満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

石上和也 Kazuya Ishigami 「trash, rubbish, poor works」

2014-07-17 | 新規投稿
石上和也 Kazuya Ishigami 「trash, rubbish, poor works」

 

石上和也 Kazuya Ishigami 「trash, rubbish, poor works」 (jigen-011)

ラップトップや自作シンセサイザーを駆使し、関西における電子音響音楽のパイオニアである石上和也のアルバムを私が主宰する時弦プロダクションからリリースしました。
 芸大の学生だった石上君としばしばセッションをしていたのは今から20年以上前のことで、当時、彼はギタリストであった。電子音楽を専攻しているとは知っていたが、彼のギタースタイルはノイジーかつジャンキーなフリースタイルで、そんな特異系ギタリストの石上和也を私は好きだった。彼はもはやパンク的とも言える衝動性を持っており、私は当時、「こいつは本当に芸大のアカデミーに生息する人間なのか」と思ったりしたものだ。

 ただ、今となって思えば、彼はギターで<音の響き>を追求していた点に於いて、音響を得意とする現在につながる意識の継続という事を認めないわけにはいかないだろう。彼のギターは確かにスケールアウトな即興ではなく、音の物質性、そのリアルタイムな選択を表現するスタイルであった。過剰なエフェクトではなかったが、奏法やタイム感覚の独自性は自由そのものであり、ユーモラスでもあった。そして私が当時、感心していたのはその活動意欲の広範な点である。彼は所属意識というものが無いのか、電子音響音楽、ノイズ、即興、挙句の果てには弾き語り、ダッラガッパという漫画雑誌を発行したり、とにかく縦横無尽に走り回っている印象で、イグアナバップというハードコアバンドを結成するかと思えば‘わかたけ’というグループにも参加していた。私はこれだけいろんな所に顔をつっこんで、よく自分を見失わないなと感心したもので、その色んな方向へと前進するスピードがすごいと思っていた。現在も本業である講師としては、ポピュラー音楽の基礎理論を教えていたりもするらしいのだが、その守備範囲の広さは尋常ではないのだ。

 そんな多彩な活動を続ける石上君のソロCD第一弾がこのアルバムである。電子音響音楽作品集とのことだが、私は電子音響音楽については、よく解っていない。そもそも、このアルバムに収録されている作品は、ノイズともいえるしアンビエントともいえるのじゃないのか、とも思う。しかし、ジャンル分けはどうでもよい。石上ワールド全快の作品集であるという事は間違いないからである。陳腐な言い方になるが、オリジナルってやつなのかもしれない。

 石上ワールド全快で、自信に満ちあふれていてもおかしくないはずのソロCD第一弾であるが、収録されている作品は「落選・失敗作品」とのことだそうだ。本気なのか、ふざけているのか、なんでなの? しかし当の本人は真面目に本気で、これらの「落選・失敗作品」を世に送り出そうと決意したらしい。
 
 石上君から聞いた話によると、彼は以前あちらこちらのレーベルにデモを送りまくっていたそうだが、レーベルからは返事無し、あってもイマイチな反応だったり、そういった事が続いていたそうだ。そんな状況に失望していった、というよりも、ある種の快感というか悟りに近いものを感じていったそうである。そう言われてみると、確かに彼の作品のタイトルやコンセプトが、時に自虐的でアイロニカルなのも理解できる。

 自虐的でアイロニカルなスタイルは、彼にとっての照れ隠しなのかもしれない。というのも、端から見るとアカデミックな方面での音楽活動にも力を注いでいるようにみえる石上君だが、どうやら芸術至上主義が嫌いみたいである。なんでも、そういった類の音楽は「解る人だけ解れば良い」といった傾向に陥りやすいが、そういったことが特に嫌いだとのことだそうだ。恐らく「アカデミックな方面の音楽」にカテゴライズされてしまう事は、本人にとってはあまり好ましいとは思っていないのかもしれない。そういう意味で、彼は平凡・普通であり続けたい音楽家なんだろうと思う。

YOUTUBEに彼が大学でミュージックコンクレートについて講義している動画があるが、これがなかなか笑える。いや、真面目に講義している彼には失礼だが、そのベタベタな大阪弁でアカデミックな内容をレクチャーするその姿がどこかユーモラスなのだが、実際、彼はとんでもなくナイスガイな奴で、周りの信頼は厚い。私は最近、石上和也、木村文彦と3人で3mirrorsというグループを結成した。7/24ダモ鈴木withマジカルパワーマコのライブにもゲスト出演が決まっている。
   

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