梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

NHKホールにて

2005年05月29日 | 芝居
昨日書きました通り、今日はNHKホールでの『古典芸能観賞会』。天王寺屋(富十郎)さんの『船弁慶』に、師匠梅玉が源義経役で出演いたしました。
歌舞伎座「五月大歌舞伎」の公演中に、すでにお稽古が始まっておりました。千穐楽の二十七日が「舞台稽古」で、ちょうどその時間が、『研辰』と重なっておりましたから、師匠についての仕事ができませんでした。その日は兄弟子方にすっかりお世話になってしまいまして、今日はじめて、この公演で働くことになったわけです。
午後ニ時からの歌舞伎座での『輝虎配膳(てるとらはいぜん)』を終えてから、すぐに渋谷のNHKホールへ。着いたのは四時少し前でした。すでに師匠梅玉の楽屋は、舞台稽古の日につくってありますから、今日は使う分だけの化粧品を出したりするだけで準備完了です。
楽屋、と申しましても、歌舞伎座や国立劇場など、歌舞伎専門の劇場のそれとは違い、どちらかと申しますと「控え室」といった感じです。鏡台、シャワー、トイレこそございますが、広さもそれほどございませんし、畳敷きでもございません。衣裳を着るときなど、直の床では不都合も多いので、この公演のために、臨時で畳を二枚だけ、床に敷いてありました。
私達お弟子さんの控え室もございますから、そこで黒衣に着替え(舞台に後見として出るわけではなくとも、万が一のこともありますから、黒衣でいた方が都合がいいのです)、あとは普段の公演と同様、諸々の仕事をこなしてまいります。
六時十五分頃『船弁慶』の幕が開きました。仮設とはいえ花道もございます。師匠の役は花道から出るので、客席ロビーの隅をパーテーションで囲った「揚げ幕」まで、おかもちを持ってお供します。舞台に出ていった後は早速「撤収作業」。もう使わない楽屋用品をどんどんしまって参ります。こうしておけば、帰るのが早くなりますからね。あらかた片付けたら、あとは師匠がお帰りになってからの作業になります。わりかし早く片付いたので、舞台袖から芝居を拝見。歌舞伎座よりも高さがある舞台、横幅も少し広いでしょうか。広々とした印象です。「紅白歌合戦」を収録するくらいのホールだけに、音がよく反響します。ここをはじめとして、「ホール」と銘打つ会館は、クラシックやライブ等、コンサート用に設計がなされていることが多く、音の聞こえ方が、歌舞伎座など歌舞伎専用の劇場とは違ってまいります。
七時半頃、何事もなく無事終演。師匠がお帰りになったのは八時頃だったでしょうか。それから最終的な片づけをして、二十分後には撤収完了。まとめた荷物は「六月大歌舞伎」で使うものでもあるので、私と兄弟子との二人で、タクシーで歌舞伎座まで運びました。
…一日だけのお仕事といいますのは、荷物の運び入れ、撤収がややせわしなくもあり、また楽屋の勝手も普段とは違って参りますし、本番一回のみ、ということで、失敗が許されないという緊張感も、いつもより余計に感じられます。付人さん、お弟子さん、みなで協力し、助け合い、なるべく「いつもの公演」のように仕事ができるよう、勤めております。

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