浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

ピエトロ・スカルピーニのベートーヴェン奏鳴曲

2012年02月26日 | 洋琴弾き
フルトヴェングラーとの協演盤が突然世に現れたときには、此の名に覚えは無かった。どうしてフルトヴェングラーはあまり名を聞かぬ人との協演が多いのか恨んだものだ。今日はスカルピーニの独奏を初めて聴いてゐる。

曲はベートーヴェンの最後の奏鳴曲第32番だ。1961年3月13日のコンサートといふことだから、あの第4協奏曲でのフルトヴェングラーとの協演から9年後の演奏といふことになる。スカルピーニがちょうど50歳といふ円熟期の演奏の割には指が思ふやうに動いてくれない。トリルがもつれ、つまらぬミスタッチに加えて音が飛ぶ部分も聞かれる。しかし、其処は「本当はこう弾きたいんだ」と補って聴く耳力を身につけてきたため、特に問題なく音楽に没頭することができた。全くコルトーには感謝したい。

音楽は輪郭のはっきりとした伊太利らしい作りになってゐるやうに聞こえる。細やかな加減によってにごりはないが潤いを感じる絶妙のペダリングを聴かせてくれる。フルトヴェングラーとの第4協奏曲冒頭の深淵な雰囲気の中で奏でられる独奏を思い出す。

スカルピーニはベルク、シェーンベルク、ダラピッコラといった同時代の作家から浪漫派、バロックまで幅広いレパートリーを持ってゐたやうだが、商業用の録音は殆ど残されてゐない。しかし、プライヴェート録音は1938年のリストの「パガニーニ練習曲」に始まり、晩年の家庭録音に至る数多くの演奏が残されてゐるらしい。また、管絃團との協演も多く、ベーム、ケンペン、モントゥー、ミトロプーロス、シェルヒェン、ロジンスキ、セルといった一流どころの名が並んでおり、発掘された其の演奏を聴く日もいつか来ることだらう。

盤は、米國ArbiterによるリマスタリングCD arbiter 131 。





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