梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

肉芝仙より伝わりし…

2006年12月23日 | 芝居
『忍夜恋曲者』の主人公、滝夜叉姫は<蝦蟇の妖術>をつかいます。さしもの勇者大宅太郎光圀も、これにはタジタジとなるわけですが、劇の後半、<屋台崩し>の直前に御殿から這い出してくる<蝦蟇>は、カラミの力者をたぶらかし、幕切れは滝夜叉姫の足下に伏して、ともに光圀を睨みつけるという恐ろしさ。ある意味では、もうひとり(蝦蟇は人ではないけれど)の登場人物といっても過言ではないでしょう。
今月、この蝦蟇を勤めていらっしゃるのは加賀屋(東蔵)さんのお弟子でいらっしゃる、中村東志二郎さん。今回2度目となる蝦蟇の仕事について、お話を伺うことができました。

頭部と胴体部分でふたつに分かれた着ぐるみとなっているそうですが、口の開閉を操作する糸を、自分の左手の指にとりつけるようになっており、その左手を胴から離すように伸ばすと、口がパックリと開くとのこと。
そんな仕組みがある頭部、普通にかぶった状態では、顔が上向きになってしまうので、中の自分の顔はグッと下向きにしておかないと、いい顔の角度にならない。のど元には覗き穴(ここだけ紗布になっている)がついていますが、ときには蝦蟇の顔のせいで視界が遮られることもあるようです。
蛙とはいえ妖術をもつ化け物ですので、動きが軽くならないよう、おどろおどろしく見えるよう気をつけていらっしゃるそうです。ぬいぐるみは自分の体より、当然大きくなるわけで、自分ではほんのわずかな動きだと思ってやった仕草が、いやにオーバーになってしまうのだそうです。
幕切れ、屋根の上でのキマリの形が、体のほとんどを足場から乗り出しているために、バランスをとるのが辛いとおっしゃっていましたが、同じ舞台に出ていますが、そんな風には見えませんでした。着ぐるみの中での人知れぬご苦労、カッコいい形のための忍耐。やってみなくてはわからない世界ですね。あの高い屋根から皆を見下ろす眺めはどんなものなのでしょうね。

写真をいじって、掛け煙硝のドロドロドロ…のつもりですが、あまり恐ろしさは出ませんでしたね。