梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

古風で迫力があってドキドキして

2009年02月17日 | 芝居
しかしまァ随分と花粉が飛んでおりますね。
目は痒い、鼻水は出る、クシャミが止まらない…。
こういう時期の後見は非常に危険ですが、こんなときに限って、1時間でずっぱりというのが、なんともかんとも…。
お薬の力を借りて乗り切りましょう!

さて…。
『蘭平物狂』の立廻りは、30分ちかくかかる非常に大掛かりなもので、歌舞伎の演目では最長でしょう。
形の美しさ、トンボをはじめとする技の妙で堪能させる場面となりますが、印象が単調にならないようにいろいろな工夫がございます。
下座音楽も、最初は<大太鼓入り合方>で、途中から<どんたっぽの合方>に変わります。
捕手の得物も、<刺股(さすまた)><袖搦み><突棒>という3種の責め道具にはじまり、梯子、十手、六尺棒が代わる代わる登場します。

そして、捕手の衣裳も、途中から変わっています。
同じ“四天”という衣裳なんですが、最初は<毘沙門亀甲>という柄、帯は紫、襷はなし。中盤から、柄が<紫の立涌の中に雲>になり、帯は白献上、赤の襷をした姿に変わります。
からみの衣裳が途中からかわる例は、この『蘭平物狂』くらいではないでしょうか。ふつう、黒四天にしても花四天にしても、髷を結った鬘のときは襷をするのが通例で、『新薄雪』の水奴や『道成寺』の鱗四天のように、髷を結わずにザンバラの鬘のときのみ、襷をしないものなのですが、『蘭平物狂』前半の四天は、髷を結った鬘ですが襷はナシで、これも珍しい例。

主人公、奴の蘭平も、伴義雄の正体を現したという意味で、かの有名な18尺の<大梯子>の見得の前に、“ぶっかえり”をいたしまして、それまでの、白繻子の着付を肌脱ぎした、赤白市松模様の襦袢姿から、浅葱地に孔雀の模様となりますが、これは伴義雄の通称である、《孔雀三郎》からとった意匠です。

残り8回となりました公演、立廻り出演の皆様には、どうかご無事に勤め上げて頂きたいものと切に願っておりますが、この演目の、この場のもつ他にはない緊張感、最高の盛り上がりを、これからご覧頂くお客様には存分に味わって頂きたく存じます。