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TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」173

2017年01月17日 | 物語「水辺ノ夢」

小さな畑は、圭の家の物。
南一族の村から持ってきた野菜も植えている。
圭は座り込み雑草を抜く。

「とう」

真都葉が摘み取った花を
圭の近くに丁寧に並べていく。

「はなやさん」
「そうか」

圭は作業を止め、真都葉に向き直る。

「それじゃあ、このお花をください」
「じゅうまんです」
「高っ!!」

圭は笑う。

「お母さんへのお土産にしたいので
 おまけしてくれないかな?」
「しょうがないわねー」

真都葉は頬に手をあてて考える。
母親の真似だろうか。

畑に来たものの、
畑作業も片手間になる。

「真都葉、その虫は触っちゃダメ」

毒のある虫も居る。
好きにさせたいが、目も離せない。
今日はそのつもりだったので
圭も真都葉に付き添って畑を歩く。

「……杏子は毎日大変だな」

杏子を思う。

今日は天気も良い。
杏子も一緒に三人で
こうやって出かけることが出来たら良いのに。

圭は真都葉を抱き上げる。

「………」
「とう?」
「なんでもないよ。お弁当を食べようか?」

圭は木陰に移動して布を広げる。
水場で手を洗い、杏子が持たせたお弁当を2人で食べる。

「おいしいねー」
「そうだね」

真都葉は食べながらもあちこちを見回す。

「とりさんおいでー」

木の枝に止まっている鳥を呼ぶ。
朝の鳥と同じかは圭には分からない。
でも、真都葉は鳥が好きなようだ。

「こない」
「真都葉、ほら」

圭は、パンの端を千切り、
少し離れた所に蒔く。
それを見て、鳥が舞い降りる。

「きたよー」

きゃあ、と喜んで真都葉は声を上げる。

「真都葉、大きな声を出したら
 鳥さん逃げちゃうよ」

食事を終えて圭は布を片付ける。

真都葉は少し離れた所で、
パンのかけらを鳥に与えている。
少しずつ距離を縮めて行こう、と
懸命になっている様子を見て圭は微笑む。

そんな時、座り込んでいた真都葉が立ち上がる。

「真都葉?」
「とう、なんか、くる」
「え?」

突然畑に犬が駆け込んでくる。
黒い、猟犬。

「なんで、こんな所に!!」

狩りに連れて行く獰猛な種類。

「おい、待て!!」

犬を追いかけて後ろから村人が駆けてくる。
猟犬はしつけられている。
飼い主が命令すれば大人しくなるはず。

村人が視線の先に真都葉を見つける。

「とりさん!!」

真都葉にはまだ、今の状況が判断できない。
慌ただしい様子にまず、鳥が逃げ出す。
圭は真都葉に駆け寄る。

駆け寄りながら、圭は見た。

村人が制止のために吹きかけた犬笛を
そっと下ろしたのを。

真都葉はパンを持っている。
犬が飛びかかる。

圭は、間に合わない。

「真都っ!!」
「やあーーーーーー!!」

真都葉が悲鳴を上げる。

その瞬間、犬が弾き飛ばされる。

「……え?」

犬は、高い声を上げ、
飼い主の元へ走り寄る。

圭はそれには目もくれず、
真都葉に走り寄る。

「ああああああ」
「真都葉っ!!」

真都葉は火が付いたように泣き叫ぶ。
腕から血が出ている。
噛まれたのだ。
圭はすぐに真都葉を抱き上げる。

「病院へ」

「おい」

声に圭は振り向く。
犬を連れた村人、悟が、
圭の方を見ている。

「なんで、犬を止めなかった」

圭は悟を睨み付ける、が

「それはどうでもいいんだ」

そう、冷たい目で、悟が言う。
真都葉のケガなど
構わないと言わんばかりに。

「それよりも」

真都葉が痛みで泣き叫ぶ声の中で
はっきりと、悟が告げる。

「今、そいつ
 魔法を使ったな」



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