梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

舞台で逆上がり

2006年12月10日 | 芝居
『将門』の立廻りのはじめに、力者2人が肩に担いだ2本の槍を、さながら鉄棒のようにして、別の1人が<逆上がり>をし、さらにもう1人がその足を支えて持ち上げ、その下を滝夜叉姫がくぐり抜けてのキマリがございます。
『将門』の立廻りといえばまずこの形が思い浮かばれるくらいのもので、他に『義経千本桜』の「鳥居前」でも、同様の形を見せる場合もございますが、この形を、立廻りの言葉で<鬼瓦>と呼んでおります。逆上がりをした者の顔を、あの日本家屋の屋根に見ることができる鬼瓦に見立てているわけですね。
小道具の槍はたいていは堅い樫材(ラワンの場合もある)ですが、それを2本重ねて、より負荷に耐えられるようにし、たいていはメンバーの中で背が高い者2人が左右で担ぐ役目になります。
逆上がりをする人は、なるべくなら軽い人がよいのでしょうが、逆上がりができることが、当然ながらの条件で、かくいう私も173センチ、57~60数kgの身体ながら、成駒屋(福助)さんや加賀屋(魁春)さんの滝夜叉姫で、勉強させて頂きました。
<鬼瓦>というくらいですから、逆上がりしたあとは、自分の顔をしっかり見せそうなものですが、顔を上げるのは行儀が悪いことといわれております。俯きすぎてもいけませんが、あくまで下を向いたまま、視線も伏し目がちにするのが約束です。なんといっても、下で見得をなすっている滝夜叉役者のためのキマリなのですからね。

2メートルちかくは上がるので、下を向いているとはいえ、なかなかな眺めです。左右で支える人や足を持ってくれる人とがイキを合わせてグググと持ちあがる瞬間が一番好きでした(こちらはすでに一仕事終えてますからね、気楽なもんです)。