杏子は、広司を振り払おうとする。
けれども、広司の力は強い。
「なぜ、お前が、俺と圭を知っている?」
広司の問いに、杏子は答えない。
首を振り、云う。
「東一族が、・・・来るかもしれないよ」
その声は、震えている。
広司は、笑う。
「こんな道もないようなところに?」
云う。
「東一族が来るとは思えない」
広司は杏子をのぞき込む。
「お前、うちの村に来たことがあるんだな」
杏子は再度、首を振る。
「おいおい」
広司が云う。
「そうじゃないと、つじつまがあわないだろ?」
さらに、広司は続ける。
「東一族は、舟を持たないよな」
杏子は、広司から目をそらす。
「いったい誰が、お前を西一族の村へ連れて行った?」
広司は、杏子の腕を強く掴む。
「・・・痛っ」
杏子は、顔をしかめる。
「詳しく話を聞く必要がありそうだ!」
「放して!」
広司は、杏子を掴む手に、さらに力を込める。
杏子を引きずる。
「誰かっ」
誰か
杏子の声が、こだまする。
けれども、東一族の村まで、その声は到底届かない。
広司は、杏子の口をふさぐ。
杏子を舟に乗せる。
・・・誰か、・・・助けて
西一族の舟が揺れる。
東一族側の岸を、離れる。
やがて
舟は、霧の中へと、消える。
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