梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

勝ち取ったチケットで

2006年12月30日 | 芝居
今日から3日間のお休みです。
午前中から昼過ぎまでは家の片付けと掃除、正月のお飾りを買いに出かけたり。家内は本日も働いておりますので、一人の作業ですが、明日本番の<大掃除>の下準備としては、まあまあでしょうか…。

夕方、東京大神宮に行き、明日執行の<年越の祓(はらえ)>でお祓い頂く、夫婦2人分の<形代>を納めにゆきましてから、今日一番のお楽しみ、シアターコクーンにて<野田地図>第12回公演、新作『ロープ』を拝見してまいりました。
チケットの売れ行きが大変素晴らしく、早々に全席完売で、しかも今回は当日券の販売が、あらかじめ電話で受け付けた整理番号の順で売ってゆくという形式で、ただ早くから並べばよいというわけにはゆかなくなり、前売り戦も整理番号争奪戦にも破れた私、大好きな野田秀樹さんの新作を観ずに1年を終えてしまうのか、いや終えるものかと四方八方手を尽くし、ついにヤフーオークションで落札! 苦労して手に入れたチケットで観るお芝居には、いつも以上に集中して入ってゆけますね。

さて『ロープ』…。
ひきこもりのプロレスラー、ノブナガ(藤原竜也さん)は、グレイト今川(宇梶剛士さん)との対戦を前にして、リングの下に住んでいるという不思議少女、タマシイ(宮沢りえさん)と出会います。対戦は完全なる八百長のはずでしたが、<ロープの中の勝負はみんな八百長>ということを認めたくないノブナガは取り決めを無視して暴れまくり、今川は重傷を負ってしまいます。これはショーだったのか暴力事件なのか? しかし、タマシイの実況中継の力もあり、これをたまたま放映した弱小ケーブル局の番組が大変な視聴率。ディレクター夫婦(野田秀樹さん、渡辺えり子さん)はさらなる視聴率アップを目論み、ノブナガ、タマシイたちをあおってさらなる過激な<戦い>を見せようとするが…。
観客の前で<作られた勝負>が繰り広げられるロープの内側から、いつしか舞台は、真実の血が、命が散っていったベトナムの戦場へ。私たちは、他国で繰り広げられた人々の苦しみを、無惨な死を、本当に理解できるのか? プロレスのひと勝負と同じようにしかメディアを受け止められなくなっていませんか…。
後半から一気に加速してゆく芝居は、タマシイの、叫びにも似た戦場の実況中継がグイグイ胸にせまりまして、切なく哀しくなりました。<わあ面白い!>と喜びながら観る舞台ではないかもしれませんが、確実に、観る者へ届くものがある。というよりも、受け止めねばならないメッセージがある劇です。

今年も色々な舞台を拝見できましたが、最後の最後でこの舞台に出会えたこと。本当に私はラッキーです!