先日、日本大学のアメリカンフットボールの悪質タックルが、大々的に報道されました。多くのコーチが、監督の言うがままに選手を人形のように誘導していたというものでした。指導するコーチの立場やプレーをする選手に同情しています。ぜひ、選手の自主性を前面に出す方向に改善する機会にしてほしいものです。一方、このような部活動運営にどうしてなってしまったのかを、知りたいとも考えました。
そこで、日本の運動部について少し深掘りしてみました。コーチが、無理な指導をする姿が問題になりました。多くの人のコーチを見る基準が、「ヒポクラテスの誓い」にあるようです。医学の父と言われるヒポクラテスは、「知りながら害をなすな」という教えしています。自分の行為が他人へ害をなすと知ったなら、上司の命令であっても行ってはならないというものです。今回の監督の指示は害をなすものだから、コーチのレベルで断固阻止するべきだという理念的立場です。でも、世の中は理念だけで動くわけではありません。利害で動く局面も数多くあります。ヒポクラテスの誓いと反対の経験則もあります。「ミルグラム効果」というものです。「ミルグラム効果」は、善良な人間であっても、上司の命令で非倫理的なことをやるというものです。この事例は、戦場では数多く見られます。上官の命令で非人道的行為を、淡々と行うものです。ビジネスの世界でも、ブラック企業などでは多く見られる光景です。
日本では、部活を一生懸命行ってきた人々には、セカンドライフが用意されてきました。中学校で素晴らしい競技成績を上げれば、スポーツ推薦という制度が用意されいます。スポーツの実力を伸ばすだけで、次の高校というステージが用意されています。好きなスポーツをしながら、高校生活を楽しむことができるわけです。強豪校といわれる部は、多くの部員が集まります。その部は、競技に強いだけでなく進路指導もしっかりしているのです。大学との繋がり、そして企業との繋がりを持っています。強豪校は、大学や企業、そして中学との広い人脈を継続的に持つことによって成立しています。厳しい練習や上下の人間関係に耐えれば、セカンドライフは保証されているのです。大学には先輩がいて、丁寧に指導してくれます。企業には先輩がいて、仕事に支障の出ないように指導してくれます。昨今の入社後すぐに辞めてしまうという事態は、部活動の強豪校出身者には非常に少ないともいえます。
でも、時代が変わりつつあります。スポーツの世界もオープンになってきました。情報が、すぐに手に入るようになってきたのです。勝つための練習は、どうしているのかを選手は考えます。根性を重視するやり方だけの練習よりも、合理的練習をしながら成果を上げている部に注目します。他校の部活の生徒との連絡も、容易に行われる環境が整っています。部の推薦がなくとも、良い会社に勤めている事例を見いだし始めました。外国の大学スポーツ情報も入るようになりました。アメリカの大学スポーツは、単なる勝ち負けではなく学業を優先した上での取り組みを行っていることを知ります。
アメリカでは、アメリカンフットボールの選手が高校で100万人、大学では5万6千人、さらにプロではわずかに250人になります。アメリカでは、この250人だけが勝者ではないのです。アメリカの大学スポーツでは、文武両道を義務づけられており、いかなる分野でも活躍できる人材を育成しています。試験で一定の点数を取らなければ、部活動を行うことができないルールが厳格に守られています。練習時間も決められています。これは、大学スポーツはすべて公平な練習時間の中で闘うことを目指しているからです。やって良いことは、限られた時間でいかに効率的で効果的な練習をするかという工夫だけなのです。100万人の選手が、最終的には全員が成功者になるように、学校や部の指導者が応援していることになります。
このような情報が、飛び交う中で選手の自主性が求められるわけです。これからの指導者(監督やコーチ)は、選手を締め付けるのではなく、可能性を活かす指導をすることになるようです。進路については、高校や大学の教育に任せるようにすることでしょう。大学は、社会が求める人材を把握し、その人材育成を日々の授業で行うことになります。大部分の選手にとって、引退後のセカンドキャリアの問題が深刻になりつつあります。部活動の選手の大部分は、卒業後一般社会で生きていくことになります。彼らにも、社会で生きていくライフスキルが求められるているのです。部活動という狭い論理から一般社会の論理を身につけて、社会に貢献してほしいものです。