『御浜御殿綱豊卿』の幕開きは、春爛漫の御浜御殿内松の茶屋。年に一度の上下なしの大宴会<お浜遊び>の最中とて、音曲の調べも聞こえてまいります。庭内には数名の腰元たちが、花を摘んだり談笑したり、思い思いのときを過ごしていると、メインイベント<道中ごと>の開幕を告げる先触れが訪れ、一同心を躍らせながら支度に向かう…。
これからはじまる1時間40分余の大作を飾る、素敵な導入部です。
この場の腰元たちは、名題下からでるのがもっぱらですが、私も平成13年8月歌舞伎座での上演時に、このお役を勤めさせて頂きました。当時は演出家の真山美保先生もご健在でしたが、我々にも、事細かに演技指導をして下さいましたこと、懐かしく思い出されます。一番印象深く記憶しておりますのは、「とにかく『楽しそうに』してください」とのことで、年一度の、無礼講とはいかないまでも、多分に開放的な行事にウキウキはしゃいでいるという雰囲気を、強く出すようにとご指示がありました。笑い声もハッキリ大きく、花を摘むとか振り事の真似をするとか(私は三味線を弾く真似をするようにと仰せつかりました)いった仕草も、大人しすぎてはお客様に伝わらないので、しっかりと照れずに演じなくてはなりませんでしたが、普段から女方をしているわけではない身ですから、ちょっと恥ずかしかった記憶がございます。…そういえば、「笑い声が足りない」というダメ出しがあったので、次の日からもっと大きな声で、しかも何度も笑ったら、当時肌の具合がよくなく、白粉の付きが悪かったこともあり、引っ込んで来て鏡を見たら口のまわりだけすっかりはげ落ちてしまっていて、その異様な顔を見た楽屋のみんなから『顔面崩壊女形』とからかわれてしまったことも、今となってはよい思い出です。
ところでこの場の台詞にも度々出てくる<道中ごと>という余興は、腰元たちが銘々下世話の風俗に仮装して、茶番や芸尽くしなど見せながら練り歩くものだそうです。真山青果氏の原作を拝見しますと、中?お喜世と御祐筆江島のやりとり、あるいは綱豊卿とお喜世の会話の合間にも、槍持ち奴、茶屋女、馬子に侍、飛脚といった格好になった腰元たちが滑稽な演し物をしつつ行き過ぎてゆく様が描かれております。今では時間の関係もあり、原作通りの演出は珍しくなりましたが、以前は上演していたそうで、先輩に伺いましたら、<大津絵>の趣向で、藤娘や鷹匠などの拵えで出たこともあったそうです。
今回は近年の演出に倣い、綱豊卿にからむ伊勢参りに扮した子供の召使いしか出ませんが、このお役を、部屋子の梅丸が演じております。当人初めての女方でございます。
また、幕開きに腰元たちの<綱引き>を見せる演出もございます。中央に大きな鈴を下げた綱を大勢で引き合っていて、なかなか勝負がつかないところへ、太った大女の腰元が「ご加勢いたしまする」と片方に取っ付いたとたん、グイグイ引っ張られて大騒ぎ…なんて他愛もない光景ですが、これは師匠久々の綱豊卿だった平成14年5月京都南座では上演いたしました。
女っけが全然なかった先月に比べ、今月の、なんと女役の多いことでしょう。『伏見撞木町』の仲居たち、『御浜御殿~』、『南部坂雪の別れ』の腰元たち。楽屋も心なしか華やいだ雰囲気でございます。
これからはじまる1時間40分余の大作を飾る、素敵な導入部です。
この場の腰元たちは、名題下からでるのがもっぱらですが、私も平成13年8月歌舞伎座での上演時に、このお役を勤めさせて頂きました。当時は演出家の真山美保先生もご健在でしたが、我々にも、事細かに演技指導をして下さいましたこと、懐かしく思い出されます。一番印象深く記憶しておりますのは、「とにかく『楽しそうに』してください」とのことで、年一度の、無礼講とはいかないまでも、多分に開放的な行事にウキウキはしゃいでいるという雰囲気を、強く出すようにとご指示がありました。笑い声もハッキリ大きく、花を摘むとか振り事の真似をするとか(私は三味線を弾く真似をするようにと仰せつかりました)いった仕草も、大人しすぎてはお客様に伝わらないので、しっかりと照れずに演じなくてはなりませんでしたが、普段から女方をしているわけではない身ですから、ちょっと恥ずかしかった記憶がございます。…そういえば、「笑い声が足りない」というダメ出しがあったので、次の日からもっと大きな声で、しかも何度も笑ったら、当時肌の具合がよくなく、白粉の付きが悪かったこともあり、引っ込んで来て鏡を見たら口のまわりだけすっかりはげ落ちてしまっていて、その異様な顔を見た楽屋のみんなから『顔面崩壊女形』とからかわれてしまったことも、今となってはよい思い出です。
ところでこの場の台詞にも度々出てくる<道中ごと>という余興は、腰元たちが銘々下世話の風俗に仮装して、茶番や芸尽くしなど見せながら練り歩くものだそうです。真山青果氏の原作を拝見しますと、中?お喜世と御祐筆江島のやりとり、あるいは綱豊卿とお喜世の会話の合間にも、槍持ち奴、茶屋女、馬子に侍、飛脚といった格好になった腰元たちが滑稽な演し物をしつつ行き過ぎてゆく様が描かれております。今では時間の関係もあり、原作通りの演出は珍しくなりましたが、以前は上演していたそうで、先輩に伺いましたら、<大津絵>の趣向で、藤娘や鷹匠などの拵えで出たこともあったそうです。
今回は近年の演出に倣い、綱豊卿にからむ伊勢参りに扮した子供の召使いしか出ませんが、このお役を、部屋子の梅丸が演じております。当人初めての女方でございます。
また、幕開きに腰元たちの<綱引き>を見せる演出もございます。中央に大きな鈴を下げた綱を大勢で引き合っていて、なかなか勝負がつかないところへ、太った大女の腰元が「ご加勢いたしまする」と片方に取っ付いたとたん、グイグイ引っ張られて大騒ぎ…なんて他愛もない光景ですが、これは師匠久々の綱豊卿だった平成14年5月京都南座では上演いたしました。
女っけが全然なかった先月に比べ、今月の、なんと女役の多いことでしょう。『伏見撞木町』の仲居たち、『御浜御殿~』、『南部坂雪の別れ』の腰元たち。楽屋も心なしか華やいだ雰囲気でございます。
先月の硬派な忠臣蔵に比べて、今月はなにやら華やかな様子・・・ウキウキしてきました
大津絵の藤娘や鷹匠の登場する<道中ごと>も観てみたいです!