梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

赤尽くし菊尽くし

2008年01月18日 | 芝居
今日は合間の時間に、無料で無線LANが使用できる<SEATTLE’S BEST>から更新しようとパソコンを持ってきたのに臨時休業。パソコンを持ってネットカフェに入るという、なんとも無駄なことになってしまいました…。

さて、猩々です。
猩々は中国の想像上の獣で、古くは「礼記」「山海経」に記されております。
海中に棲み、人語を解し、赤い毛に覆われ顔も赤ら顔、よく酒を好むというのが特徴とされる猩々は、そのキャラクターの面白さからでしょうか、日本に伝わってからは各種の芸能に登場するようになりました。
その決定版とも言うべきものがお能の『猩々』で、孝行者の孝(高)風が霊夢によって市で酒を売ると大繁盛となり一家は栄えるが、毎日店に来ては酒をたらふく呑む謎の客がおり、素性を訊ねると「海中に棲む猩々だ」と言って客は立ち去る。その夜孝風が潯陽の入江におもむくと、はたして海中から猩々が現れ、舞つ唄いつの酒盛りとなり、夜も明ける頃、猩々は孝風に汲めども尽きぬ酒壷を与えて再び海中へと戻ってゆく…。というストーリーは、中国には出典とみられる文書がないことから、日本での創作とみられているそうです。

全身が赤いというのは、酒に酔っている様をあらわしているのでしょうか。お能では、面、かぶりものの毛、大口袴や着付、唐織にいたるまで、すべてに朱色や紅色、緋色を使い、猩々の姿を表現いたします。唯一足袋だけは白なのですが、かつてはこれも赤く染めていたことがあったと、手元の資料には書いておりました。
歌舞伎になりますと、さすがに顔まで赤くすると「赤ッ面」になっていしまいますので、普通の化粧ですが、その他の扮装はほぼ本行通りになっております。

大口袴の柄が<青海波>模様なのは、海中に棲むことを表しています。また、菊の露を飲んで700余才の長寿を保ったという彭祖の故事や、重陽の節句に菊に被せた綿にしみ込んだ露で邪気を祓うことが、<百薬の長>といわれる酒のイメージと重なることにより(今でも日本酒の銘には<菊>が多いですね)、着付の上にまとっている唐織、唐織りを締める紐から垂らす石帯には<菊>の模様が入ります。お能『猩々』の詞章にも「老いせぬや老いせぬや 薬の名をも菊の水」や「ことわりや 白菊の着せ綿をあたためて 酒をいざや酌もうよ」とありまして、この演目と菊とはゆかりが深いようです。

もうひとつ、本行に倣っているのが中啓で、これは必ず<百草図>という柄なのです。百草とは、四季折々の花々を等間隔に描き出したもので、朝顔、桔梗、女郎花、蒲の穂などもございまして、実に可愛らしく、また品のある柄でございます。これも地の色はやっぱり赤。徹底しております。

…猩々につきましては、もう少しお伝えしたいことがございます。それはまた明日ということにいたしましょう。