梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

闘う段取り

2005年06月28日 | 芝居
今日はニ時から銀座の東劇ビルのお稽古場で、『与話情浮名横櫛』の「附総」と、『吉野山』の立ち回り稽古です。
『吉野山』の立ち回りは、義太夫節、清元節、そしてお囃子さんによる演奏に合わせた、半ば踊りのようにできておりまして、拍子に乗って動かなくてはなりません。こういう立ち回りを『所作ダテ』と申します。この『吉野山』の他には、忠臣蔵のお軽・勘平の道行、いわゆる『落人』ですとか、『近江のお兼』、『お祭り』などで見られます。
歌舞伎にかぎらず、お芝居の世界では、立ち回りのことを『タテ』とも申しますが、これに『殺陣』の字をあてるのは商業演劇、新劇の世界だけで、歌舞伎ではこの表記は使いません。
『タテ』とは、組み立てるの『立て』であり、数々ある基本の型を、その芝居の状況、役柄、設定に合わせて、ひとつの流れに組み立てるのが、『立師(たてし)』とよばれる人です。
『立師』は、長年立ち回りの経験を積んだ名題、名題下の俳優が勤めます。幹部俳優さんには、その一門に一人は『立師』がいらっしゃることが多く、自らが主演する芝居に立ち回り場面があるときは、一門から『立師』を出すことがほとんどです。
とはいえこれもケースバイケースで、一門に『立師』がいらっしゃらない場合や、「この立ち回りは是非この人に作ってもらいたい」というときには、よそから『立師』をお願いすることもままございます。
また、『立師』のお仕事も、全く新しい手順を考案する場合と、昔から伝わる手順を教えるという場合があります。先程の『所作ダテ』などは、だいたいが昔からの段取りが決まっているものです。
一方、新作や復活もので、一から作り上げるとき、あるいは昔からの段取りが残っている演目でも、あえて作り替えると言う場合は、大道具、小道具、衣裳、そして下座音楽をはじめとするいろいろな条件を考え、さらに立ち回りをする俳優さんのイメージ、場合によっては演出家の指示も加味しながら作らなくてはならないわけです。
小道具一つにしても、傘を使うのと刀を使うのとでは、まるっきり動きが変わってまいりますし、この役柄ではこんな動きはできない、ということもあるわけです。
『立師』の方々は、自らの経験と、アイディアを駆使し、美しく、面白く、そして動きやすい立ち回りを作り上げるわけですね。

今回の『吉野山』は、播磨屋(吉右衛門)さんの出し物ですので播磨屋さんの御一門の方が『立師』をなさいます。
私、『吉野山』の出演するのはこれで四度目ですが、『立師』さんが変われば段取りも微妙に変わります。気持ちを新しくして、一から覚え直すつもりで、今日のお稽古に参ります。