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今日の筆洗

2016年05月04日 | Weblog

 物理学者、随筆家の寺田寅彦が一九三五(昭和十)年にちょっとした「予言」をしている。ある「声」について、やがて消えていくだろうと書いた▼「いつなくなったとも、わからないようにいつのまにか、なくなり忘れられる」「思い出す人さえもなくなって行くのだろう」。八十年前の「予言」はおおむね当たっている。消える「声」とは「物売りの声」である▼当時でさえ時代に合わなくなっていただろうから予言的中も当然か。なるほど時折、耳にするのは豆腐屋さんのラッパや竿竹(さおだけ)売り屋さん、焼き芋屋さんぐらいか。大半の「声」はとうに町から消えた▼売り声のあふれる江戸の昔から「声」だけ拝借できたなら夏も近いこの季節、聞こえてくるのは金魚売りや蚊帳売りか。威勢が良いのは初鰹(がつお)売り▼「カツオ、カツオ、カツオゥ」。<首夏の頃より鮮魚を選びて街に商ふ。その声高くいさぎよし>(東都歳事記)。今年もやはり漁獲量は少なめで値が張ると聞く。財布のひもを緩めさせるには、声はより高くなるか▼かつての物売り声は季節の変化を伝える大切な音でもあっただろう。はや真夏日を記録する列島である。町内を回る声は絶えたが高齢者は「その変化」に気づきにくいと聞けば、小欄が代わって声を張ることにする。<熱中症に用心さっしゃりましょう。室温確かめ、適度な水分補給を>と大声で。


宮田章司先生の売り声