうの料理」の軽快なテーマ曲に家族を想(おも)う人もいるだろう▼音の響きに興味を持ったきっかけは幼き日、故郷近くの鳳来寺山(愛知県新城市)の仏法僧(コノハズク)の声という。あの夏鳥も「挑戦者」を悼んで山々に声を響かせるか。

コノハズクの鳴き声