梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

見ても聴いても楽しい芝居

2006年06月15日 | 芝居
二日間の休載、失礼をいたしました。
最近、色々な用事に追われてちょっと疲れ気味です。芝居を終えて家に帰るのが午後十時。それから夕食をとり、用事をするのですが、気がつけば日付がかわっているという毎日で、なかなかパソコンに向かう時間がとれません。今月中は、更新が滞ることもままあるかと存じますが、どうぞ寛容なお心でお付き合い下さいませ。いずれ休載日の欄に、お楽しみ画像や情報を追記できたらと考えております。

今日は『二人夕霧』から、面白い下座唄をご紹介いたします。
劇の中盤、伊左衛門の指導のもと、成駒屋(翫雀)さん、瀧乃屋(門之助)さん、加賀屋(松江)さん演ずる弟子たちが<傾城買い>の稽古をしているところに、三河屋(團蔵)さん演じる借金取りが手下とともに踏み込んできて、借金のかたに身ぐるみを剥いでゆこうとします。三人の弟子はこれはかなわぬと一目散に逃げ出しますが、このとき、弟子達の花道の引っ込みで使われるのが、以下の歌詞です。

おたやん 天狗に 般若の面 出そうで出まいのは石原竹の子 畑の蛤 ほってもないこと 惚れそで惚れないヘチャムクレ こっちの思いはうわの空 我らに惚れても ほってもないこと おたやん 天狗に 般若の面(以下繰り返し)…

「ほってもない」は「掘ってもない」と「惚れてもない」の洒落になっておりますが、太鼓、鉦などによる賑やかなお囃子と、陽気なメロディが、なんともお気楽な歌詞にぴったり、一度聞いたら忘れられない一曲です。
…唄の有無に限らず、下座ひとつでお芝居の雰囲気は変わるもの。この演目は昭和四十年四月<第四回 莟会>(六世歌右衛門の大旦那の自主公演)で復活されたもので、当時の演出、振り付けがほぼそのままに踏襲されておりますが、はじめにこの下座を使おうとお考えになった<附師(つけし。その芝居で使ういっさいの下座を決める職分)>のお知恵には脱帽です。

皆様に、もしついつい口ずさんでしまう下座唄がございましたら、もう相当な歌舞伎国の住人ですね。


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