たぬきニュース  国際情勢と世界の歴史

海外のメディアから得た情報を書こうと思います。

先にカサスベ中尉を殺し、次に後藤さんのはず?

2015-02-03 14:27:58 | シリア内戦

      

                                         sadegh  ghorbani twitter

後藤健二さんは予告通り殺害されてしまった。イスラム国の脅しは口だけではない、と改めて相手の残忍性を思い知らされた。しかし、よく考えてみると、イスラム国は殺害予告の肝腎な部分を実行していない。

 

イスラム国は次のように予告した。ヨルダン政府がサジダ死刑囚を引き渡さなければ、「後藤健二さんよりも先に、ムアズ・カサスベ中尉を処刑する」。しかし、イスラム国は後藤さんを殺害しながら、カサスベ中尉については沈黙している。中尉は既に死んでいるのに、ヨルダン国内を混乱させるために、生きているかのような嘘をついただけかもしれない。あとは知らんふり、というわけである。

        

しかし、カサスベ中尉は生きていて、イスラム国は別の機会に彼を取引の材料にするつもりである、と考える専門家もいる。

後藤氏だけを予告通り殺害し、カサスベ中尉については知らんふりを決めこむのは何故か、イスラム国の意図を知りたい。

 

カサスベ中尉が生きていることの証明は簡単にできるのに、それをしないのは、彼が死んでいるからだ、という推測は自然であるが、別の理由も考えられる。現時点では彼を釈放するつもりがない。それでイスラム国は彼の生存を証明する必要を感じない。イスラム国は「サジダと後藤さんとの一対一の交換」と言っており、カサスベ中尉を渡すとは一言も言っていない。サジダを渡さなければ、カサスベ中尉と後藤さんを殺すと言っているだけである。

         AP

 

カサスベ中尉の釈放は、ヨルダン政府が勝手に言い出したものである。なぜか。ヨルダン国民60人を殺した人間を簡単には釈放できない。国民は死刑の執行を求めている。サジダ死刑囚を釈放するには、よほどの見返りがなければならない。外国人の後藤さんでは引き合わない。見返りにふさわしいのはカサスベ中尉だ。それでヨルダン側はカサスベ中尉を要求した。できれば後藤さんも釈放してほしいと付け加えたかもしれない。

ヨルダン側が出してきたカサスベ中尉の釈放という要求を、イスラム国は突っぱねた。中尉が死んでいたので無理だったのかもしれないが、サジダと中尉の交換は割に合わない、損だと考えたのかもしれない。

有志連合の空爆によって多くの仲間が死んだ。空爆を行った飛行隊の一員であるカサスベ中尉は死刑に値し、彼は生きることは本来許されない。余程の交換条件でなければ、釈放は考えられない。サジダ一人では、その条件を満たさなかった。

 

カサスベ中尉が非常に価値がある捕虜であることが、彼の殺害が予告されると、明らかになった。ヨルダン世論は沸騰した。これには同国人の死に対する心配というだけではない、別の理由がある。

 

   <ヨルダン国民は有志連合参加に反対>

そのひとつは、ヨルダン国民はイスラム国を空爆することに反対していたことである。有志連合はキリスト教国のアメリカを中心とする軍事同盟であり、イスラム教徒の土地を空爆することを目的としている。アメリカというキリスト教の帝国の戦略的判断に従い、隣国を攻撃することに、国民は反対した。カサスベ中尉の父親は「隣国の問題に軍事介入することは、祖国を守るという息子の任務を超えている」と述べ、有志連合に参加したこととを批判した。

湾岸諸国はシリアのアサド政権を敵とし、これまでイスラム国をはじめシリアの反政府勢力を支援してきた。いまさら「イスラム国は敵である」と言われても、なんのことかわからない。

 

ムアズ・カサスベ中尉の運命が世論を揺り動かした理由のもう一つは、彼がヨルダン国王を補佐する有力部族の一員であるということである。いくつかの有力部族が国王を支えており、これらの部族出身者が軍の中核を形成している。カサスベ中尉は将来ヨルダン軍の幹部となることが期待される、若きエリート将校である。彼の運命は国防軍にとって自分たちの問題であり、有志連合参加の是非を改めて考えざるを得ない。

 

ヨルダン政府は「イスラム国がカサスベ中尉を殺害するなら、サジダ死刑囚だけでなく、その他の捕虜も複数名、処刑する」と警告している。殺害候補の数名は、捕虜のなかでもリーダー格の戦闘員であり、イスラム国にとって、実際問題としてサジダ死刑囚よりも重要かもしれない。

 

カサスベ中尉が生きていればの話であるが、イスラム国は交渉の対価として中尉の価値を知り、最大限の取引をしようと、ずるい計算をしているのではないか。

 

イスラム国は残酷であり、日本の総理は「テロリストの要求には屈しない」という原則を貫いたので、後藤さんの死はやむを得ない結果だった、あきらめるのは誤りである。日本政府の対応は、原則をかかげ一本調子で、もう一歩の努力が欠けていた。

ヨルダン政府もイスラム国も、必死で情報収集をおこない、計算しつくして行動している。日本政府は「テロリストの要求には屈しない」という立場を決めて、それで終わり、としたのではないか。

 

  <周辺諸国はイスラム国を敵と思っていない>

安倍首相は「イスラム国と戦っている周辺諸国を支援する」ことを強調したが、周辺諸国は、本当はイスラム国の空爆に参加したくない。ヨルダン政府は米国から難しい選択を迫られ、やむなく受け入れた。サウジアラビヤとカタールはイスラム国の育ての親である。この2国の富裕層がヌスラ戦線とイスラム国に資金を援助したことは定説である。この2国の空軍がイスラム国を空爆するのは、味方を攻撃するようなもので、訳がわかからない。

 

    <サウジの天敵はイラン>

サウジアラビヤにとって不倶戴天の敵はイランである。イランはイラクのシーア派政府とシリアのアサド政権を支えている。イラン・イラク・シリアの堅固な同盟は、サウジアラビヤという人工的な国家を吹き飛ばす潜在力を持っている。イラン・イラク・シリアは古い伝統を持つ国であり、サウジ王国は100年前に誕生した新興国である。米国の支持と石油のおかげで地域大国の地位を保持しているが、国家の基盤は弱い。

 

サウジアラビヤの油田地帯にはシーア派住民が多く、彼らが「アラブの春」を起こしたら、サウジ王家はおしまいである。湾岸地域でシーア派の勢力が強まることを、サウジ王家は死ぬほど恐れている。

サウジは、シリア・イラン同盟をびくびくしながら注視している。2012年、シリアでは全国的に反政府軍が蜂起し、アサド政府軍は劣勢におい込まれた。しかしアサド軍は2013年に立ち直り、巻き返しに成功した。それでも米国は軍事介入をしない。この時のサウジ政府のうろたえぶりは記録に値する。

「米国は何を考えているのかわからない、頼りにならない」とサウジは痛切に感じた。米国と縁を切ることさえ考えた。自立外交の手始めに、ロシアに接近した。親米派で有名なバンダル王子がプーチンと会談し、ロシアと協力関係を築こうとした。しかし結局、具体的な成果には至らなかった。また米国の禁止を無視して、シリアのイスラム系反政府軍に武器と資金の援助をおこなった。ヌスラ戦線・イスラム国・その他のイスラム系諸派は、対戦車ミサイルを与えられ、資金援助を受け、自由シリア軍に替わる反政府勢力になった。シリア内戦はますます代理戦争の性格をおびた。

 

   有志連合による空爆  標的はコバニのイスラム国 

               Kutluhan Cucel - Hufington

イスラム国はアサド政権と戦っており、サウジにとって友軍である。サウジはヨルダン以上に迷いながら、有志連合に参加した。有志連合に参加する各国空軍がイスラム国を空爆する様子は壮観であり、成果もあった。空爆を受けたイスラム国の損害は大きく、空爆をおこなった国に対するイスラム国の憎しみは大きい。

しかも、空爆に参加した諸国は、内心迷っている。イスラム国を攻撃することの必要性を感じているのは米国だけである。

 

その米国も一枚岩ではない。マケインに代表される一派は、あくまでアサド政権打倒を主張している。彼らはイスラム国を弱体化させる結果、アサド政権が強化されては、本末転倒だと考えている。

 

  <トルコにとってイスラム国は敵でない>

トルコにとって敵はアサド政権とクルド人である。クルド人が独立すると、トルコは東部の大きな部分を失ってしまう。

 

シリアでイスラム国がクルド人を攻撃した時、トルコはクルド人を助けようとしなかった。敵を助ける必要はないので当然である。イスラム国がコバニを攻撃し、コバニは陥落寸前になった。コバニはクルド人の町である。トルコは知らんふりをしていた。イラクのクルド人がコバニのクルド人の応援に駆けつけようとした。するとトルコは自国領の通過を拒否した。米国にせっつかれて、しぶしぶ許可した。トルコがいかにクルド人を敵視しているか、その後再び明らかになった。有志連合の空爆に助けられ、コバニのクルド人が持ちこたえた。今度はイスラム国が劣勢になった。するとトルコはイスラム国に援軍を送った。

 

    <分裂要因があるイスラム国>

イスラム国を危険な敵と考えているのは、米国のみである。イスラム国は世界各地から集まった烏合の衆であり、まとまるのが難しい。土着性も無いので、シリアに根を張って、着実に地方政権へと成長できるか、疑問である。

          デリゾールの Kharta 油田     word bulletin

              

ただISISの支配下にある東部の県は石油を産出するので、石油の値段が上がれば、確実な資金源となり、烏合の衆が、時間と共にまとまっていくかもしれない。日本の自民党がお金の力でまとまっているのと同じように。ただし近くにクルド人がいるので、絶えず衝突が起きる。トルコはイスラム国の成長よりも、クルド人の成長を恐れている。

それにもかかわらず、日本の首相は「イスラム国と戦っている周辺諸国に支援を約束します」と宣言した。

誰が敵で誰が味方かわからない、混乱した状況の中に、軽率に飛び込むべきでない。

 

   <ヨルダン人パイロットは解放された>

一般に報道されていることを踏まえたうえで、最後に、とんでもない情報を紹介します。

イラン・日本語ラジオの29日夜8時の放送です。

ーートルコの複数のメディアは、ヨルダン政府がサージダ・リシャーウィを釈放したことと引き換えに、29日木曜、ヨルダン人パイロットは解放されたと報じています。

日本人の人質、後藤健二さんの安否は今も不明です。ヨルダンの政府関係者も、このパイロットの解放に関して正式な見解を表明していません。

これ以前、一部の情報筋は、「ヨルダンに収監されていたリシャーウィ死刑囚がシリアに入り、ISISのメンバーは日本人の人質と交換するために地域で待っている」と報じていました。  ーーーーー<http://japanese.irib.ir/news/latest-news/item/51717-%E3%A8%E3%AB%E3%80%E3%B3%E4%BA%BA%E3%91%E3%A4%E3%AD%E3%83%E3%88%E3%8C%E8%A7%A3%E6%BE%E3%8B>

 

   <ひょっとして、後藤さんは生きている?>

 

ヨルダンの新聞も、サジダ死刑囚は後藤さんと交換のために、イラクに向かった、と報道しました。トルコの報道が正しければ、ヨルダン政府は嘘をついており、事実をわかりにくくしています。ヨルダンが釈放したのはサジダだけでしょうか。イスラム国は後藤さんを釈放したのだろうか。殺害ビデオは合成でしょうか。政府が秘密取引をした場合、メディアは無力です。

安倍首相がトルコ政府に感謝しているので、変だなと思いました。トルコが黙ってサジダを渡せば、後藤さんは死なずに済んだ。トルコはカサスベ中尉の解放を持ちだし、彼の生存の確認を要求し、交渉を破壊し、後藤さんは予定通り殺されてしまった。日本人として感謝することなど何もない。ひょっとして、後藤さんは生きている?

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ヨルダン空軍のパイロットは... | トップ | ベイジ精油所をめぐる攻防 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

シリア内戦」カテゴリの最新記事