梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

師匠の衣裳を着せる

2005年06月20日 | 芝居
「衣裳さん」の仕事のお話の中でも書きましたが、幹部俳優さんが衣裳を着る時は、「後ろから着せかける人」つまり衣裳さんと、「前で腰紐を使って着付をする人」の二人が主なる作業をし、これに「左右で作業の介錯、補助をする人」も加わえた数人によって行われます。
「前」「左右」は、衣裳を着る俳優さんのお弟子さんの受け持ちですが、前で腰紐を使い着付をすることを『前にまわる』といいまして、師匠の着付の全責任を負う大切な仕事です。
襦袢や着物の、合わせた襟が崩れたり、裾が<あんどん(腰回りに裾がぴったりつかずに、ダボッと見えてしまうこと)>になったりしないように着付けてから腰紐を結び、帯を上過ぎたり下過ぎたりしない、丁度いい居所で締めるように、介錯をいたします。
また袴の紐の<箱結び>、狩衣や松羽目物の役につきものの<石帯(せきたい)結び>など、帯結び以外の結び物も、前に回るお弟子さんがいたします。
仕上がりを綺麗にすることももちろんですが、腰紐を、師匠にとって丁度いい締め所に、丁度いい締め具合で締めるのも、大事なことです。いたずらにギュウギュウに締めればいいというものではありませんで、セリフも喋るわけですし、踊りも踊ることもある。動きやすく、かつまた着崩れないという頃合があるわけですね。
左右での手助けも、大事な役割です。腰紐や帯を締める時、袂を巻き込まないように持ち上げたり、衣裳さんの手が届かないところを代わりに押さえたり、引っ張ったり。衣裳さんに、次に着るパーツを手渡すこともいたしますし、場面場面で潤滑に着付け作業ができるようにとりはからうわけですから、こちらも気をつかいます。衣裳付けは、前、そして左右のお弟子さん達と、衣裳さんとの共同作業なのですね。
弟子として入門したばかりのころは、まず左右の手伝いから始まることが多いですね。それから比較的簡単な「着流し」、次に裃など袴の<箱結び>をするもの、馴れてくれば、より綺麗に着付けることを要求される舞踊の衣裳や、腕力が必要な<大口(おおくち。能からとった演目で着ることが多い分厚く大きい袴)>など、技術を要するものを担当することになります。
私も、最近はよく前に回らせて頂いておりますが、今月の『教草
吉原雀』のような、<東(あずま)からげ>という着方などは、まだまだ経験不足の身ですので難しいです。裾を左右でつまんで帯に挟むので、裾が描く線が斜めになるのですが、角度がつきすぎてもいけず逆でもいけず、粋に見えるような合わせ方、はしょり方を、いろいろ工夫しております。

衣裳はお客様に直接見えてしまうもの。見苦しいものにならないよう、毎日気を付けながら、作業をいたしております。