ファンタジアランドのアイデア

ファンタジアランドは、虚偽の世界です。この国のお話をしますが、真実だとは考えないでください。

小売業はAIと人間の機微で成果を上げる  アイデア広場 その797

2021-01-21 17:32:39 | 日記


 現代社会ではメディアとの接点は重要になります。人々がメディアに求めているものは、新しい情報や気分転換というものです。これにこたえるものとして、時事ニュース,消費行動の広告,娯楽,生活トレンドに影響するドラマなどあります。ビジネスは、人々が求める情報や気分転換を利用しようとします。たとえば、テレビコマーシャルを打つと、広告効果が生じます。テレビは、瞬間、瞬間の面白さを大事にするメディアです。分計というものがあって、一分間ごとの視聴率が出ます。視聴率が上がれば、これをさらに上げようとします。番組づくりの姿勢も、「いかにチャンネルを変えられずにすむか」が最大の目的になるようです。視聴率の低い番組は、途中で打ち切られる運命にあります。
 メディアは、当然のように大衆への見せ方に工夫に工夫を重ねてきています。テレビは、地上波とBSから1日数百の番組が流されています。テレビ局は、視聴率が高ければ放送を続け、低ければ打ち切ります。視聴者がなぜこの番組を見て、あの番組を見ないのかという理由の中に、次の商機があるように思えます。見たというデータと見なかったというデータは、金の卵のように見えます。見られた時の社会状況やSNSの動向は、貴重なデータになります。たとえば、韓流ドラマは、日本の女子高齢者の心を捕まえています。そのドラマの流れには、音楽にしても、筋立てにしても、女性を捉える仕掛けが潜んでいます。日本のドラマにも、ある年代の人々を捉える仕掛けを作り出してほしいものです。そのヒントが、音楽配信のデータにあるかもしれません。
 株式会社USENは、音楽配信事業で有名です。この会社は、店内放送やPOSレジを主力にしており、すでに約75万店舗の顧客を持っています。現在の店内放送のシステムは、客層に合わせて放送する場合、店舗側がその都度調整する必要がありました。システムが、事前に決めた楽曲を放送していたわけです。そのUSENが、来店客の年齢や性別に合わせた楽曲を自動で放送する店舗向けのシステムを開発したのです。人工知能(AI)を搭載したカメラで、客の年齢などを検知します。カメラと放送機器を無線通信で接続し、来店客に合わせて放送する楽曲を変えるのです。店舗側は、楽曲を調整する手間を省き、店舗運営を効率化できます。韓流ドラマは、クライマックスになると心を奮い立たせる曲がしばしば流れます。この音楽視聴者における客層のデータとドラマの筋立てを組み合わせれば、一つのヒントが生まれるかもしれません。
 音楽には、人を動かす力があります。人類は、音楽の機能を太古の昔から享受していまいした。音楽は、仕事の能率を上げたり、ストレスを発散したりする機能を持っています。仕事をテンポ良くやりたいときには、気分を高揚させる音楽を聴いた方が効率的です。長調でつくられた歌ならば幸福感をもたらし、短調の旋律であれば悲しくなります。作業を効率的に行う歌は、幸福感をもたらすものが望ましいようです。配偶者の選択には、幸福感が一つの要素になります。幸福感といえば、ドーパミンの分泌が必要不可欠です。これは人間だけでなく、小鳥たちの優れたさえずりが、求愛行動をもたらすことがよく知られています。ドラマの音楽には、これらの仕掛けを潜ませておくこともヒントになるかもしれません。さらに、深堀すると、悲しみの状態の時に、幸福に向かう状況をつくりだすと幸福感を一層高めるという経験則もあります。長調と短調の組み合わせも、重要な要素になるのかもしれません。プロの方は、当然のこととして取り入れていることでしょう。
 大手ディスカウントストアのトライアルホールディングス(トライアル)は、客の行動分析を進めています。トライアルはここ10年で店舗数、売上高とも倍以上に急成長している小売業です。小売業の購買データ分析で分かるのは、「いつ、何が、いくらで売れたか」というものが多くなります。でも、トライアルは買い物の客の購買プロセスまで観察するのです。どの商品を手に取り、戻したか、どの売り場に目を引かれて移動したかのプロセスを観察しているわけです。観察する「AIカメラ」の数は、688個になります。「AIカメラ」が店内のお客をくまなく観察し、この行動をデータ化していきます。
 入店したある親子が、「スマートカート」を手に取ります。普通のスーパーの買い物カートと違うのは、手元にタブレットとバーコードリーダーがついていることです。例えば牛肉のバーコードを読み取らせると、タブレットにビールの広告が出てきます。ビールと焼肉の相性をイメージさせるためでしょうか。このやり方が当たり、ビールのトライフル店舗でのシェアは、2017年比で5.4ポイント増えたといいます。「何を買ったか」だけでなく、「何に興味を持ったか」というところまで踏み込みこんでいます。小売業では、いつ、何がいくらで売れたかだけでなく、客のプロセスまでデータ化し、売れ筋を増やす工夫に余念がないようです。
 牛肉の画面に、ビールを写すタブレットの工夫をしていました。ここに、好みの音楽を加える仕掛けも可能でしょう。仕事をテンポ良くやりたいときには、気分を高揚させる音楽を聴いた方が能率はあがります。購買意欲が高い時には、その意欲を刺激する曲を流すことになります。イギリスのスーパーで行われたワイン売場での実験では、音楽が売上げに貢献することを示しました。フランス音楽を流したとき、ほとんどの人はフランスワインを買うのです。ドイツらしい音楽(ビアホール音楽)をかけると売れたのはほとんどがドイツワインだったそうです。面白いことに、その購買決定がBGMに影響されたことを購入者は、断固として否定したのです。知らないうちに、ワインを買っていたわけです。この方の購買意欲を高める曲が分かれば、タブレットにその曲を流せば良いことになります。ビックデータとAIによって、個々人の好みの音楽配信ができる環境は整いました。小売店では、これに映像を加味していく手法も可能になる下地は整いつつあるようです。
 余談ですが、コーヒーのコーヒー生産者は、アラビカ種の弱点を克服するために、ロブス夕種との交配を進めてきました。アラビカ種の品質は高いのですが、害虫や天候不順に弱いという欠点がありました。ロブスタ種は、逆に品質が低いが害虫や天候不順に強いという性質がありました。生産者は、これらの強さを統合した高品質な品種の開発を目指してきたわけです。その成果も、徐々に実現しつつあります。でも、ここに香りや美味しさだけなく、別の機能を高めることができれば、売り上げは高まるわけです。この発想は、人工知能やビッグデータと人間のプロフェッショナルとの融合ということになります。
 一流のプロフェッショナルは、相手の「言葉以外のメッセージ」を感じ取る力を持つようです。ある老夫婦が、飛行機の窓際に座っていました。その窓際には、若い女性の写真があったのです。客室乗務員は、窓際の写真に気づき、写真とともに旅をするご夫婦に感動しました。その客室乗務員は「窓際の方にも、おひとつどうぞ」という言葉とジュースを差し出したのです。もちろん、老夫婦は感激しました。窓際の方にも、おひとつどうぞという行動をとったところに、感性に根差したサービスのすばらしさがあるのです。人の思いに敏感であることは、サービス業の基本になります。定常状態では、AIやビッグデータが強い力を発揮します。でも、とっさの人間の機微をつかむ行動は洗練された人間に軍配が上がるようです。