まろの陽だまりブログ

顔が強面だから
せめて心だけでもやさしい
陽だまりのような人間でありたいと思います。

歌集『滑走路』

2018年12月07日 | 日記

ベストセラーには興味はないが
評判の歌集や詩集があるとついつい手に取ってしまう。
出版不況の折柄、そんなことはめったにないが
例によってたまった新聞を読んでいると
こんな記事が目に入った。

故萩原慎一郎さんの「滑走路」という歌集だ。
昨年6月、32歳の若さで自ら命を絶った若き歌人である。
初めて出版された歌集がはからずも遺稿集となった。
短歌界の数々の賞を受賞した期待の新人だった。
初めて聞く名前だったが「滑走路」というタイトルに惹かれた。
素敵なタイトルだなあと・・・と思った。
これから大空に飛び出そうとする初々しさに溢れている。
目の前に果てしなく広がる助走路が浮かぶ。

  非正規の友よ負けるな ぼくはただ書類の整理ばかりしている

  ぼくも非正規きみも非正規秋がきて 牛丼屋にて牛丼食べる

萩原さんは非正規労働者だった。
社会の底辺に生きる若者だった。
さまざな苦悩や貧困と戦いながらも自己表現を続けて来た。
非正規という現代的でマイナスイメージの言葉を
これほど生き生きと素直に綴った歌集は今までになかったと思う。

思わず書店で買ってしまった。
平成以降、最も話題を呼んだ短歌集という惹句がついている。
飛行場の滑走路の写真が地平線のように見える。

  箱詰めの社会の底で潰された 蜜柑のごとき若者がいる

  牛丼屋頑張っているきみがいて きみの頑張り時給以上だ

  消しゴムが丸くなるごと苦労して きっと優しくなっていくのだ

口語体で書かれた歌集は初めてだが
自然体の言葉と自在の表現についつい惹かれてしまう。
実に素直でピュアな自己表現である。
さまざまな苦悩を抱えながら
時には社会の理不尽に負けそうになった萩原さんだが
人知れぬ恋もあったらしい。

  きみのため用意されたる滑走路 きみは翼を手にすればいい

この歌集の出版を心待ちにしていたのに
どうして命を絶ってしまったのか
あらためて思ってしまう。