ファンタジアランドのアイデア

ファンタジアランドは、虚偽の世界です。この国のお話をしますが、真実だとは考えないでください。

縄文のシンボル 総集編 二部   アイデア広場 その930

2021-06-25 16:49:21 | 日記
縄文のシンボル 総集編 二部   アイデア広場 


 第7話 桜町村の進化したイノシシ狩り     

狩りの当日、村には心地良い緊張が漂っていました。歓迎の猪狩りです。桜町村の若者達は、太郎や次郎の狩猟能力を知りたいと思いました。それで、二人に小三郎を含めて八人の若者を貸してくれたのです。桜町村の若者も十人です。同じ人数で争うわけです。
まだ太陽が上がらないうちに、桜町の若者は二手に分かれて進んでいきます。猪の住み家に近づいています。猪は夜行性と思われていますが、本当は昼間活動するのです。事前に確認してある巣を風下からゆっくり近づきます。一定の距離に来たとき、
「ウオー、ウオー・・・」
時の声を上げて、犬を放します。
「ブヒー・・ブッビー・・・」
猪の群れは四方八方に分かれて逃げだします。
「出てきたぞ!」
「あの大きな猪を追わせろ」
大物の猪を数匹の犬が追い始めます。
「ワン・・・ウー・ワンワン・・・・」
犬は執拗に追いかけます。一定の距離を置きながら若者も追いかけます。無目的に追っているわけではありません。三方が岩場で囲まれたところに追い込んでいるのです。そこで弓を構えた若者が、矢をつがえて待ち構えています。
「来たぞ、大物だ」
「射程に入った、打て!」
矢は的を外さずに次々に刺さります。でも、すぐには倒れないタフな猪です。犬がまわりを囲み、次々にかみついていきます。猪も弱り始めます。でも、最後の逆襲が怖いことをみんな知っています。細心の注意をしているのです。
「潮時だな」
桜町のリーダーが、石斧を持って猪に近づきます。猪も最後の機会を狙っているようです。若者も当然知っています。石斧を構えて、近づき、柄の届く距離に来たときに、素早く石斧を猪の眉間にたたき込みました。それが猪の最後でした。
「脚を縛れ、脚を上げて、頸動脈を切れ」
矢継ぎ早の指示を出して猪の処理をしていきます。処理した猪を、棒につけて四人で運びます。若者は、笑顔で村に帰ります。
太郎達のグループは、宮畑村の熟年組のやり方を採用しました。猪の巣の風上からゆっくり近づいていきます。匂いを知らせるのですから、猪は、危険な人間の接近を知ります。最もこの段階で、犬も吠えたり、勝手に走ったりしません。ゆっくり近づいていくので、猪のほうもゆっくり風下に移動します。風上から犬や人間の匂いが流れてきます。猪も距離感があるので、余裕があるようです。太郎が笛を出して「スー・・スー・・」と吹きます。人間には聞こえない音です。すると犬はスピードをほんの少し上げていきます。それほど明確に分かるほどのスピードではありません。風上から追うので、猪もそれは分かるようです。しばらくしてから、太郎が「スースー・・」笛を強めに吹きます。犬もこのときから「ワン・・・ワンワン・・」と吠え始めながら、追うようになりました。猪の群れも少し慌てながらも速度を上げます。その時、待機していた次郎が「「ピー・・・ピー・・・」と強く笛を吹きます。風下に待機していた犬の群れが鋭く猪の群れに襲いかかります。猪の群れは、風上と風下の両方向から襲われることになりました。風の流れから外れて、左の方向に急展開していきます。そこは、下り坂の斜面です。猪の群れは急いで斜面をくだります。その時、先頭の猪とその近くの数頭が、落とし穴に落ちました。小三郎から聞いた落とし穴の場所に猪を誘導し、罠にかけたのです。猪に傷を付けることなく、捕らえて、リリースする猪と殺処分する猪を選別しました。
太郎は、口笛で犬を操る熟年組の狩りをうらやましく思っていました。口笛には個人差があります。いわゆる個人の技能です。それを誰でもできる技術に発展させたかったのです。そこで、数匹の犬を同時に操る方法を考えていました。太郎はこの旅でシロとクロを犬笛で訓練することを思いつき、それを実験していたのです。宮畑犬は、狼の血を引いています。狩りには適性のある犬です。普通の縄文犬が、宮畑犬に従うことも、藤橋村や寺地村、長者ヶ原村で見てきました。各村のボス犬がすぐに従ったのは理由があることだったのです。犬笛で操る実験は一応成功したようです。
解体が始まりました。次郎が真っ先にしたことは、血抜きです。最初に膀胱や肛門周辺の処理をして次に取り出した臓器が胆のうでした。熊の胆のうと同じように薬効があります。知る人ぞ知る貴重な薬だったのです。死亡率が高かった縄文時代。特に消化器系の疾病で亡くなることが多かったのです。猪の胆のうは、腹痛や胃腸系の疾病に効き目がありました。この時代では貴重な薬であったことが分かります。宮畑ではこのことを熟知し、猪の胆のうの薬効を高める方法を開発していました。胆のうを乾燥させて使うのです。桜町の若者はまだそれを知らなかったようです。内臓を犬に惜しげもなく与えています。次郎は、胆のうをとってから別の部位を犬に与えました。その時、シロとクロは最初に美味しいところを食べます。桜町の縄文犬はそれを見ているのです。あるところでシロが「ワン・・ワン・・」というと縄文犬が安心して内臓に食いつき始めました。人間には階級差がないのですが、犬にはあったようです。
雪の深い季節になりました。長老には黒百合とヒメサユリという二人の孫がいます。ヒメサユリが急に腹痛を訴え苦しみ始めました。まわりの人達はどうすることもできません。呪術部長が、髪を振り乱してお祓いをしています。でも、効き目はでてきません。祈る部長にも疲れが出て来ているようです。
「次郎、猪の胆のうを!」
「はい、兄さん、これです」
太郎は、長老の家に行って、この薬を飲むようにすすめました。長老は呪術部長を見て、大丈夫かと目で問います。呪術部長は、肯定の合図を力なく送りました。他の手立てはないというシグナルです。長老は、太郎の薬を飲ませることを決断しました。黒百合が胆のうをヒメサユリの口に含ませます。苦さにむせりながらも十分に吸収したようです。
数日後、太郎と次郎にお礼を言っている黒百合とヒメサユリの姿がありました。
「この村では、猪の胆のうを利用しないでいたようです。物産部長に胃腸薬の特効薬として売り出してはどうか提案してみて下さい。作り方などのお手伝いはいつでもできますよ」
「お爺さんに、言っておくわ。不思議なくらい楽になったので驚いた」
「苦さがお腹の力を引き出すようなんだ。利く場合もあるし、利かない場合もあるよ。人には自分で病気を治す力があるようなんだ。この薬は、その人間の治そうとする力を助ける働きをもっていると思う。だから、自分で治そうと思う気持ちがお腹の力を引き出そうとする人には利き、治りたいと思わない人には利かないようだよ」
「そうなんだ」
次の日、物産部長が早速、太郎と次郎のところに来て猪の胆のうの件で相談に来ました。
「太郎、薬の作り方を教えるって本当か」
「はい、次郎がよく知っていますから。次郎、説明してやりなさい」
「部長は、猪の胆のうを物産として売り出したいわけですか」
「もちろん、出来ればすばらしいことだ」
「では、一般手順をお話しします。猪の捕獲、胆のうの取り出し、胆のう乾燥、使いやすさの工夫、保存、販売ルートの開拓、在庫を出来るだけ少なくする工夫などの工程があり、各部署に気の利いた人材を配置することが重要になります。薬の作り方だけでは、交易としての物産には育ちませんよ」
「なるほど」
「もしよければ、若者組の連中と話し合って、原案を作ってみましょうか」
「いいね、ぜひお願いするよ」
若者組を中心に猪の有効利用が始まりました。若い連中はアイデアが次々出てきます。
「猪を捕らえる場合、どうしても傷を付けてしまう。傷を付けないで、胆のうを取り出す方法はないかな!」
「それは、うり坊のときから飼育して一歳くらいで処理すれば、傷はつかないぞ」
「それは良い考えだ」
「猪の何歳くらいの時の胆のうが最も効き目があるのかな!」
「それを調べる価値はあるな。次から胆のうに猪の年齢を付記し、その薬効を買い手に聞く係を儲けよう」
「この村のものが毎年各村をまわり、薬を多く使う村、人などを調べれば、必要な量がわかり、在庫は増えず、利益は多くなると思うな!」
アイデアが出てくれば、それをやってみたくなるのが若者です。原案がまとめられて物産部長に届けられました。物産部長は、熟年の目で冷静な判断を下します。一気にではなく、徐々に事業の範囲を広げていくことを考えていました。その結果、この地域の薬産業は、休みなく発展しました。薬産業と個別販売は、後の「越中富山の薬売り」の基礎を築くことになったのです。


 第8話 真脇村のイルカ漁とシャチ狩り     

 長老から太郎と次郎に相談があると知らされたのは、イルカがやってくる季節でした。真脇村の長老から桜町村の長老に相談があったのです。
「太郎と次郎、お願いがある。真脇村からイルカ漁についての問題が起きていると連絡が入った。できれば、現地に行って様子を見てきてくれ。」
「はい、わかりました。真脇村は長い間、漁撈を主体に生計を立ててきたと聞いています。その村の高い文化を学んできます。」
「よろしく頼む」
次の日、二人は旅立ちました。黒百合とヒメサユリが見送りにきていました。
「早く帰ってきてね、ヒメサユリが待ってるよ、太郎」
「黒百合こそ、次郎を待っているいるくせに」
とヒメサユリ。若者は、顔を赤くしながら手を控えめに握り、真脇村に向かいました。
太郎と次郎は約二日をかけて真脇村に着きました。真脇村の長老と三役を前に太郎が挨拶します。
「私たちは、東北の玄関に当たる福島の宮畑村からやって参りました。太郎と次郎です。この真脇村の優れた文化を学ばせて下さい。お願いします」
「おまえ達二人の噂は、聞いている。寺地村と長者ヶ原村の調停のことは、私たちも感謝している。ところで、今この村でも困ったことが起きている。相談にのって欲しい」
「どんなことですか」
次郎が困惑しながら聞きます。
「詳しいことは、第一線で苦労している若者組のリーダーに聞いてくれ。今日は、歓迎の宴を設けよう」
「ありがとうございます」
長老と三役そして若者組のリーダー十史郎と太郎と次郎での宴会の席。
「こんなに美味しい海の幸は初めてです」
「海は多くのものをわしらに贈ってくれる。でも、略奪するものもいるんだ」
食物部長が深刻な表情で話します。
「北の寒い海には植物プランクトンが豊富だ。その植物プランクトンを食べに、動物性プランクトンや小魚が集まる。これらの魚が活発に活動している間、流氷に守られて小魚が順調に育つんだ。ある程度育った小魚を食べに南の魚が北上する。これらの大きな魚は、夏の間に豊富な小魚を腹一杯食べ、まるまる太り、秋になると産卵のために南に帰る。その肥えた魚を狙ってイルカがこの湾にやってくるんだ。そのイルカを適当に捕獲して我々の生活は成り立っている。」
「すばらしい生活ですね」
「ところがそのイルカが、海のギャングに食い荒らされるようになった。おかげでイルカは激減したうえ、この湾を避けるようになってしまったんだ」
「海のギャングって何ですか」
「シャチだ」
「シャチ?」
「どう猛な海の暴れものさ。自分より大きい鯨でもイルカでも何にでも食いついて殺してしまう。」
「以前と同じようにイルカが訪れる九十九湾にしたいと思っている。でも、シャチがここに現れる限りそれは難しいようだ。それで困っている」
「明日、イルカとシャチの様子を見せていただきたいのですが」
「十史郎、太郎と次郎を船に乗せて様子を見せてあげなさい」
「承知しました、じゃ明日、浜辺の舟で待ってます」
次の日、海は穏やかで、見通しのよい海辺の風景がありました。遠くにイルカの群れを見ることができました。一頭が遅れているようです。すると突然その遅れたイルカに黒い物体が覆い被さるようにぶつかります。イルカは逃げようとしますが、赤い血を出しながら動きをなくします。黒い物体は悠々とそこから去って行きます。この光景を見て太郎は、十史郎に聞きます。
「今のがシャチですか」
「そうだ」
「あれを捕まえることは出来ないのですか」
次郎がシャチの迫力を感じながら尋ねます。
「何度もやったが、刺した銛を振り落として、平然としているんだ。少しくらいの傷や出血ではびくともしない。何度やっても効果がない」
「銛はどんな形をしたものですか」
すると、一・八メートルの木の柄についた銛を見せてくれました。ヤスを大きくしたもので、刃先は鋭く十五センチメートルぐらいありました。でもこれでは刺した後、シャチが暴れればすぐに抜けてしまうと太郎は思いました。
「刺した後、抜けない工夫はしていないのですか」
「そんなことより、たくさんの銛をさして、殺す方法を考えていた」
「次郎、十史郎さんに離頭銛を見せてやりなさい」
次郎は、革袋から離頭銛を取り出します。鹿の角で作った試作品です。松島の里浜村が考案したと聞いたとき、二人で考えながら作ったものでした。原理は銛の先端が獲物に刺されば、刺さった部分だけ食い込んで残り、他の部分は離れて手元に戻り、食い込んだ部分には縄が結んであり、刺さった獲物を間違いなく追跡できるというものです。
「はい兄さん」
「作戦はこうです。この銛を銛用の棒に装着します。先端の銛には縄を結んでおきます。銛を打ち込んだら、縄を手で持って獲物の動きに任せて引っ張らせます。獲物は傷を負いながら二人を乗せた舟を引っ張るのでいずれ疲れます。弱ったところを石斧で急所を叩きます。ためしてみますか」
「そんなに簡単にできるんだろうか。ようし、明日シャチの捕獲に挑戦してみよう」
次の日、若者組の十名が十史郎をリーダーにして海に出ます。十史郎は次郎から貰った離頭銛を、自分の使い慣れた銛の棒に装着しています。舟は四艘。十史郎の舟には、村一番のこぎ手が乗ります。太郎と次郎は見学と言うことで、後方からの船出です。今日もイルカの群れを見ることができました。すると、イルカのむれに黒い物体がゆっくり近づいていきます。
「シャチだ、急げ」
シャチと舟の距離が近づきました。シャチは舟や人間を怖がりません。注意はイルカに向けられています。舟がイルカとシャチの間に入ります。シャチは邪魔されたと感じ、怒りのジャンプをしました。何度か繰り返して威圧行為を繰り返します。次のジャンプをしたときです。十史郎はシャチの柔らかい腹の部位に銛を打ち込みました。シャチは驚いて水中に沈み込みます。銛に結びつけてる縄がずるずると伸びます。伸びきったところで舟も勢いよく引っぱられます。ここからが我慢比べです。シャチもいつもと違うことに気づいたようです。いつもならこれぐらい動けば銛が外れるはずでした。でも外れないばかりか、負担が増えていくのです。勢いが弱くなりました。すると、人間が引っ張るのです。それに逆らって動くとさらに苦痛が増し、動きが鈍くなっていくようです。呼吸が苦しくなり、海面に浮かびます。すると銛が投げられてきます。再度海に潜ろうとしますが、以前の力はなくなっています。
「弱ったら、シャチを舟にひっぱってきてください。殺さないで、しばらく舟に縛っておくのです。シャチは、近くのシャチに知らせています。『ここは危険だと』」
太郎は十史郎に説明します。
シャチの捕獲を終えて真脇村の長老の家で、宴会が行われていました。
「よくあのシャチを捕らえられたな」
「十史郎の銛を扱う能力がすばらしかったとしか言いようがありません。海の動物を熟知しているからでしょう。あの我慢比べは、なかなかできないと聞いています。里浜村でも大型魚の捕獲を離頭銛で行いますが、縄を切られることはよくあるようです。最初からそれが出来るのは、そこにいたるまでの訓練ができていたからこそでしょう。この村の高い漁撈技術のたまものです」
太郎も成功に驚いているようです。しばらく、歓迎の宴が行われ、場が打ち融けた頃、長老が太郎のそばに来ました。
「ところで、二人が桜町村に来た理由は、うすうす気づいている。それを手に入れるのは難しいぞ。」
「ごぞんじでしたか。もちろん、門外不出の『秘密』をそう簡単に教えてくれる分けがありません。それは身に染みて感じています」
「私から言えることは、あの村の住人になり、長老の親族と結婚することだ。門外不出は一子相伝によって守られている。桜町村の長老が、今守っている。それからあとは、その子孫に引き継がれていくだろう。私から言えることは、ここまでだ。これがこの村がおまえ達に贈れる唯一のお礼だと思ってくれ」
「貴重なお話を本当にありがとうございました。お礼の言葉もありません」
太郎は深く頭を下げる。
「堅い話はそれくらいにして、酒だ、酒だ・・・」
次の日、太郎と次郎は真脇村の十史郎と別れの言葉を交わしています。
「世話になったな」
「こちらこそ、シャチは一頭だけでなく二頭、三頭とつないでおいた方が良い、彼らは人間の持たない通信手段を持っているようだ。それが危険信号を発し続ければ、近くに来ないだろう。イルカもその通信手段を持ってる。ここがシャチの来ない安全な場所と分かれば、イルカはここで骨休めを満喫するだろう」
「そんなこともあるのか。我々より海のことを知っているな」
「そうそう、あるところで聞いた話だが、イルカは増えすぎると集団自殺をするそうだ。大量の群れで陸に上がってしまうのだ。そんな意味でも、適当な捕獲は彼らにとっても、海の資源のバランスを取る意味でも良いことだ。イルカの捕獲と資源が枯渇しない持続可能な漁撈は、立派な文化だ。イルカの文化を学べたことは、本当の収穫だった。ありがとう」
太郎は海の文化を理解し、嬉しそうでした。
「また来いよ、次郎、今度は猪狩りを教えてくれ」
笑顔で分かれました。


 第9話 抜歯と婚姻関係     

太郎と次郎の滞在期間の期限も近づいてきました。でも、目的の『秘密』は分からないままです。太郎とヒメサユリそして次郎と黒百合は、話していて笑顔があふれ出てくる間柄になっていました。その間柄は、別れの期限が近づけば近づくほど濃密になってきました。
「桜町のガードは硬かった。今回はこのまま帰ろう。長老も許してくれるさ」
「兄さん、俺はこの村に残るよ、もう少しがんばってみたいんだ」
「残るって、残るにはあれしかないぞ。いいのか」
次郎は何かを決心したようでした。
約束の桜町村を離れる日が来ました。太郎と次郎は長老に別れの挨拶をすることになっていました。長老と孫の黒百合とヒメサユリもいます。その周りには、村人が太郎と次郎の挨拶を聞こうと集まっていました。太郎と次郎が来ました。その時、次郎は、手を高く掲げました。そこには白い小さな物がありました。それを見て村人は、
「あれは抜歯した歯だ。右上の犬歯を抜いているぞ」
「次郎は桜町村の住人になるぞ」
「この村の住人になる証の抜歯だ」
右上の犬歯を抜くことは、別の村の住人が、そこの村の住人になることを決心したことなのです。村人は歓声をあげます。次郎という有能な人材が、桜町村の住人になるのです。これからの村の繁栄は約束されたようなものです。堅果類の採集、猪などの狩り、そしてそれらに加えて薬の交易で有利に交渉する術をもっているのです。さらにたのもしいことには、近隣の村々から次郎が尊敬され、その能力が高く評価されている点でした。長老も笑みを浮かべ、歓迎をする態度を鷹揚に示した。心の中では
「これは少し困ったことになった!」
「次郎を得ることは、その代償として宮畑村にそれ以上のものを送らなければならないな。何があるだろう?」
縄文時代の人々は、物をもらえばそれ以上のものを返すことで、村全体の自尊心を満足させていたのです。今で言うポトラッチというものです。相応の物が返せないときは、極端な場合、自分の命まで差し出すこともありました。次郎という人材に相応するものは、門外不出の『秘密』しか今のところ思いつかない長老でした。その長老の苦渋を察した黒百合は、
「おじいさん、太郎はヒメサユリが好きなのよ。わかるでしょう」
門外不出の『秘密』を渡すことはできません。
「大切な孫の一人を宮畑にやることで納得してもらうしかない」
長老は決断をしました。
「次郎の申し出を快くこの村は受け入れる。」
長老が、声高らかに宣言しました。村人は再度、歓声を上げます。
「次郎の奥さんになれるかもしれない。」とある娘ッ子は希望を持ちました。
「次郎を受け入れる代わりに、太郎には私の二人の孫のどちらかをやろう。」
村の若者がざわつきます。ある若者は
「ヒメサユリを選ぶなよ」
「長女の黒百合を当然選ぶよ」
自分を納得させる若者もいます。若者の動揺が続きます。ヒメサユリは、太郎に目配せをします。
「ヒメサユリだ」
太郎は迷わず即答します。黒百合は、ほっとします。これで次郎は私のものだ。その確信は、確かにそのとおりになるのですが!
「太郎の希望を叶える、反対のものは意見を述べよ」
次郎の存在は大きく、太郎も村人に好かれていました。
「賛成、さあ祝宴だ、祝宴の準備だ」
「祝宴の用意を」
村人は、祝宴の準備に取りかかりました。盛大な入会の宴と送別の宴が同時に行われたのです。
数日後、太郎とヒメサユリとシロが桜町村を離れる日がやってきました。次郎と黒百合とクロが見送りに来ています。
「兄さん、決してあきらめるなと長老に言ってくれ。」
「うん、俺の希望だけがかなったな。申し訳ない」
「そんなことはないよ。ここでもう少し力をつければ、『秘密』を知ることができるかもしれない」
「無理をするな。人の努力だけでは出来ないこともある。それより黒百合と仲良くやってくれ。」
「兄さんもヒメサユリと仲良くな」
送られて、桜町村を離れます。


 第10話 帰り道の出来事     

寺地村の付近に二人が来たとき、
「太郎じゃないか」
漁撈に出ていた若者が声をかけます。
「水くさいぞ」
「急いでいたのでな」
「ここを素通りさせては長老に怒られる。長老に挨拶していってくれ。いいだろ」
「この村は居心地がいいからな、みんな元気かい。」
「こちらの娘さんは?」
「桜町村の長老の孫娘、ヒメサユリだ。宮畑に行ったら結婚する」
「おめでとう」
「ありがとう」
長老の住居に入ると、三人の重役と長老が笑顔で迎えてくれました。
「あの節はたいへんお世話になった。おかげで長者ヶ原村とこの村の交易地域が明確になり、交易の利益が以前にもまして増えている。争いもなくなり、みんな充実して自分の仕事に励んでいる。遊びの方もだ」
「良かったです。この地からとれるヒスイは、日本列島のどこの村でもほしがるものですから。特に呪術関係では不可欠の聖具となっています」
「姫川での採取も順調でな、以前より速く各地に供給出来るようになった。採石、原石加工、穴開け、磨きの分業化が進み、村人の技能もヒスイの品質も向上している。費用対効果も良くなり、村人は満足しているよ」
「四国や九州の需要を満たすことも大切ですよ。ヒスイには、神々の至福をまねき災害を抑える働きがあります。日本列島全てにヒスイが広がれば、大地が落ち着くことになります」
「ところで、太郎にヒスイを用意していた。受け取ってくれ。」
「本当ですか、二つも」
太郎はすぐにその一つのヒスイの大玉をヒメサユリの首に掛けてやりました。
二日後、太郎一行は寺地村の人達に見送られ旅立ちました。寺地村を離れて長者ヶ原村の付近に二人が来たとき、
「太郎じゃないか」
狩猟に出ていた若者が声をかけます。
「水くさいぞ」
「急いでいたのでな」
「ここを素通りさせては長老に怒られる。長老に挨拶していってくれ。いいだろ」
「この村は居心地がいいからな、みんな元気かい」
「こちらの娘さんは?」
「桜町村の長老の孫娘、ヒメサユリだ。宮畑に行ったら結婚する」
「おめでとう」
「ありがとう」
長老の住居に入ると、三人の重役と長老が笑顔で迎えてくれました。寺地村と同じような話をして、ここでもヒスイの大玉を二つ貰ってしまいました。
長者ヶ原村を離れて藤橋村の付近に二人が来たとき、
「太郎じゃないか」
狩猟に出ていた若者が声をかけます。
「水くさいぞ」
「急いでいたのでな」
「ここを素通りさせては長老に怒られる。長老に挨拶していってくれ。いいだろ」
「この村は居心地がいいからな、みんな元気かい。」
「こちらの娘さんは?」
「桜町村の長老の孫娘、ヒメサユリだ。宮畑に行ったら結婚する」
「おめでとう」
「ありがとう」
長老の住居に入ると、三人の重役と長老が笑顔で迎えてくれました。長老は、ヒメサユリのヒスイの大玉を凝視しました。
「また思いっ切った大玉を贈ってくれたものだな。太郎、そのヒスイはな「女神の滴」と言われ百年に一つ取れるかとれない石なんだぞ。」
「本当ですか」
「この村でもいくつか用意していたが、それを見ては贈れるヒスイはなくなった」
「いや、十分いただきましたので、他の村に回してください」
「宮畑村がヒスイを希望したとき、真っ先に贈ることを約束しよう。その約束が藤橋村の贈り物だ」
「ありがとうございます」
「それはそうと、トンボそりを使うようになってから、妊婦の安産が増え、出産率が良くなったよ」
「女性が重い物を持って長い距離歩くと骨盤が変形するんです。骨盤の変形は、出産する子どもにも良くないし、妊婦への負担が大きくなります。この負担が、妊婦や新生児の死亡する原因になるんです」
「最初、わしも楽に働く女性の姿を見て、怠け癖がつくのではないかと心配した。でも結果は、村全体に活気が出てきたし、生産力も上昇している」
「宮畑村では早くからそのことに気がついて、女性の労働軽減対策が進んでいたのです。人口の増加が、村の繁栄を約束するものという村の方針があるのです」
「いや、本当にありがとう。今日は祝いをしたいので、ゆっくりくつろいでいってくれ」
「ありがとうございます」


 第11話 門外不出の秘密が明らかに     

 太郎は長老の家にいます。
「門外不出の『秘密』は教えて貰えませんでした。申し訳ありません」
「そう落ち込むな、貴重なヒスイを四つも手に入れて、これ以上の成果を望むのは欲張りというものだ。それにしても、桜町村の長老の孫娘を嫁に出来るとは望外なことだった」
「ヒスイはどうしますか」
物産部長が貴重品の取り扱いを心配しています。
「これだけのヒスイがあれば、どんな交易でも可能です。たとえ、十年分のドングリでも、白滝の黒曜石でも思いのままです」
「まず、呪術部長のおばばにヒスイを。あとは何かの時に使おう」
長老からヒスイの大玉を首にかけられたとき、おばばは心地良い未来を感じたような気
がしました。それは、ヒメサユリの大玉と共振してできた波のような感じのものでした。
六月の夏至の頃、ヒメサユリは、太郎の子を妊娠したことを知りました。長老と呪術部長のおばばが深刻な話をしています。
「この村には確実に悪い兆候が出てきている。悪い兆候を助長する気配とそれを阻止する気配が感じられます」
「もっと確実なことはわからないのか」
「今の私の能力ではここまでです。ただ、冬至のころになればより明確になります」
「待つしかないか」
冬至から一ヶ月後、ヒメサユリは、太郎の子の小太郎を産みました。
「太郎、長老に話したいことがあるので、案内してください」
ヒメサユリは、小太郎を抱いて言いました。
長老の家でヒメサユリが話しています。呪術部長のおばばも真剣にその話に聞き入っています。
「桜町村の長老の血を引く男子が生まれれば、門外不出の『秘密』をその子どもに伝えても良いことになっています。小太郎はその後継者になります。私は今心配しています。それはこの土地が、徐々に神々からの加護を受けにくい場所になりつつあることです」
おばばは、そのとおりだとうなずきます。
「どうしてそんなことがわかる」
「太郎が何のために私の村に来たのか、察しがつけば簡単なことです。おばばが私を見て、ほっとしたことを私も気がつきました。この村に来た瞬間から」
「そうか、分かって来てくれたのか」
「小太郎が大人になるまで待てない、切迫した状況です。この際、前倒しで『秘密』をお話しします。そして、早急に神々の協力を得られる体制を作ってください。桜町村の『秘密』は、地下の神と地上の神と天の神を協調させて、土地の豊饒を加護して貰うものです。そのためには地下と地上と天を結ぶ大きな木を立てなければなりません。地下深くそして天高く木を立てて、地下から地上へ、そして天へと『気』の流れを円滑にするのです。」
「なぜ『気』を流すのだ」
「『気』が地下にたまりすぎれば、地震が起き火山が爆発します。地上に『気』がたまれば、虫の異常な発生で作物は枯れ、動物は少なくなり、魚は捕れなくなります。天に『気』がたまれば、異常気象になり、巨大台風や豪雨が頻繁に起こるようになります。」
「それらの災害が少しずつだが、増えてきて困っている。具体的にどうすればよいのか」
「四本の巨木を東西南北に等間隔で立てます。これは『言うは易く行うは難し』です。」
「確かに難しいが、やらなければ宮畑村が衰退するというのではやらなければならない。巨木というとどれくらいの木になるのかな」
「直径九十センチメートル、高さが六メートル以上の栗の木です。余裕を持たせて九十二センチメートルの六メートル五十センチメートルぐらいあったほうが良いと思います」
「それくらいの木であれば、宮畑村の近くに十数本はある。しかし、あることはあるが、伐って運ぶとなると一大事業になるぞ。おそらく重さは三トン、一人五十キログラムを動かすとして六十人。道のない道を運ぶとなると、百人でも難しい作業だ」
「この四本の巨木を立てる場合、技術的課題が二つあります。その巨木を伐った場所から宮畑村に運ぶこと。もう一つは、四本の柱を立て、その上で四本を安定した状態に保つことです。この二つが門外不出の『秘密』の核心です」
「考えれば、考えるほど出来ないと思ってしまう」
「まず運ぶ方法ですが、コロやテコを使います。そして、これが大事なことですが、木を運ぶときに、全員で引っ張れるように縄を通すことのできる『貫穴』を掘ることです。」
「コロやテコって」
「丸太を三十本ぐらい並べます。その上に巨木を載せて引っ張るのです。それでも動かないときは、テコの力で動かすのです」
「丸太の上を動かすのは分かるような気がするが、テコというのはどんなものかな」
「ここに三・六メートルの棒がありますね。私は二・四メートル、長老は一・二メートルを支点として、どちらが先に押し下げることができるかやってみましょう。」
「用意ドン」
ヒメサユリが長老を持ち上げてしまう。
「テコは何となく分かったが、『貫穴』って」
「直径九十センチメートルの木に直径十五センチメートルの穴を開けるのです。」
「木に穴を開けるなんて、石斧で出来るのか。九十センチメートルの長さのある石斧なんて使ったことがないぞ。それに重くて持てないよ」
「六メートルの木材、余裕を持って約六・五メートルの長さに木を伐ります。十分に乾燥させて三・八メートルと四・二メートルの所に穴を通します。貫穴と言うものです」
「なぜ乾燥させるのだ」
「まず木の精の活動が弱まる秋から冬にかけて、四本の木を伐ります。木を伐採した後は、枝や葉を落とさずに二~三ヶ月放置しておきます」
「なんで枝や葉を付けたままにして放置する必要があるんだ」
「枝や葉は木の蒸散を促し、水分を抜くことを助けます。木の含水量が減るため、乾燥が促進されるのです。伐採した木材を長く放置しておくと、それ以上乾燥しない状態になります。」
「どうして、乾燥をそこまでさせるのかが分からない」
「この状態になると含水量が安定し、木材は変形しない状態になるのです。この状態になったら、枝葉を刈り取ります。一本の丸太にするわけです」
「先ほどからの疑問だが、どんな工夫をして穴を開けるのだ」
「穴の開け方ですが、最初は穴を開ける場所を、石斧で掘ります。穴は直径十五センチメートル程度で、深さは十センチメートル程度掘ります。その後は、そこの穴に砂を少し入れます。その穴に直径十五センチメートルの丸太を入れて転がします。これにはかなりの時間をかけて転がしていきます。
「そんなことで穴が開くのか」
「火をおこす場合、木の棒を木の板に押しつけて手もみで回しますね。それと同じです。もっと慣れると、弓の弦に棒を巻き付けて弓を左右に引くだけで火がおきます。その時火がつく板はへこんでいきますね。同じ原理で、木の棒を穴に立てて砂を少しまいて転がします。砂がヤスリの役割を果たしながら穴を削っていくのです。それが最終的に直径十五センチメートルの『貫穴』になります。」
「そんなこことが可能なのか」
「不思議に思いませんでしたか?あの硬いヒスイにどうして穴を開けたのかを!」
「それがわからない。どうやっても、傷さえ付けられなかったけど」
「あの穴は竹の細い棒を小さな弓の弦に巻いて左右に回して開けるのです。とても根気のいる作業です。当然竹の先に粉のような硬砂をおいて回転させます。それを延々と続けるのです」
「どうして、そんなことがわかるのだ。ヒスイの穴の開け方など絶対の秘密だろう」
「巨木の性質を教えることで、このような情報を桜町村は得ているのです。でも今私たちがやっている巨木の立て方は、寺地村や真脇村とは違う本格的なものです。」
「どんな風に違うのだ」
「巨木を立てる村は、チカモリ村、真脇村、寺地村などがあります。ウッドサークルといわれているものです。これらは円なのです」
「円と四角はどう違うのか」
違いは明らかだが、頭がこんがらかった長老は、何を聞きたいのか、何を言っているのか分からないほど混乱の極地に達していました。
「東西南北は、世の中の全てをカバーしています。それは、地下も地上も天も全てを包含しているのです」
「何となく分かったことにしよう」
「乾燥した木の正確な位置、三・八メートルと四・二メートルmの場所に穴を開ける作業を夏過ぎごろに始めます。もう一つは、四本の巨木を切る場所から村に通じる場所までの間で出来るだけたくさんの薪を取って欲しいのです。」
「どうしてそんなことをする!」
「木を運ぶ道を作るのです。薪を伐れば、土地は見通しが良くなります。雑木林に木がなければ、土地は平らになり運びやすくなります。一年近く村の人達が行ったり、来たりすれば巨木を運びやすい道になります。」
「なるほど、考えているね」
「それから、四本の木を立てる深さ二メートルの穴は、手の空いている人に掘っておいてもらいます。貯蔵穴を掘ったことのある経験者なら、深さ二メートルで直径九十センチメートルの穴の四つぐらいは容易に掘れるでしょう。最も、深さ二メートルの穴は垂直ではなく、柱が立てやすいように工夫が必要です。太郎をリーダーにして作業を行わせて下さい」
「わかった、太郎に一任しよう」

 第12話 宮畑村の大団円     

巨木が乾燥し、安定した状態になったころ、『貫穴』の作業に入りました。巨木は地面から九十センチメートルの高さがあります。その高さまで、四平方メートルの範囲の面積に土を盛ります。その土の上で直径十五センチメートル丸太を回転させる作業を行うのです。回転させる丸太の上部は、三叉になっています。その三叉の部分に棒を一本渡して固定します。渡した棒の両端を二人で持って回転していきます。回転させる棒を安定させるために二人が回転する人の邪魔にならない範囲で、二本の二股の棒で支えます。四人一組で一時間交替で四組が行います。一時間で四センチメートルほど掘れる作業になります。一本に一つの貫穴を貫き通すのに五日間かかりました。四時間の超過労働は宮畑村の若者にはきつい作業でした。でも、神様達が仲良くするには、やりがいのある作業だと思い働いたようです。結果として、四本に二つの貫穴を開ける作業を四十日で完成することができました。
次は、難問と考えられていた運搬です。運ぶ道はほぼ作られていました。貫穴に縄を通します。藤のツタが丁寧に綯われて三十メートルもの縄が作られました。次に巨木の下に四つ穴を掘り、そこに木を埋めて、埋めた木を支点にして四本のテコの棒を入れます。大きなかけ声と同時にテコの棒を下げます。と同時に巨木が持ち上がり、コロ用に敷かれた丸太の上に移っていきます。もちろん、綱を持った人達がその動きを助けます。
「やったー・・・やったぞ・・・」
大歓声です。
三十本のコロが、巨木を楽々と動かします。引き手の息の合った歌声とともにゆっくり移動を始めます。
「大きな丸太やってきた、こうれでムーラは安泰だ
ヨーイヨーイヨーイヨーイ
後ろのヤーマは遠ざかる、前のムーラは近くなる
ヨーイヨーイヨーイヨーイ
遠くの声は見目麗しい、近くの者は見目麗しい
ヨーイヨーイヨーイヨーイ
カーミ様は仲良しだ、こうれでムーラは安泰だ
ヨーイヨーイヨーイヨーイ
後ろのヤーマは遠ざかる、前のムーラは近くなる
ヨーイヨーイヨーイヨーイ
遠くの声は見目麗しい、近くの者は見目麗しい
ヨーイヨーイヨーイヨーイ・・・・・・」

巨木がコロの前に移動するたびに、後ろのコロを前に運ぶ係、歌をリードしながら引き手を鼓舞する係、村人の気持ちが一つになった瞬間でした。こうして四本の巨木が運ばれてきました。
すでに巨木を差し込む穴は掘られていました。丸太を固定する床面はたたき板や槌で十分に固められています。固める作業が、掘る作業より苦労したとも言えます。三トンの重さを支える床面の強度を高める作業です。このような固める作業を、宮畑の人達はやったことがないのです。でも、それを何ヶ月も前から行ったため、床面は固く、湿気のない状態を保っていました。
しかし、三トンの木を持ち上げて穴に入れる事は出来ません。そのため穴は斜めに掘られていました。地下の垂直部分は二メートルに掘られています。でも、垂直部分までに掘ってある斜めの距離は四メートルです。六メートルの巨木を斜めに入れていきます。地下部分に四メートルが入り二メートルの部分が地上部に出ています。四メートル二十センチメートルの場所に貫穴あり、そこに縄を入れてみんなでここまで引っ張ってきたわけです。今度は引っ張る作業から立てる作業になります。
みんなが力を合わせて十センチメートル以上引き上げます。上げたところに二股の木を入れて支えます。二股で支えたところを起点に更に、十センチメートル以上引き上げ、別の二股で支えます。このようにみんなの力で十センチメートル以上引き上げます。そして二股で支えるという作業を繰り返していくのです。
一本の木が垂直に立てられました。斜面に土が入れられ巨木は地下に二メートル、地上に四メートルという姿を現しました。同じような作業が続きます。対角にもう一本が立ち、次は平行に立てられます。四本の柱が立ったところで、縄がほどかれます。それから、貫穴に長さ二メートル二十センチメートル、直径十四センチメートルの丸太が四本入れられました。緩い隙間には、木が埋め込まれ四本の柱を堅く結びつけ、支え合います。土が入れられて、完成です。
これで神様の意思疎通は完璧です。人間に優しい環境がもたらされると宮畑村の人達は、縄文のシンボルを見上げ続けました。

追伸
桜町村の薬産業は、発展していました。若者のアイデアは、尽きることなく湧き出てきました。一つだけ現代につながるものがあります。桜町村と真脇村で伝書鳩を飼育したのです。真脇村で突然の腹痛を訴えた病人が出たときに、伝書鳩で桜町村に知らせます。すると桜町村は猪の胆のうを五グラム伝書鳩につけて送りました。現代で言うドローンの先駆けです。人間の考えることは、数千年経っても変わらないものですね。
そうそうもう一つ大事なことがありました。次郎と黒百合は当然のように結婚しました。次郎は物産部長にはついたのですが、自分のペースで働いたり遊んだりと幸せに過ごしたようです。


参考文献
縄文のかたちとこころ 小林達雄 毎日新聞社 
信州の縄文早期の世界 藤森英二 新泉社 
縄文のイエとムラの風景 高田和徳 新泉社 
縄文の社会構造をのぞく 堀越正行 新泉社 
生と死の考古学 縄文時代の死生観 東洋書店 
縄文美術館 小野正文 他 平凡社 
桜町遺跡 小矢部市教育委員会 他  
イノシシと人間 高橋春成 古今書院 
ぼくは猟師になった 千松信也 リトルモア 
宮畑遺蹟 齋藤義弘 同成社 



縄文のシンボル 総集編 一部   アイデア広場 その929

2021-06-25 16:47:42 | 日記
縄文のシンボル 総集編 一部   


 第1話 宮畑村の猪コンテスト     

時は縄文土器編年でいうところの大洞Bの初め、寒冷化に向かう時代でした。場所は、現在の福島県福島市の東側に位置する阿武隈川と阿武隈山系に挟まれた宮畑と呼ばれる集落です。当時は宮畑村といわれていました。縄文晩期は、衰退の時期でもありました。気候の寒冷化にともない、植生の変化が徐々に現れていました。主食のドングリにも変化が起きていました。アクの少ないイチイガシなどが減少し、一方、アクの多いコナラやミズナラなどが増えてきました。そのため、主食のドングリ料理にはアク抜きの手間が大幅に増えました。でも、宮畑の人達は、知恵と努力でこの衰退という課題に立ち向かっていました。他の村が少子高齢化に悩み生産性を落としているなか、生産の効率化と交易物産の開発や人口増加にも工夫を凝らした先進的村民行政を行っていました。ドングリを主体とした食料の充実、酒造生産の余裕、装飾も充実していました。赤と黒の服を着こなし、趣味に没頭できる生活環境を作り上げたのでした。
 折しも、宮畑では、若者組と熟年組で猪狩りのコンテストが行われています。
「このコンテストは、狩りの技術向上のために行うものです。もちろん、猪の肉は、我々のタンパク源として大切です。熟年組には、酒も十分に用意してあります。手を抜かず最善をつくすことを祈ります」
食物部長の競技宣言となります。
「猪の肉は美味しく、私たちの血となり肉となります、牙は大切な交易物産です。健闘を祈ります」
物産部長の祝辞が述べられました。
猪は、一寸した隙にドングリを食べ尽くしてしまいます。それを防ぐために猪の数を減らしておく必要があるのです。もちろん、ドングリの採集場所から追い払い、ドングリを守っておくことも大切な狙いになります。猪に捕獲圧をかけて、宮畑村民の食物であるドングリを確保する必要があったのです。
 日の出少し前、若者組は二手に分かれて、猪の住み家に近づいています。猪は有蹄類には珍しく、巣を作るのです。体温調節のできない動物で、寒さに弱い特徴を持っています。ススキなどの草を集めて屋根のある巣の中で過ごしています。その巣を事前に見つけている若者組は、風下からゆっくり巣を半円形に囲みます。一定の距離に来たとき、
「ウオー、ウオー・・・行け!」
と時の声を上げて、犬を放します。
「ブヒー・・ブッビー・・・」
と猪の群れは風上に逃げます。
「出てきたぞ!」
「慌てるな」
「散らすなよ」
と若者組は、一定の距離をおいて追いかけます。猪の群れを緩く囲み、その輪を狭めながら追いかけていきます。ボス猪を先頭に群れが必至に逃げます。犬は執拗に追いかけます。若者組の一方は、猪の逃げる方向の木の上で待ち構えています。弓に矢をつがえ、五人が犬の声を聞きながら猪が近づいて来るのを見て取ります。前方に、猪の群れが見えてきました。
「来たぞ、先頭の猪を狙え、まだ、まだ」
若者組の副リーダー次郎が叫びます。五人は無言で弓を引き絞ります。射程距離に入ったとき
「打て」
号サインで五本の矢は、先頭の大きな猪に命中。他の猪は逃げていきます。それにはかまわず、一頭の猪に注意を集中します。矢が当たっても、すぐには倒れません。その間に追ってきた犬たちが、猪に襲いかかります。徐々に抵抗する力をなくし、猪が弱っていきます。その状況を潮時と判断し、リーダーの太郎が、石斧を獲物の眉間に正確に打ち込み、とどめを刺しました。
「やったな兄さん、大物だぜ」
「ウーン、このやり方で良かったのか・・・・」
太郎にはなぜか、喜びの気持ちがでてきません。
「獲物の脚を藤の綱で結べ」
「棒につるしたら、それから血抜きだ」
血抜きが終わり、棒につるされた猪を運ぶだけになります。
「じゃ、四人で運ぼうぜ。九十キログラムはあるな、近来まれに見る大物だ。勝利は当然若い僕らのものですね」
笑顔溢れる若者組です。
 熟年組の狩りは、変わっていました。ヌタ場(猪の泥遊びをする場所)の風上からゆっくり近づいていくのです。匂いを知らせるのですから、狩りには不利なはずです。当然猪は、危険な人間の接近を知ることになります。もちろん、犬も一緒ですが吠えたり、抜け駆けをしたりしません。
「ゆっくり行こうぜ」
群れに悠然と近づいていくので、猪のほうもゆっくり風下に移動します。風上からの犬や人間の匂いが明瞭に漂ってきます。猪も距離感があるので、余裕があります。ある程度追跡した時点から追っ手や犬のスピードをほんの少し上げていきます。それほど明確に分かるほどのスピードではありません。風上から追うので、猪もそれは分かるようです。しばらくしてから、追っ手はもう少しスピードを上げてきました。犬もこのときから
「ワン・・・ワンワン・・」
控えめに吠え始めました。猪もそれに合わせて速度を上げます。その時、熟年組のリーダーが鋭く口笛を吹きました。
「ピー・・・ピー・・・」
この合図を今か今かと待っていたかのように風下に待機していた犬の群れが素早く猪の群れに襲いかかります。猪の群れは、風上と風下の両方向から襲われることになりました。風の流れから外れて、右へ方向転換していきます。そこは、下り坂の斜面です。猪の群れは急いで斜面をくだります。その時、先頭の猪とその近くの数頭が、急に視界から消えてしまいました。残りの猪は、それにかまわず斜面を走り去っていきました。消えた猪はどうしたのでしょうか。落とし穴に落ちたのです。この斜面には二十ほどの落とし穴があります。通常は、猪も注意して落ちません。今回は犬に追われるという突発的事態に加えて、進路を妨害され、逃げることに気持ちが集中し、落とし穴まで気が回らなかったのです。それにしても、口笛で犬を操る熟年組の狩りの能力は相当なものです。
 落とし穴に落ちた猪は、動けなくなっています。
「ブヒー・・ブビー・ブヒー・・ブビー・・・」
自由に動けずいらだっているようです。穴に敷いた木の棒が邪魔をして動きが封じられています。ベトナム戦争のように、落とし穴に槍や尖った木が刺さっているわけではありません。猪に傷を付けないようにし、かつ動きを封じる工夫がしてあるのです。
「4頭、捕獲できましたよ」
「これは雌です。雌は来年ウリボウを育てますから、今回はリリースしましょう。」
「こちらの二頭はまだ若すぎるようです。もう少し大きくなってからの獲物ですね。これもリリースします」
「これは良い面構えですね、老獣の部類でしょう。これを獲物としてよいですね。みなさん」
「賛成」
「それでは血抜きをします」
「はい、後ろ脚を持ち上げて逆さにしますよ。注意して」
「逆さにしたら黒曜石のナイフで頸動脈を切断しください」
血がある程度出ると、腹を割き、内蔵を取り出します。
「内蔵は犬にやりましょう」
「ほら、ご褒美だ。よくやった」
犬達は、あたえられた新鮮な内蔵に食らいつき、一足早くごちそうにありつきます。
「膀胱と肛門の処理は丁寧にしてください。匂いがつくと品質が落ちますよ」
処理をした猪を、そりにのせて運びます。持つよりも、引く方が楽なのです。肉も傷めません。
 宮畑村に、若者組の猪と熟年組の猪が運ばれてきました。審査員は、長老、食物部長、物産部長、呪術部長の4名です。
「品質に問題がありますね、若者組の猪は」
「そうですね、猪は大きいのですが、肉を傷めすぎていますね。肉の品質低下が明らかです」
「熟年組は、さすがに手際がいいですね。」
「資源の確保と動物保護の相反する思想を両立させていますね。縄文人の鏡ですよ」
「雌は、次の世代の猪を育てる種子のような存在です。種子を食べつくせば、次の収穫はゼロになってしまいます。その辺のことを良く心得ていて、次世代に繋がる猪をリリースする判断は高く評価できます」
「若い猪も、次の世代をつくる主役ですからね。」
「しかし、若者組も乱獲をしない点は評価できます」
「そうです。もう一頭ぐらいには、矢を放つスキルは持っている連中ですよ」
「ドングリの採集場所から猪を遠ざけるという意味では、おおいに成功といえますね。」
「そうです、若者組のやり方は、若い猪に恐怖感をあたえています。人間に対する恐怖感を植え付けましたね。捕獲圧の目的を十分に果たしている点では評価できます。」
長老と三役の身勝手な話し合いの結果、
「今回のコンテストは、熟年組に軍配をあげます。若者組は、熟年組のスキルや資源保護の思想を身につけるように希望します。今回の反省を含めて、一層の精進をお願いします」
長老がコンテストの総括を素早く述べました。この後、猪のバーベキューなどで村民の宴会は盛り上がりました。


 第2話 宮畑村の生産様式     

ところで時間はさかのぼりますが、猪狩りコンテストの一週間前のことです。全村民を前に今年度の中間事業報告がされていました。
食物部長が、今年の中間事業報告をしています。
「皆さんもご承知のように、宮畑村民六十名に必要な食物は、年間六十トンのドングリです。肉は、猪に換算して四十八頭、油は鬼ぐるみなどの実から取れる二百キログラム、野菜は、ツクシ、ノビル、ワラビ、ゼンマイ、その他で一・五トンが必要になります。例年主要産物であるドングリは、村民六十人が十日間働く集中的集約労働で収穫してきました。猪は、男衆が一ヶ月に二頭の捕獲体制で余裕をもって確保してきました。野菜については春、夏、秋は季節の葉物の採集で十分に間に合っています。しかし、冬の野菜については、塩漬けなどの保存食になります。これには塩の使用量が大幅に増加し、塩の調達に工夫が求められています。このことについては、後で物産部長の方から報告があります・・・」
物産部長が報告を始めます。
「宮畑特産の骨製縫い針に、各村々から強い要望がきています。皆さんもご存じのように、赤と黒の服にカワウソの毛皮をアクセントとして縫い付けることが流行しています。このカワウソの皮を張り付けるときに、鋭く折れにくい縫い針が珍重されています。この要求に宮畑針が最適とされているのです」
「なんで、カワウソの皮を縫い込むのですか」
「他の村々では不況に苦しんでいます。神様に上訴する人々が増えているのです。神様に上訴するとき、赤と黒の服を着るだけでなく、貴重なカワウソの皮を着物に付けて上訴した方は効果があるという説が流布しました。この噂が広がり、赤と黒の服とカワウソの皮の組み合わせが三点セットとしてもてはやされています。ここに宮畑の針が加わり、四点セットとして、流行が広がっているのです」
「世の中何があるか、わかんないな!」
「次に、鹿角製儀仗についてです」
「儀仗って何ですか。何に使うのですか」
「これについては呪術部長から説明をお願いします」
「神様の声を聞く呪術関係者の必需品です。この他にも、ヒスイの玉や御物石などが有名です。一般に流通しない品物です。神様が祝福している村は、不況がないと考えられています。それで、祝福されている、不況を知らない村で作られた鹿角製儀仗が、霊験あらたかとみられているのです」
「この鹿角製儀仗の需要に供給が追いつかないほどになっています。村民の生産者の皆様には、時間外労働をお願いしまして大変心苦しく思うところであります。今後ともよろしくお願いいたします」
「これ以上増えるのは嫌ですがね。でもこの村は良い村なんですね」
「もちろんです。塩の確保の件ですが、新地村との塩の交易が上手くいっています。新地村の要望の高い鹿角の生産が順調です。角との交易で製塩土器に換算して二十個ほどを確保できました。」
「なんで、そんな貴重な製塩土器と、いくらでも取れる鹿角が交換できるんだ」
「漁猟の技術改良で、銛が離頭銛に順次置き換えられているようです。離頭銛は、大きな魚を取る場合に使われます。その銛が刺さると、刺さった銛の一部だけ魚の肉に食い込み抜けなくなります。その銛には縄がついており、どこまでも追跡可能になります。そのうち大型魚は弱まり、捕獲されるというものです。」
「すごいものを作るもんですね」
「松島湾の里浜村の考案と言われています。この銛には太い鹿の角がどうしても必要なのです。里浜村も鹿角を角館村あたりから確保しているようです。とにかく、塩の確保は現在のところ安心してください」
「塩の取り過ぎは、体に悪いことを知っておくように、薄味が基本です」
健康管理を司る呪術部長から一言ありました。
物産部長のほうから新しい提案がありました。
「村人だけで、ドングリ取りをすると楽しくないという意見が寄せられています。他の村から若い男女の参加を求める意見が、若者組や娘組から出ています。今回は試験的に、人的交流を行ってはどうかという提案です。」
「飯館の娘ッ子が来るなら賛成」
結婚願望の強い若者が強い賛成の意思表示をします。
「飯館は石棒の産地だ、そこから石棒が手に入れば子孫繁栄は間違いない」
「新地村の乾しハマグリは絶品だ、もちろん賛成だ」
味にうるさいやや肥満気味の美食家が賛成の弁を述べます。
「押出村の男なら賛成」
おしゃれな娘ッ子も思わず笑顔になります。
「押出の漆工芸はすばらしいもんね、あそこの櫛を手に入れられたら最高」
若者達の賛成の声が大きくなります。
「それではみんなが賛成と言うことで、各村の長老にこの旨を連絡します。なお、交流した村には、こちらからも人材を派遣することになります。希望者は、今のうちから物産部長のほうへ申し出ておいて下さい」
長老が断を下しました。


 第3話 宮畑村に気候変動の兆候     

 数週間後、一年で最も重要で忙しいドングリ採集の行事が行われました。先日の提案通り、近在の村から派遣された若者や娘ッ子がやってきました。遠くは押出村と新地村、近くでは飯館村や和台村の四つの村から男女一名ずつ計八名の交流になります。
「いよいよ一年の食糧を確保する大切な行事です。この十日間で六十トンが目標です。楽しくそしてコミュニケーションを取りながらドングリの収穫をお願いします」
食物部長から激励の言葉がありました。
若者二十八名がドングリ採集の主力です。男の隣は女というように一列に二十八名が並びます。二十八名の並びに平行して二十八mの縄を十m先に敷きます。それから始まりです。
「ドングリザクザク、こうれで一年楽できる
ヨーイヨーイヨーイヨーイ
後ろのムーラは遠ざかる、前のヤーマは近くなる
ヨーイヨーイヨーイヨーイ
遠くの声は見目麗しい、近くの者は見目麗しい
ヨーイヨーイヨーイヨーイ
イノシシしっし、虫さんしっし、こうれで一年楽できる
ヨーイヨーイヨーイヨーイ
後ろのムーラは遠ざかる、前のヤーマは近くなる
ヨーイヨーイヨーイヨーイ
遠くの声は見目麗しい、近くの者は見目麗しい
ヨーイヨーイヨーイヨーイ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 」
リーダーの歌に合わせて、ドングリを取り始めます。範囲は自分の前一メートルの幅で十メートル先までです。五キログラム入る藤で編んだ篭に、ドングリを入れていきます。歌いながらリズムをつけて拾います。十メートルの距離に来たとき、娘組は一人ずつズレます。すると隣の男女も全部替わります。縄も十メートル先に移動します。フォークダンスのチェンジのような光景です。
「ドングリザクザク、こうれで一年楽できる
ヨーイヨーイヨーイヨーイ
後ろのムーラは遠ざかる、前のヤーマはん近くなる
ヨーイヨーイヨーイヨーイ
遠くの声は見目麗しい、近くの者は見目麗しい
ヨーイヨーイヨーイヨーイ
イノシシしっし、虫さんしっし、こうれで一年楽できる
ヨーイヨーイヨーイヨーイ
後ろのムーラは遠ざかる、前のヤーマは近くなる
ヨーイヨーイヨーイヨーイ
遠くの声は見目麗しい、近くの者は見目麗しい
ヨーイヨーイヨーイヨーイ・・・・・・・・」
若い男女は、労働歌を歌いさらに左右から強烈なフェロモンを浴びます。笑顔の若者、少し恥ずかしがっている娘ッ子、仕事と遊びが両立しているようです。
若者組が集めたドングリは、大きな籠に集められます。その籠は、そりに付けられて村の水場に運ばれます。運んだドングリを水の貯水池に入れます。沈んだドングリは貯蔵するものです。浮いたドングリは、虫食いや古いドングリなので捨てます。その後、良いドングリだけを篭に入れ直して、貯蔵穴に保管するのです。この仕事は熟年組の仕事になります。熟年組は一つのそりに三十キログラムのドングリを載せて二人一組で、手際よく運びます。一日の目標は、六千キログラムです。ノルマは二百回の往復になります。
「今年は、猪も食べた様子がないな」
「虫もそんなについていないようだ」
「ドングリの質はどうかな」
「水につけないと、本当のところ分からないところもあるからな」
「若者組の士気は高いので、二百八十平方メートル当たりの採取量は確実に増えていますよ」
こんな意見を聞きながら食物部長は、今年の収穫に自信を深めていきます。
楽しく短い十日間の行事が終わりました。交流会は大成功でした。
「例年の二割増しぐらいの収穫になってますよ」
「臨時の貯蔵穴を二つ余計に使いました」
「押出の男と仲良くなって、がんばる姿を見せた娘ッ子、燃え尽きなければ良いけどな」
「あの娘ッ子、最初飯館を希望していたけど、昨日押出に希望を変えてきましたよ」
収穫量は平年をはるかに上回りました。行事が終われば、人事交流のお返しがあります。押出村と新地村、飯館村や和台村の四つの村へ男女四名ずつ計八名派遣をしなければなりません。
「お土産はどうなっている、物産部長」
「はい、猪の牙で作ったペンダントです。宮畑特有の『乱れ模様のすり衣』の透かしを入れてあります。あと、鹿の乾し肉と縄文クッキーが三日分です。長老」
「そそうのないようにお願いしますよ」
最大の行事が終わった後、村民集会がもたれていました。話題は、年間の総労働時間についてでした。
「年間の総労働時間が、今年はなぜか増えたように思うのですが。長老どうなってますか」
「一日を三区分すると生理的時間が八時間、仕事が八時間、自由時間八時間、これがこの村の基本です。さらに週休二日制です。この計算でいくと自由時間は、平年ですと約三千六百時間になります。仕事の時間が、約二千百時間です。仕事の時間が増えたのは、事実です。詳細は、物産部長から報告させます」
「報告します。今年は、自然災害による緊急出動がいくつかありました。まず、二月には大雪による家の倒壊がありました」
「あれはひどかったな、雪の水分が多く、竪穴住居の柱が折れてしまった。新居を建てるのに七日もかかったよ。」
「次に、三月の地震による家の倒壊。」
「地震も怖かった。あんな揺れ経験したことがなかった。土で覆った住居なので、重いために倒壊したんだ。柱もシロアリに食われていたことも大きかったな!」
「地震で二軒が倒壊しました。二軒の復旧は十四日間の作業でした」
「それから七月の長雨による雨漏りの修理」
「最近の梅雨は、豪雨や日照りが極端で困りますね」
「さらに、八月には異常高温による熱中症患者の大量発生が記憶に生々しいです。このことによる病休の増加がありました」
「あの暑さでは、仕事になりませんでしたよ」
「普通は寒いのになんで、急に暑くなるんだろう」
「最後に、九月は台風による水場の崩壊などのために多くの臨時作業日が出来ました。臨時作業時間の総数は一人当たり六百時間の増です。皆様の大切な自由時間を村の施設修復のためにご提供をいただいたこと、改めて感謝申し上げます」」
「最近、神様の仕事具合がおかしいように思うのですが、どうなんですか」
「呪術部長、お願いします」
「最近、地下の神様や地上の神様、そして天の神様が意思疎通を欠くようになってきたことは事実のようです」
「地上の神様は、作物を豊かにしてくれていますね」
「でも、天の神様は超大型の台風を起こして、作物をダメにしてしまいます」
「地下の神様は突然巨大地震をおこして、私たちに余計な作業をさせるのです。地震で壊れた竪穴住居を建てる作業には、二週間もかかっています。その作業が、私たちの自由時間を大幅に奪っているのです」
天の神様が起こした地球寒冷化は、海面を2m以上も押し下げてしまいました。これに比べれば、平成の異常気象など目じゃない現象です。でも、縄文の人達は、縄文前期に起こった縄文海進では、大きな貝塚を作っていました。彼らは海が押し寄せてくれば、そこで貝を捕り、貝の実をたらふく食べることを学びました。さらに、その貝を加工して内陸部の村との産物交換で豊かな食生活をしてきました。内陸の鹿の角は、海では釣り針になります。工夫した釣り針で美味しい魚をたくさん食べることも学びました。寒冷化で海面が低くなれば、低くなった土地に行って漁撈を行っています。柔軟な豊かさを求める行動は不滅でした。
でも、神様達の身勝手な行動が、人間の柔軟な行動でも解決できない問題を引き起こし、村に大きな損失をもたらすようになってきたのです。
「地下の神様や地上の神様そして天の神様が、自分たちの仕事をよくやっていることは認めますよ。」
「それはそうだ、地震を起こすことも、作物を実らせることも、台風を起こすことも神様の仕事だ。」
「神様は、誠実に仕事をしている。でもなんか変なんだ。部分最適全体最悪というか」
「このまま続くようでは、たまりません。もう少し宮畑の人々のことを考えて、よりよい生活環境を維持してほしいのです。」
「端的に言えば、私たち人間のことを考えて、神様達は協調して仕事をしてほしいと思います」
「だって、自由時間が六百時間も減ったんですよ」
「おかげて櫛に漆を塗る作業が遅れて、婚約を破棄されましたよ」
「若い娘ッ子は、漆の櫛に目がありませんからね」
「私なんて飯館村から石棒の原材料を手に入れて、子孫繁栄の聖具を作ろうとしたのですが、その作業が延び延びになってまだ出来ていないんですよ」
「それで子供が、三人だけなんですね。」
「とにかく、神々に善処していただく方法をみんなで考えましょう」
「長老お願いします」

長老と三役が会談をしています。宮畑村の行政組織は、長老を頂点に、食物部長、物産部長、呪術部長から構成されています。あと、会議には書記が出席し、記録をとります。文字のない時代でした。書記には特殊な能力が要求されました。サバン症候群とされる人の中でも特に記憶力に優れた人がいます。記憶に特化した仕事で、会議で話されたことは全て正確に記憶する能力を持っていました。前期大和政権では、「語り部」と言われる人々の前身です。ちなみに長老が各村に人的交流の知らせを行うといったとき、その内容を正確に知らせたのはこの書記でした。従って、長老の書記兼飛脚のような役割も持っていたのです。記憶と足の速さが彼の持ち味でした。この記憶されたデータが、宮畑村の大きな財産でした。
「書記、昨年骨針は、どの村で何本希望したか、教えてくれ」
物産部長がこのような指示を出すと、
「押出村八本、新地村六本、飯館村五本、和台村三本、里浜村六本、加曽利村三本・・・」
ロボットのように次々と述べていきます。それを聞いて、物産部長は、今年の骨針の生産を計画します。鹿の骨の在庫、職人の確保、流通経路の安全性などから最適利潤を考えていくのです。文字のないこの時代は、このように記憶力が重視されていました。サバン症候群が生まれる家系の中で、この能力が特化された人が、呪術部長や書記の仕事を受け継ぐことが多かったようです。
四者会談の結論は、神々による自然災害が増えたこと、それにより宮畑村の人々の人的疲労が著しく、不満やストレスがたまっていることが差し迫った問題になっていることでした。呪術部長が発言します。
「天候が不順になり、作業が過重になり、村民の労働時間の増加が顕著であるということですね。以前の状態に戻すには、地下の神様や地上の神様と天の神様の意思疎通をはかる方策を見つけることです。そのヒントに少し心当たりがあります。風の便りによると、青森の三内丸山村では、神々の意思疎通を図り、豊かな村民行政を行っていると聞いています。ただ、その方策は門外不出でなかなか分からないとのことです。」
「私も福島方部の長老会でそんな話を聞いたことがある。三内丸山では北陸の桜町村や不動堂村に人を派遣してその『秘密』を持ち帰ったと聞いている。」
物産部長が口を挟みます。
「この村の産業は、現在の所順調に見えますが、不安な面もあります。北陸地方の産業や交易の長所を取り入れていくことが大切かもしれません。この際、北陸地方の動向を調べるための使節団を派遣してはどうでしょうか。」
「使節団は、太郎と次郎とシロとクロの犬を提案します」
「シロとクロですね」
「無難な人選ですね」


 第4話 藤橋村のドングリ収穫

 二人と二匹の犬が、二週間を費やして、藤橋村に到着しました。この付近は、縄文時代中期には、火炎土器で有名な土地柄です。シロとクロが村に近づくと、村のボス犬が、尻尾を立てて「ウー・・・」とうなり声を上げながらシロとクロに向かってきました。太郎と次郎はかまわず村の長老の家に向かいました。するとボス犬は、いつの間にか「クン・・クン・・」と尻尾を下げてシロに鼻面を寄せて甘える仕草をしていました。
村の長老と三役を前に太郎が挨拶します。
「私たちは、東北の玄関に当たる福島の宮畑村からやって参りました。太郎と次郎です。この藤橋村の優れた文化を勉強しに参りました。是非、受け入れていただきご指導をお願いします。」
「この村は、明日からドングリの収穫で忙しくなるが、一緒に働いて学んでいくがいい。住まいは、若者小屋でこの村の者と過ごすとよい。」
好意的な受け入れの言葉にほっとした太郎と次郎でした。
「宮畑村ってどんなとこだ」
「一年を十日で暮らす良いとこだよ。人口増加も順調で、食料は食べ放題、酒はうまいし、装飾も思いのままなんだ。赤と黒の服を着こなし、趣味に没頭できる生活環境が整っているよ」
宮畑村の様子をかいつまんで話し、打ち解けた雰囲気で眠りにはいりました。
翌朝、朝食を済ませると、村民一同そろってドングリ拾いを始めました。個人個人が藤のツタで編んだ籠を持ってドングリを籠に入れていきます。約十キログラムほど入れると、村の貯蔵庫である貯蔵穴に持っていきます。最初は村の近くで取っているので、ドングリを持ち帰る距離は短く楽でした。でも、段々遠くなり、運ぶ距離が長くなると、十キログラムの荷物が重くなり、運ぶことに時間が取られるようになりました。ドングリを取る時間が短くなり、作業効率が落ちていくのです。藤橋村のドングリ取りには、ボトルネックがいくつかあるようでした。
ドングリの場合、成熟期前後の2~3週間以内に収穫する必要があります。遅れれば動物や虫のえさになってしまいます。従って、最低でも三週間という短期間で、ドングリを取り切ってしまわなければなりません。そのためには、一時的に多くの人を投入し、短時間で収穫を完成させる作業形態が必要なのです。藤橋村の弱点は、運搬にあるようです。一日目の作業が終了したとき、
「作業をもっと早くすべきです。今年は、虫が多い年です。虫が入って、ドングリの品質がどんどん悪くなります。」
次郎が今日の作業で気がついたことを積極的に述べました。
「どうして虫が多いと分かる!」
食物部長が尋ねました。
「昨年のカマキリの巣の跡を見ると、低い位置に巣を作っています。これは暖冬で、冬の間、虫が死滅しなかったことを意味します。虫が大量に発生している兆候です。それから、若者組のリーダーに聞いたところ、今年の春のシジュウカラが、多くの卵を産んだと言います。シジュウカラが、卵を多く産むときは虫が多くなります。虫が多くなれば、鳥は餌を心配しなくても良いからです。鳥の本能です」
「今まで寒さが続いていたので、虫の発生は少ないと考えていたが?そうだったのか」
感嘆の声が上がります。
「どうすれば、速く作業ができる」
食物部長が尋ねます。
「藤橋のドングリ取りのボトルネックは、採集物を運ぶ時間にあります。十キログラムのドングリを収穫場所から貯蔵穴まで担いで運ぶための時間がかかるのです。十キログラムを長い間、持って運べば疲れがでてきます。疲れが蓄積し、作業能率が落ちていくのです。持って運ぶのではなく、引いて運べば楽に、大量のドングリを運ぶことが出来ます。運ぶ道具は、トンボそりを使います。」と次郎
「トンボそり、なんだそれ」
次郎は、宮畑村から担いできた五本の木を見せます。一本は一・八メートル、二本が一・二メートル、あとの二本は同じく一・二メートルぐらいですが片面がすり減って平らになっています。そりの部分が二本、そりの上に棒を二本つなぎ、長い棒をそりに結んですぐにできる簡易そりです。
次郎と太郎は組み立てて、ドングリを三十キログラム載せて引いてみせました。二人で引くと、楽々と運べる様子がみんなを驚かせました。
「どれどれ、俺もやってみて良いか」
「どうぞ」
「これは楽だ、おまえもやってみろ」
「おうこれは、力がいらない」
驚きの声が上がりました。
「物産部長、このトンボそりはすぐ出来るか」
長老が聞きます。
「これなら、すぐにできると思います。さっそく今夜中に作って、明日から使えるようにしておきましょう。こんな便利なものがあったのか。」
次の日、三人一組に成り、三十キログラムのドングリが籠にたまると二人がトンボそりを引いて、水場に運びます。水場では別の作業班が待っていて、受け取ったドングリを水に浸します。その後、沈んだドングリだけを選別して、貯蔵穴に持っていきます。採集場に残った一人は、ドングリ拾いを続けるのです。輸送が速く楽になり、時間が節約できた分、ドングリの採集は効率よく、昨年より大幅に早く終了しました。


縄文のシンボル 第5話 長者ヶ原村と寺地村の和解     

ここは長老の竪穴住居です。太郎と次郎に礼をいう長老の姿がありました。
「おかげで、昨年よりも何日も速く作業が終了した。ドングリが虫や猪に食べられる前に収穫したので、品質も良いものが貯蔵できた。これも、太郎と次郎のおかげだ。」
「一緒に働いたおかげで、いろいろ勉強できました。ところで、ここではヒスイの加工施設がありましたが、加工をしているのですか。」
「そのことで、困っていることがある。おまえ達には課題を解決する知恵があるようだ。相談がある。おまえ達も知っているように、ヒスイの原石は、長者ヶ原村と寺地村で原石加工をすることになっておる。特に、ヒスイの原石に穴を開ける技術はあの二つの村以外にはできない。」
「そうだったんですか」
「そうだ、そしてその穴の開いた原石を磨くなどの二次加工は、この藤橋村でもできる」
「何処が、問題なのですか。」
太郎が不思議そうに聞きます。
「長者ヶ原村と寺地村の間で、確執が生まれているんじゃ。」
「確執って?」
「ヒスイを求める村は多い。日本列島の村々からヒスイを求めてやってくる。でも、ヒスイと同等の価値を持つ交換物を運んでくることは不可能だ。小指くらいのヒスイの価値は、一つの村の一年分のドングリの量に匹敵する。それを東京の大森村から運ぶことは出来ない。もし、大森村が、寺地村からヒスイを譲って貰う場合、毎年大森村が比較的近い釈迦堂村に塩を送り、釈迦堂村は尖石村に土偶を送り、尖石村は和田峠から取れる黒曜石を寺地村に送る交易を数年間繰り返すことになる。」
「それはすばらしい交易形態だとおもいますが、どこが問題なのですか」
「大森、釈迦堂、尖石、寺地の交易ラインが確固としたものならよいのだが、それが乱れているのじゃ。」
「どんな乱れですか」
「ヒスイを譲られた大森村は、寺地村に数年間バーター交易を三年続けていく義務がある。それを一、二年でやめて、長者ヶ原村に切り替えて、ヒスイの二重取りをするようなことが行われたのだ。それで、交易地間の不信感が顕著になり、長者ヶ原村と寺地村は他の村々にヒスイを供給しなくなったのだ。」
「それは、困りましたね。宮畑村の呪術部長もヒスイは呪術能力を向上させる貴重なものだと言っていました。それで私たちは何をすれば良いのですか。」
「数日の内に、長者ヶ原村と寺地村の長老と三役が集まり、打開策の交渉をすることになっている。私もそこにオブザーバーとして参加することになる。そこに、おまえ達二人も参加してくれ。」
「私たち若造で良いのですか。場違いな気もしますが」
「この際破れかぶれ、いや清水の舞台から飛び降りるつもりで行ってくれ」
数日後の朝、秋晴れがまぶしい日でした。ここは姫川が最後に流れこむ海辺の近くです。この海辺では、ヒスイが良く取れるので、ヒスイ海岸としても有名な場所です。
臨時の竪穴住居の中に、長者ヶ原村と寺地村の長老と三役が向かい合って座っています。その末席に藤橋村の長老と太郎と次郎が座っています。
「その二人の若者は、どういう資格でそこにいるのだ。」
長者ヶ原村の食料部長が語気を強めて叫びます。すると、長者ヶ原村と寺地村の呪術部長は、同時に口をそろえて
「この若者はいなければならない」
びっくりする四人の部長を尻目に、
「二人の呪術部長が言うなら同席を願おう」
長者ヶ原村と寺地村の長老が穏やかに言い添えました。長老達は、太郎と次郎の能力を高く評価していました。長年続いてきた効率の悪いドングリ採集の作業形態を、一気に効率化した課題解決能力、虫や鳥の生態の変化から作業の遅速を決定する判断能力は得がたいものです。長老の決定は、村の盛衰を左右します。重圧を常に背負う長老としては、課題解決のための方法をいくつか身につけておかなければなりません。この若者の知恵は、のどから手の出るほど欲しいものだったのです。太郎達の情報は、藤橋村に嫁いでいる男女から長者ヶ原村と寺地村の長老にも、もたらされていました。情報は、長老の命です。
長老達も現在のヒスイの在庫量をこのまま増やしていくことはできないと考えています。交易が出来なければ、村が衰えていくことは自明のことなのです。
「若者の意見を聞くと、未来は明るくなるとヒスイの女神が言っている」
寺地村の呪術部長が言います。
「若者が公平で合理的な解決策を提示するとヒスイの女神が言っている」
同様に長者ヶ原村の呪術部長が言い添えます。
「他国の若造の意見を・・・・・なぜ・」
「姫川の女神様が・・・・どうして・・・・」
物産部長が戸惑いながらつぶやきます。
「ここは、この若者の意見を聞くようにしなければならないのかの、寺地の長老どん」
「私も二人の呪術部長の意見に反対はできないよ」
「若者よ、おまえ達の意見を言ってくれ」
太郎は心を決めて言います。
「私のような若輩が言うには大きすぎる問題です。日本列島全てに波及することですから。でも、ヒスイは日本列島のどこの村々でも望んでいる宝物です。個人の宝物ではなく、村の安定や豊作や豊漁をもたらす村全体の宝なのです。希望する村々に、出来るだけ公平に素早くヒスイを届けることが望まれています。そこで、提案です。長者ヶ原村と寺地村が供給する地域を固定化するのです。姫川を挟んで西は寺地が、東は長者ヶ原に固定します。すると、長者ヶ原は新潟を含む関東・東北・北海道が地盤になります。寺地は、中部、北陸、西日本を地盤とすることになります。」
「確かに、この提案は寺地の交易ルートの範囲が決まる。そして、ヒスイの譲渡による交易の代替物を送らない村には、再び送らない制裁を明確に加えることができる。これまでのような混乱は出ないだろう。」
「長者ヶ原の長老はどう思う。私は、良い提案だと歓迎するが」
「寺地の長老に賛成だ。自分の交易ルートの開拓に専念出来る」
「もう一つ提案があります」
「これ以上の提案を!」
「聞くべきです」
二人の呪術部長が同時に発言します。
「言ってみてくれ」
「二つの村は、ヒスイに穴を開ける技術を持っています。日本列島でこの技術を持つ村は、他にはありません。しかし、ヒスイを磨き加工する技術は、この近隣の村でも可能な技術です。穴を開ける原石加工までは二つの村で行い、その後の二次加工は近隣で行えば、ヒスイを望む村に速やかに提供できる体制が出来ます。今の日本列島は疲弊しています。ヒスイはどの村でも渇望している宝です。供給が出来る体制の早急な構築をお願いします」
「藤橋村としても是非、太郎の提案を受け入れてほしいとお願いする」
「これ以上考える必要もないだろう。早急にそのように計るようにしよう」
「具体的なことは、二人の物産部長が工程表を作り、実行に移すようにしてください。決定して良いですね。寺地の長老」
「歓迎だ。ところで太郎と次郎には長者ヶ原によって貰いたい。大丈夫か」
「喜んで!」
「いやいや寺地にもよって行ってくれ。大歓迎だ」
「ありがとうございます」
太郎達は、長者ヶ原村と寺地村に二日間ずつお世話になりました。普通の人が見られないこの村の秘密を見る機会を得たのです。


 第6話 桜町村での交流     

ここは桜町村です。太郎と次郎は宮畑村から約一ヶ月をかけて来ました。寺地村や長者ヶ原村の和解を取り仕切ったことが、すでにこの村にも伝わっていました。
村の長老と三役を前に太郎が挨拶します。
「私たちは、東北の玄関に当たる福島の宮畑村からやって参りました。太郎と次郎です。この桜町村の優れた文化を勉強しに参りました。是非、受け入れていただきご指導をお願いします。」
「おまえ達の活躍は、聞いているよ。村民一同歓迎する。来年の春までの滞在を許可しよう。住まいは、若者小屋でこの村の若者と過ごすとよい。」
長老達は、太郎と次郎の持っている知恵を、村の若者が吸収することを望んでいました。二人は、ヒスイ交易の課題を一気に解決しました。二人の人物を手元に置けることそのものが、一つの財産です。ですから、大歓迎なのでした。若者も他の地方の話には飢えていました。なぜなら、この村には門外不出の『秘密』があり、他国のものとの接触が制限されていたのです。
若者小屋では早速歓迎の宴が設けられました。
「良く来た。噂は聞いているよ。交易圏を分割して、地域割りをして交易地盤を決めたんだってね。」
「藤橋村で二つの村の確執を聞いたんだ。ヒスイはどこの村でも宝物だ。この宝物が入らないと、呪術関係の人達が困ることは誰でも知っているよね。」
次郎が穏やかに話しを始めました。
「そうなんだ、寺地と長者ヶ原の村に何度交渉に行っても、『寺地はどうだとか、長者ヶ原はどうなのか』などの堂々巡りだった。交渉のしようがなかったんだ。」
「ヒスイが欲しい村は日本列島どこにでもある。でも、供給が極端に少ない。需要があっても供給が出来ない状態だった。でも、ヒスイは姫川からどんどん獲れている。原石の在庫過剰が続いていたんだ。ただ製品として出荷できない状況だったね」
「もったいない話しだ。宝の持ちぐされだ」
「それで、どのように話を持っていったんだい」
「藤橋村の人達の話では、『ここでもヒスイ加工の最終工程はできるスキルを持っている』と言ってた。」
「あのヒスイを磨く技術があるんだ。へえ」
「寺地や長者ヶ原にはヒスイの原石の在庫過剰の状態が続いている。この二つの村で、ヒスイの最終工程まで行えば、更に遅延行為が続くことになる。でもヒスイは、日本列島に広がってほしい。そうすれば、呪術関係者は自信を持ち治安を守れる」
次郎は正論を述べていきます。
「そうだよな、ヒスイのない村では、飢餓や異常気象が多発しているという噂も聞いている」
「九州の指宿村などでは、ヒスイがなかったので、村全体が火山灰に埋まってしまったと聞いたことがある」
「そこで地盤割りと供給のスピード化の提案をしたんだ」
「どんな提案だったの」
「一つ目が、寺地村は北陸、中部、西日本の販路、長者ヶ原村は、新潟、関東、東北、北海道の販路というように地盤を分割すること。二つ目が穴を開ける原石の加工を二つの村で行い、二次加工を藤橋村など周辺の村が行い、指定の下請けを通して全国に供給することを提案したのさ。」
「なるほど、それでどうなったの」
「寺地や長者ヶ原の呪術部長が、真剣に考えていたね。『このままでは、姫川の女神が怒り出す』と二人の呪術部長が時を同じく発言したんだ。これには長老達も驚いたね。奇しくも、姫川に関わりの深い呪術部長が一声をあげたわけだから。二つの村の物産部長も、二つの地盤に分けるという提案には同意したがっていたね。だって、独占できる地域ができるからね。交易の利益を考えると、お互いの村に有利な提案だとすぐに理解したようだね。」
「さすがに経済の専門家だ、理念と利害関係を両立させる術を心得ているね」
と若者。
「そんなこんなで提案を受け入れて、円満解決になったわけ」
次郎の長い説明が終わりました。
「イヤー、面白い話だった。ためになったよ」
「そうだ、太郎と次郎の歓迎の猪狩りをやろう」
村の若者リーダーが発言しました。
「ウオー・・・やるぞー」
元気な歓声に太郎と次郎は苦笑い。
「せっかくの提案だから喜んで参加しよう。宮畑のやり方を紹介するのでコンテスト形式でやらないか」
と次郎。
「良いね」
「二日間、村の動物の様子や狩り場の様子を見たいんだ。誰かこの辺の地理や動物の生態に詳しい若者を付けてくれないか」
「小三郎が良いだろう。この辺の地理や動物の生態に詳しい知識を持っている」
「ありがとう、兄さんそれでいいかい」
太郎は笑顔でうなずきます。



Watching children's studies in the long run   Idea Plaza Summary 659

2021-06-25 16:35:21 | 日記


 In many developed countries, the gap between the good and the bad is widening. The solution to closing the gap has come to be said to be the ability to acquire and use knowledge. In a sense, it is the ability to memorize knowledge and make effective use of it. If you continue studying like before and accumulate knowledge, you will need to work to output it.
 If the memory acquired by studying is a trigger, it seems that it is easy to draw out the memory by relying on it. What you don't understand is not memorable. In knowledge acquisition, it is said that the mnemonic method of trying to remember the characters as they are is inefficient. The more repeated the hippocampus, the more important the information is, and the more it is sent to the cerebral cortex for memorization. Recently, attention has been paid to the utilization of the amygdala near the hippocampus. It has become clear that we can make good use of the amygdala and remember the information we want to remember less often. The amygdala is a place that gives rise to various emotions. Words memorized using the image connection method using emotions are characterized by being memorable for a long time. An interesting knowledge acquisition method may be born if the external memory using tools and the image connection method using emotions to reach the external memory are fused.
 People who feel happy are said to be 30% more productive and triple their creativity. If you know your happiness, you can study and live near that happiness. We will reduce the amount of study that is done and work on rewarding studies. Prolonged comfort seems to be one of the components of happiness. If so, it is necessary to devise ways to maintain a comfortable state. It is self-evident that it is more fun to understand than not to understand. If so, it is better to establish a learning system that can be understood little by little. Parents and children in the living room will be happy if they can study and talk in the space-time of happiness and comfort. One condition may be that the couple is in good health.