梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

着かたにも先人のお知恵が

2009年02月04日 | 芝居
『勧進帳』の義経は、紫色の<水衣(みずごろも)>に鶸色の<大口(おおくち>の袴、赤白段染めの地に笹竜胆模様の織物着付という扮装が、“定式”として伝わっております。

どなたが義経をなすっても、この決まりはかわりませんが、なさる方によって、<水衣>の着方が少々変わります。

両袖を、肩の部分であらかじめたくし上げたかたちで着て、両の襟先は重ね合わせない。(なので袴の紐の結び目が見える)というもの。

袖はたくさず、両襟先は袴の紐の結び目を隠すように、重ね合わせる、というもの。

写真などで見比べて頂けると有難いのですが、双方で、描くフォルムがだいぶ変わりまして、うける印象も違ってくると思います。
義経を演じる方が、どの<型>でなさるかということで違ってくるものなのですが、ちなみに持ち道具の<中啓>も、襟に差すのか、水衣を締める紐に小刀と一緒に挿すのか、という違いもございますし、笠の持ち方にもそれぞれのなさり方がございます。

<見た目>の違いばかり申し述べてしまいましたが、<型>を支える根幹は<心>であることは申すまでもなく、これにつきましては私は語る資格をもちません。
弟子として、義経というお役に携わる上で、先輩方から“心得事”として教わったことだけ、今回はご紹介させて頂きました(師匠のなさり方と違う着せ方しちゃったらタイヘンですものね)。