「……俺、か」
アヅチはうなだれる。
今回の一件の
全ての原因、は。
「まあ、とりあえずは腹ごしらえよ。
もうすぐランチだって言うし」
腹ペコなマツバは宣言する。
アヅチは、お、と思う。
この状況でこれ以上アヅチを責めずに
なおかつ話題も変えようとしてくれている。
意外と良い奴なの、かも。
なんだかんだ言って迎えに来てくれたし。
「あぁ、ここの食事結構美味いぜ。
朝食とか、
ただのパンとミルクだってのにな」
石釜とかで焼いてるのかなーという
アヅチに、あぁああああ、とへび呼ロイドは震撼する。
それ、多分、
昨日の夕食から何も食べていないという
空腹時に食べたから、で
そして、その時マツバとへび呼ロイドは
「そう、私たちが東で食べた
旬の野菜を使ったオーガニック会席
シェフの気まぐれデザート付き
も、美味しかったけどね」
「マツバォオオオアァアアアアアオオ。
何で言っちゃうのぉおおおおお」
「だって、本当の事だもの。
私、嘘は嫌いなのよ」
はぁ?とアヅチが立ち上がる。
「お前ら、今、なんて……んん?」
アヅチは、ふとマツバの手元を見る。
「おい」
「なによ?」
「お前、それ、どうした?」
アヅチの視線の先、
マツバの手元の、さらに指先の。
「ネイルよ。
アロママッサージのオプションで」
マツバの爪は、
目立ちすぎないの淡い発色のカラーでまとめられ
清潔感とフェミニンを併せ持つ
春から夏へと変わり行く今の季節にぴったりの
「満喫してんじゃねーか!!!!」
「大丈夫よ」
「何が!!!!?」
すっと、マツバはポケットから一枚の用紙を取り出す。
「次回20%オフのチケット貰ったから」
ご友人・ご家族様でもご利用いただけます。
「やらねーよ!!!!!!
大体、確かに俺が原因なんだろうが、そもそもだな」
「まぁ、待ってアヅチ!!!」
へび呼ロイドが間に入る。
「今度また、東に行こうよ!!
美味しいご飯を食べにさ!!
あと、そこの所のつまり詰まった話は
ココを出てから―――!!」
ここは砂一族の牢で、
アヅチ達は髪の毛ボーンで
今は容疑者になっている。
仕方ないとアヅチは言う。
「そういえば、
あいつら俺たちを捕らえて
その後、どうしようってんだろうな?」
「そうねぇ、
良くて、容疑が晴れるまでここで軟禁って所かしら」
「悪ければ………」
マツバは思い出す。
東一族のアマキが言っていた言葉を。
『砂一族って、人を食べるって噂だし』
食べるって
食べるって
食べるって(エコー)
「何にせよ、あんまり良心的な一族じゃなさそうだな」
「あの、フワって子と言い、
考えが読めない感じだし」
マツバはそこの所は
アヅチに黙っておく事にした。
良心的。
「とりあえず、逃げだす方法を探しておいた方が良さそうね」
うーむ、と全員が室内を見回す。
実は南一族の魔法は、かなり大さっぱだが
全一族の中で一番威力が高い。
それでも牢が壊れなかったという事は
入り口を吹き飛ばして脱出という手段はなくなる。
「となると入り口の鍵か」
「鍵」
「鍵って言ったってどうやって」
「……」
「え?」
へび呼ロイドはアヅチの視線を感じる。
「え?なになにアヅチどしたの?」
「いや、よく考えたらさ」
牢として役割を果たしているこの部屋には
のぞき窓が付いている。
「ここ、通るんじゃね」
マツバもそれに頷く。
「そうね、通るわね」
「え?」
瞬間、がっと捕まれたへび呼ロイドは
のぞき窓に押しつけられる。
「あばばばばばば」
「頑張れ、へび呼ロイド」
まずは風船?部分から。
「もっと柔らかいかと思っていたのに
意外と弾力がっくっ」
「手伝うわ」
マツバも加勢。
「おぼぼぼぼぼぼぼぼ。
無理無理無理無理――――!!!」
からーん、と
何かが落ちる音がして
マツバとアヅチはそちらを見る。
先程のフワとは違う砂一族の少女が食器を取り落としている。
どうやら食事を届けに来ていた様だ。
「やべっ」
「まずいわね」
逃走を図ろうとしていたと分かれば
更に厳重な牢に入れられるかもしれない。
それとも、もっと、大変なことに!!!
少女は言う。
「あなた達、最初から聞いていたわよ!!!」
ずかずか、と牢に歩み寄る。
「ウチより東一族の料理が美味しいって
どういう事よ!!!!!」
砂一族と東一族は敵対している。
色んな事で。
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