浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

フルトヴェングラー 戦中最後の伯林演奏會 ブラームス第1番

2008年11月10日 | 指揮者
風邪に苦しんでゐてベッドの中で大きな咳払いをした瞬間だった、僕の腰に電気が走った。僕は無残にも上半身不随の状態に陥り自力で立ち上がれなくなった。ひとことで言ふと腰の腰痛が痛いのである。そんなわけで横になったまま音楽を聴いてゐる。「不屈の者」といふドキュメンタリーをNHKでやってゐた。今の僕に必要なエナジーはこれだ。フルトヴェングラー指揮する伯林フィルと伯林市民が、空襲の中で残した貴重なドキュメンタリーを聴いて自分を鼓舞することにした。

この演奏會は、美しい街ドレスデンが無差別空爆によって壊滅する20日前、1945年1月23日にアドミラル・パラストで行われた。この日の演目であったモーツァルトの交響曲第40番の途中で空襲警報が鳴り響き、演奏は中断された。フルトヴェングラーはブラームスの第1番にどのやうな思いを込めてゐたのだらう。いろいろと想いながら、コーダの異様に輝かしい管絃團全奏によるファンファーレを聴いてゐると、自然に涙が溢れてくる。

途中アンサンブルの大きな乱れもある。パウケの注意力散漫によるものなのか、金管楽器も上手くないかも知れない。多くの團員が海外に亡命していったことを考えると仕方の無いことだ。会場の状態も良好とは云えず、とてつもなく長い残響音の中、大音響が混濁する場面もある。しかしながら、残されたメンバーによって終戦の日まで演奏會を続けたといふ事実には心打たれる。フルトヴェングラーと共に独逸国民に希望を与え続けた楽師達の勇気ある行動のドキュメントでもある。

今日のレコヲドは、フルトヴェングラーがスイスに亡命する直前の伯林での戦中最後のコンサートの生々しいライヴ録音で、聴衆の咳や拍手も入ってゐる。録音状態も大変良く(途中リミッターがかかったやうな部分はあるが)、演奏會場の雰囲気は恐ろしいほどに伝わって来る。

盤は、伊太利亜ミラノのMemoriesによるリマスタリングCD MR2004/5。

フルトヴェングラー・ブラームス名演集(交響曲第4番、交響曲第1番第1楽章、ドイツ・レクイエム)
エリザベート・シュヴァルツコップ,ハンス・ホッター
MEMORIES REVERENCE

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