アメリカ供給管理協会(ISM)は、アルミニウム、鉄、銅、が不足し価格が高騰していると指摘しています。輸入に関わっている知人も、最近の輸入価格の上昇には困ったものだと嘆いていました。その中でも、銅の値上がりは、今後の景気に上昇に水を差すとも述べていました。円安ドル高傾向の為替を反映し、銅の価格が過去最高値の1トン134万円にまで上昇したのです。2011年に瞬間的に110万円になった数日間がありました。でも、今回の銅の値上がりは、定着することになるという予想です。134万をつけた翌日には、119万円になりましたが、予想通り今までにない高値圏を推移しています。世界経済は、新型コロタウイルス禍で停滞していました。でも、ここに来て感染者の減少に伴い、世界経済が立ち直り、製造業の活動が上向いているのです。そのけん引する分野は、産業のベースメタルである銅を使用する企業になります。
銅は、電子部部品から自動車、航空機、そして電力など多くの分野で使われます。金属の中では、銀に次いで導電性、熱伝導性に優れているのです。価格が銀より安いために、電線、配線等の電線、電子や電気機械に使われています。銅は、電線などのように銅のまま使われることもあります。でも、他の金属と混合して使われることが多いのです。この混合した銅は、伸銅と呼ばれています。伸銅は、銅以外の金属を原料に混合して機能性を高めた銅金属になります。私たちの身の回りにあるものは、屋根、内外装等の建築材料、洋食器、装身具、ボルトナット等の日用品などに使われています。見えないところで活躍している物に、エアコン用鋼管等の電気機械部品、電装品等の自動車部品、楽器などに使われています。そして、現代の文明を支えるところで活躍しているものには、ICリードフレーム、コネクター、プリント回路基板、など産業の要で使われています。特に現在注目されているものが、電気自動車です。電気自動車は、ガソリン車の3倍から4倍の銅を使います。その電気自動車は、2020年の世界販売台数は300万台と前年比41%も増加しているのです。今後の脱炭素化を背景に、銅をますます消費する方向に向かっています。でも、銅の採掘には問題点も多いのです。
銅山の開発は、資源メジャーといわれる欧米の企業が行ってきました。メジャーは植民時代の権益を引き継いで、南米やアフリカの資源をわがものとしてきた歴史があります。鉱山開発における人権や児童労働問題は、1800年代には欧米では否定されました。でも、この否定された思想が、植民地支配の名残で21世紀でもおこなわれている現実がありました。もっとも、国際資源メジャーは、児童労働のような批判を受ける仕事で手を汚すようなことはしません。手を汚すのは、ジュニアといわれる探鉱会社と、地元の下請け企業になります。メジャーから鉱山を任されたジュニアは、毎年20%の資金や運用成績を求められるのです。毎年20%の資金運用成績を求められる中で、キレイ事だけではすまない現実があるわけです。資源開発には、児童労働、奴隷労働など、深刻な人権侵害の舞台ともなります。
このような鉱山開発事業に、中国が進出していきます。2005年、ザンビアに中国企業が進出した時、チャンビシ鉱山の人びとに歓迎されたものです。中国企業に雇われた2000人の鉱山労働者たちは、正規雇用の立場を得て喜んだのです。でも、喜びが失望に変わります。鉱山労働者が採掘現場で安全用具もブーツもなく、強制的に働かされるようになります。賃金は、チャンピシ鉱山では月100ドル程度でした。この当時、メジャーが採掘する
カッパーベルトにあるインド資本のコンコラ銅鉱山の給料は400ドルだったのです。カッパーベルトとは、ザンビア中部のカッパーベルト州からコンゴ民主共和国南部の上カタンガ州にかけて広がる銅山地帯をいいます。ある意味で、メジャーより過酷な労働に従事させられたわけです。だからと言って、メジャーがより倫理的であったわけでもありません。コンゴのカタンガ州の銅・コバルト鉱山で問題とされていることは、児童労働になります。子ども達は、地下25mの地下で鉱石を掘って、洗って袋詰めにして、ブローカーに売る作業をしたのです。手掘り鉱石を精錬してできたコバルトは、最終的にソニーやノキア、サムスンに売られたという経緯をたどります。蛇足ですが、現在ででは優良鉱山はほとんど掘りつくされ、銅の副産物としてコバルトがわずかに採掘されるという状況の鉱山が多いのです。たとえば6トンの銅を作るためには、1000トンの銅鉱石を掘る必要があります。
中国は1998年に日本を抜き、2002年に米国を上回って世界最大の銅の需要国になりました。13億人中の人口が生活用品や住宅需要などのため、まだまだ銅の消費量は伸び続けることは確実です。中国の1人当たり銅消費量は3.3kgになります。日本は13㎏を使い、アメリカは10㎏の銅を使っています。中国の生活水準を上げるには、銅の需要が今後とも必要とされるようです。レアメタル含む銅の資源開発はイギリス、オーストラリア、アメリカ、カナダ、スイス、ブラジル、中国が行っています。世界各地で、国際資源メジャーと、新興の中国による資源の争奪戦が行われています。ここにきてメジャーの敗色が濃くなりつつあります。そこでメジャーが打ち出した中国対策が、国連に働きかけることだったのです。中国企業の安全対策の水準は低く、また安全管理の意識も低いという現実がありました。中国にはより高い環境保護と労働安全基準を求めるよう、国連から指令を出してもらう案が出たわけです。この具体案が、SDGs(持続可能な開発目標)という形ででてきたともいえます。
世界情勢を語ることは楽しいのですが、目を日本に向けることも大切です。銅鉱山の開発には、多くの困難があることが分かりました。日本はこの開発に加わるべきか、それとも別の選択肢をとるべきなのかということになります。一つの選択肢は、リサイクルになります。銅地金は、毎年10万トンがスクラップになって出てきているのです。毎年10万トンがスクラップはまさに「都市鉱山」になります。残念なことですが、10万トンの内リサイクルされている銅は4万トンに過ぎないのです。6万トンの銅地金は、非常に貴重なものになります。日本で使用する銅は、年間97万トン程度です。大規模銅鉱山の鉱石の品位は、いまや0.6%の低さになっています。6万トンの銅を精錬するためには、銅鉱石を1000万トン掘る必要があります。さらに、銅鉱石1000万トン掘るためには、鉱脈周辺の鉱石にならない岩石も1000万トン以上掘って廃棄しなければならないのです。6万トンの銅を精錬するためには、合計で2 000万トン以上を掘削する計算となります。
アルミニウム缶からのアルミニウムのリサイクルは、非常に効率的です。鉱石からアルミ缶作る場合と回収アルミ缶から作る場合、エネルギーは4%で済む計算です。アルミニウム缶の分別収集から始まりますが、回収率は高く90%を超えています。回収の仕組みと意識のレベルアップッは、リサイクルの有用性を高めます。リサイクルは、毎年一定の割合で必ず排出されます。量を問題にしなければ、枯渇の心配のない優良鉱山に変身するのです。リサイクルは、つねに自然界の低品位鉱との価格競争になっていきます。銅の地金は、その意味でリサイクルに優位な資源になりつつあります。レアメタルのなかでも、ニッケルやコバルトは普通、銅の副産物として産出します。銅6万トンを取るために、2000万トンの岩石を掘ることになります。そして、掘った岩石を廃棄する時間と場所を必要とします。ニッケルやコバルトは採掘するときの環境破壊は、想像以上もものかります。大量の資源を運ぶため輸送距離が小さくなれば、物流コストの点からも経済合理性は高くなります。輸送距離が小さくなれば、二酸化炭素の発生量も大幅に減ります。6万トン銅のリサイクルは、温暖化を抑制する仕組みにも貢献することになります。
余談ですが、日本の銅の消費量は、97万トンです。これを10万トンのリサイクルだけで、賄う方法を考えてみました。日本の人口は、いずれ現在の半分の6000万人になります。すると50万トンで、間に合うことになります。さらに、コンパクトシティ化を推進して、自動車などの台数を極端に減らすことができれば、消費量を25万トンまで減らすことができそうです。あとの15万トンが、なかなかでてきません。こんなことを考えていると、いつかふと良いアイデアが出てくることがあります。