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今日の筆洗

2016年05月01日 | Weblog

 この「車掌」は能力優秀にして「鉄道」を一度も脱線させたことはなく、全員の「乗客」を「目的地」に連れていったという▼本物の鉄道ではない。十九世紀の米国の話。「鉄道」とは奴隷制廃止論者や自由黒人で組織された逃亡奴隷を援助するグループ「地下鉄道」やその経路を意味する隠語。「車掌」は南部奴隷州から北部自由州への逃亡を助ける人物で「乗客」は逃亡を図る奴隷のことである▼この「車掌」こそ黒人女性のハリエット・タブマン(一八二〇ごろ~一九一三年)。良いニュースである。米財務省は先日、新二十ドル紙幣にタブマンの肖像を採用すると発表した▼彼女の暗号名は旧約聖書の「出エジプト記」から「モーセ」。黒人には危険極まりなかった当時の南部に十九回潜入し、三百人を超える黒人奴隷を逃亡させた勇気の人である▼歌が上手だったそうだ。もっとも悠長な話ではなく、白人に分からないよう歌の内容で、逃亡方法や危険を仲間に伝えた。<イエスさまはあなたを導いてくださる>。農園の奴隷小屋の近くでタブマンがこう歌えば、「これから逃げる」の合図である▼白人に憎まれ、現在価値で二億円近い懸賞金が積まれた「顔」が二十ドル札の「顔」になる。歴史のいたずらめいた変化だが、用心深い、あの「車掌」のことである。黒人の差別問題には「まだまだ」と悲しく歌うことだろう。