中国にある寧波港は、2021年上期に貨物取扱量が世界首位になりました。8月11日、この港にある有数の貨物取扱量を誇るターミナルが突然稼働を停止したのです。理由は、1人の新型コロナ感染によるものでした。34歳の港湾作業員が、新型コロナのデルタ型に感染していることがわかったのです。この作業員は、シノバック製のワクチンを2回接種していました。でも、感染してしまったわけです。1人感染者だけで、濃厚接触者254人に加え、濃厚接触し者と接触していた396人も隔離されることになりました。中国政府は、感染者をたった1人確認しただけで、重要なターミナル施設の操業を停止したわけです。中国にはどんなに難しくとも、全力で新型コロナの感染拡大を抑え込もうとしている意気込みがあるようです。一方、デルタ型を水際で食い止めることが、いかに困難であるかを改めて示した事例になります。
中国では、このほかにもいくつか感染が見られています。でも、港を閉鎖するとかして、その処置は素早く行っています。問題は、ターミナル施設が閉鎖されることによる物流の停滞と混乱なのです。中国における海上輸送の混乱は、いまだに収束していない実情があります。中国の港からアメリカへの輸送期間は、2020年8月には47日でした。2021年の現在は、70日前後に伸びているのです。港湾施設の運用が、コロナ侵入防止によって滞っていることが分かります。貨物輸送が遅れているだけでなく、今後も港湾施設が閉鎖されかねない懸念が西側諸国にあります。アメリカなどでは、クリスマス商戦に向けた在庫積み増し需要が発生し、高水準の物流の動きが続いているのです。在庫不足の影響もあり、クリスマス商戦に向けた調達の動きが例年よりも早まっています。海運の遅れが、欧米のクリスマス商戦にもしわ寄せが及びそうだと懸念する専門家もいます。クリスマスは、単にキリスト教の聖なる日というだけでなく、多くの国の小売業者にとって販売のピークシーズンになっています。クリスマスの経済性は、非常に重要なものがあるのです。アメリカでは、早ければ10月から「クリスマスショッピングシーズン」が始まります。
在庫の積み増しのために、海上輸送から航空貨物に切り替えて運ぶケースも見られるようになりました。2021年1~6月の日本発の航空貨物輸出量は、59万トンと前年同期比64%の増加をみました。6月単月では、10万トンと前年同月比93%増加し、7カ月連続で前年を上回っています。7月に入っても海上コンテナの貨物について、航空貨物を使って運ぶ事例が目立つようです。航空貨物の荷動きが増える中、運賃も高止まりしている状況があります。7月においても、日本発の航空貨物輸出量は、10万トンと前年同月比81%増えています。例年、航空貨物の輸送需要は、クリスマス商戦直前の9~11月に増える傾向があます。今年は、その傾向を前倒しで需要が急増しているともいえます。
どうして、中国の輸出港の閉鎖が、クリスマス商戦に悪影響を与えるのでしょうか。経済のグローバル化は、利潤の最大化を目指すことを目的としてきました。その中心地が、世界の製造業国の中国に集中しているためのようです。安い労働力と原材料を求めて、世界中にサプライチェーンが中国と結びつくようになってきました。効率化を求め、在庫を極限まで減らす経営が求められるようになりました。効率化を追求するジャストインタイム制が、中国にも普及しています。一部の部品が入らないために、完成品を作れないという事態にも各国が見舞われることも出てきています。サプライチェーンとジャストインタイムは、コロナショックではその欠点が露呈した形になっています。
この欠点を改善するヒントが、夜行性の動物とすり合わせの技術にあるようです。中生代は、2億5千万年前から6550万年前まで続いた時代で、三畳紀、ジュラ紀、白亜紀に分けられています。特に恐竜が出現して、ジュラ紀から白亜紀にかけて大繁栄した時期を恐竜の時代と呼んでいます。この恐竜の時代、われわれ噛乳類の祖先は、夜行性の小動物だったとされています。このケースで注目すべき点は、色覚なのです。この時代を含めて、魚類、爬虫類、鳥類の色覚は、4色型(青、赤、緑、紫外色)が基本でした。蛇足ですが、カラスは4色型で、人間よりはるかに色覚が発達しています。基本的に脊椎動物は4色型なのですが、人間の祖先である噛乳類は錐体を2種類失って2色型になったのです。噛乳類はいったん緑型と青 型をなくして2色型になったわけです。夜行性の小動物には、暗いところでは高度な色覚は必要ありませんでした。2色型のほうが良いという事例は昆虫を食べる時です。2色型は暗いところに行けば行くほど、昆虫取りに有利で、3倍近く効率が良かったのです。生存に必要な機能だけを、発達させ、残りは退化させたともいえます。
時代は、ホモサピエンスに進み、狩猟採集生活をしていた頃になります。リーダーが、狩りに赴くグループを編成する際に、投槍の名手や、勢子を加えることになります。狩りのグループを編成には、カモフラージュされた獲物を早く見つける人材が求められます。目が良い人材、つまり今で言う色覚異常(2色型)である人材を一緒につれていったわけです。カモフラージニしているものに対しては、2色型の能力を持つほうが役に立ちます。それぞれの得意な分野で、協力し合ったのです。みんなの力で狩りを成功させ、集団を繁栄させていったわけです。現代では、「3色型」が正常とされていますが、大部分の噛乳類では「2色型」が標準になっています。ジェンダーの時代を踏まえ、日本遺伝学会も方針を変えました。2017年日本遺伝学会は、色覚異常は異常ではなく多様性と捉えると発表しました。「優性・劣性」を「優劣ではない」という理由かから「顕性・潜性」としたのです。時代や状況が変われば、物事も変わります。日本の小集団による多品種少量生産で、需要に応える体制を整えることができます。
日本の国は、国民の要求や市場の要求にしっかりと応えてきました歴史があります。国民の要求応えてきた結果として、世界に類をみない社会の安定を獲得してきました。戦後、70年以上も戦争のない国は、珍しい存在です。1億人を擁する先進国で、犯罪がこれほど少ない国もありません。健康状態も、他国に比較して良好な状態を保っています。日本ほど資源のない国が、世界第三位のGDPを築き上げ国も少ないのです。それを成し遂げた原因に、すり合わせ技術があります。すり合わせ技術は、すでにあるものの組み合わせです。ヒト・モノ、カネにプラスして、時間・情報は経営資源といわれます。さらに、最近は「資源」をヒト・モノから踏み込んで、空間、構造、状況、変化なども資源になると考えられています。すり合わせ技術は、目新しいことば何ひとつないといってよいようです。得意な土俵(枠組み)つくり、競争の優位性を獲得すれば良いのです。日本は、鉄鉱石も石炭もないけど、優れた製鉄所を作り、優秀な鉄鋼を作り、輸出をして富を得ました。でも、鉄鉱石や石炭を効率的に運ぶ港を建設し、そこに製鉄所を作り、製鉄所を稼働させる人材を育てたことが、今の繁栄につなげてきました。
最後に、今は中国や韓国にお株を奪われていますが、まだまだ日本にはチャンスがあるようです。今中国は、コロナ禍により港湾施設の稼働がスムーズではありません。中国という輸出輸入の大国がこのような状態の時に、すり合わせの技術を持つ日本が登場してもおかしくはないでしょう。日本中にあるクリスマス在庫を、一気にアメリカに輸出することも考えられます。送った後に、日本で日本にあった正月クリスマス用品を開発し、作り出せばよいのです。クリスマスからお正月まで、1週間程度です。でも、この短期間の時間差を利用して、今ある製造機で、人材で、物流を使って、多様な資源を組み合わせて新しい製品や商品を作ってほしいものです。