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今日の筆洗

2016年05月26日 | Weblog

 一九六三(昭和三十八)年のカンヌ映画祭でルキノ・ビスコンティ監督の「山猫」とグランプリを争った仲代達矢さん主演の「切腹」(小林正樹監督)。語り継がれるのは、仲代さんの浪人と丹波哲郎さんの家臣との立ち回りシーンである▼寒けを感じるほどの緊張と迫力。そのはずである。二人が使っているのは本身(真剣)。通常は模造刀だが、小林監督は浪人の怒りを表現したいと本身にこだわったという。「命がけなので画面にはぎりぎりの緊迫感が出る。しかし、演じている方は怖かった」。仲代さんの回顧である▼もっとも仲代さんは本身を使うことを事前に知っていた。それを思えば、はるかに怖い「本身」の事故が起きた。陸上自衛隊北部方面総監部(札幌市)の演習場。隊員九人が襲撃役と援護役の二手に分かれ訓練を行った。使ったのはあろうことか、隊員の命を奪いかねない実弾である▼空包と誤って実弾が隊員に配布されていた。撃った実弾七十九発。軽傷二人で済んだのは奇跡である▼空包と実弾は形状の違いで見分けやすいという。加えて、訓練場所は実弾使用が禁止された区域だったと聞けば、いくつもの確認ミスを重ねた結果か。前代未聞の「同士打ち」の原因究明を急ぎたい▼演習場の名は然別(しかりべつ)。空包と実弾を「しっかり(区)別」とも聞こえてしまうが、笑えぬ。身の毛がよだつばかりである。