満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

1/31㈯公園通りクラシックス終了。

2020-02-05 | 新規投稿
向井氏から参加オファーを受けた時、二つ返事でOKしたのは田畑満氏との初めての共演に心動いた事が大きいと思う。のいずんずりをエッグプラントで観たのは84年だった。以来、氏の主だった参加グループはずっと観てきたと思う。そんな田畑氏との共演の機会ができた事に秘かに歓喜していた。そして森川誠一郎氏の朗読パフォーマンスとの共演も実に楽しみであった。
今回、ライブの内容は即興と聞いていたので、音響系の場面もありかなと思い、準備としてはエフェクターの選別くらいかと思っていたところに、向井氏から「シェシズの‘左目の虹’と簡単な新曲を田畑君とやりますが参加しますか?」との連絡。もう3日後だが、折角のチャンスなので「やります」と返事して練習していたところに「これもやります」とFour Topsの曲が送られてきた。「ゲッ難しそう。これは大変」と練習し何とかできるかなとなった時に「Four Topsは今回、やめます」「えー!」となり、更に「これをやります」。次の日も「これもやりたいです」と次々と曲が送られ、全部で6曲になった。最後にダメ押しに「奥村チヨの’北国の青い空’田畑君、大丈夫と言ってるので、余裕あれば、聴いておいてください」ときた。「いや、全く余裕ないです」と私。何せもう明日ですので。このように振り回された私だが、曲はいずれも難易度は高くなく、ライブ構成としては逆に即興ばかりでないほうが良いと思っていたので、楽しみが増えたのは事実であった。

ライブは前半が即興、後半が曲をそれぞれ45分くらいの二部構成。まず森川氏、オカハシ氏、ノブナガ氏のトリオで始まり、残りのメンバーが徐々に入っていく段取りに。オカハシ氏が荘厳なオルガンの響きを奏で、森川氏が即興歌と朗読の交互の表現。微妙にディレイを駆使し、言葉のインパクトを増していく。灰野敬二氏にも通じる発声パフォーマンス。ライブの始まり方としてベストだと感じ、のっけから物語の濃厚な序章が幕を開ける。オカハシ氏の音響と散布されるグリッチノイズが素晴らしい。ノブナガ氏は鉦の打音を一種、宗教儀式めいた色彩で重ねていく。この場面でもはやクライマックスと呼べるような空間が出来上がった。抽象的な即興というより何かしらの楽曲めいた創意がここに現れ、ずっと聞いていたい気分になる。客席後方に待機した私と向井氏だったが、見ると向井氏が体を小刻みに震わせている。おや、もうスイッチが入ってしまったか、まさか最初からダンスで入っていくつもりかと私は予見し、先に踊り出されては入りにくくなると咄嗟に感じ、向井氏を追い越すようにステージに進んだ。私はドローン調に音を出し、田畑氏がスペーシーなギター音響を紡ぎ出した。向井氏は客席から踊りながらステージに登場した。森川氏の呼び笛のインパクトが闇を引き裂くようにこだまする。何てこと。まだ始まったばかりなのに、早くも絶頂のような様相を示す。オカハシ氏のシンフォに合わせるように田畑氏が深いリバーブのかかったギターを合わせてゆく。踊りを止めた向井氏がバッグをごそごそ探り始め笛を取り出しマイクへ向かう。森川氏の呼び笛に対応するひと吹きを終え、おもむろにピアノの席に着く。鍵盤を弾くと思いきや、プリペアドの操作。森川氏、再びモノローグと絶叫の朗読。オカハシ氏の音響が消え、ここに場面の転換がなされた。向井氏のモーダルなピアノが加わり、しばらく音だけのドローン的即興となる。更に森川氏のボイスパフォーマンス。全く的確な間で入る。向井氏再び、プリペアドピアノで不協和音。ノブナガ氏の鈴、チーンとまるでご愁傷さまですといわんばかりの音。田畑氏のフランジャー効かせたサイケ音響。向井氏ピアノ音量上げてゆき、オカハシ氏は圧縮されたホワイトノイズを鳴らす。ピアノだけが残り、第一部終了。ありがちな即興演奏の抽象性に終始することなく、楽曲性を感じさせるいわば物語的即興であったと感じる。森川氏の朗読の力が全体を支配した。しかも氏が沈黙の場面においてすら何やら言霊が会場を満たす空気が流れていた。
後半、「前半、胡弓弾くの忘れてた」という向井氏が胡弓の即興でスタート。メンバー全員による一見バラバラな即興、断片的であり、無秩序な音の散乱。向井氏の両手タンバリンの乱打に呼応するように、田畑氏が席を離れ、向井氏が散乱させた空き缶や小さいゴングを鳴らし始める。同じくノブナガ氏も鈴をけたたましく鳴らし始め、打音と金属音の洪水のような音響が会場に広がる。森川氏も鈴を鳴らし、田畑氏のどこかラーガ調を思わせるディレイによるギターがこだまする。ノブナガ氏の特徴である単音を間をあけて打ち鳴らす打音。向井氏の地歌発声に私は無音階のベース音をスライドさせる。この時点でいつなったら曲へ移行するのか定かでないような空気が流れるが、やがて向井氏がピアノに着座し、しばらくイントロダクション的に即興フレーズを弾き、自然に曲の連続演奏に移行する。昨日知ったばかりの‘新曲’だが、二つのキーの反復なので、各人の自由度が増すアレンジとなった。ノブナガ氏のハーモニカ、森川氏の即席の歌が聴き返すとやはり、素晴らしい。「去れよ。滅びよ」という印象的なフレーズを繰り返す。事前に打ち合わせしたかのようなハマリ具合いだ。本来、歌詞のないインスト曲が歌に変容される瞬間だった。シェシズのナンバー「1.2.3」これも本来、インストだが、森川氏が2番から語りを入れる事で全く、違う次元の曲となる。続く‘新曲’も田畑氏のワウをかけたリフ、ノブナガ氏は立ち上がり一定でないビートにも拘らず拍を感じさせる打音で応酬。森川氏の朗読、単調な繰り返しの曲にサビをつける。そしてシェシズのナンバー「パリ」。オカハシ氏のストリングスが見事にマッチ。音階を感じさせないバッキングで曲に色を与えている。田畑氏は深いリバーブでメロディアスに曲を先導する。この曲もシェシズのアレンジとは違う様相を見せ、アルバム「火の環」をプロデュースした私にとって馴染み深い同曲の異なる展開を見た。私はと言えば西村卓也氏(シェシズ)のラインをなぞっていただけであったが。そしてピアノの短めのイントロダクションに導かれ「左目の虹」。この曲はアルバム「火の環」に収録された代表的な曲である。個人的にも好きな曲なので演奏は楽しかった。オカハシ氏の絶妙なストリングス。森川氏あらかじめコーラスを要請されていたが、逆に語りのようなバックに変更しこれが効果大。田畑氏が澄んだ音色でメロディアスにバッキングし曲の壮大さが再現される。しかもギターソロ素晴らしい。私も幾分、メロディアスなバック演奏を意識した。微かに聴こえるオカハシ氏のストリングスと田畑氏による4ADのサウンドに通じる揺らぎめいた音像が美しい。最後の曲「照らす」これも新曲。メンバー全員、ピアノ始まってから「ああ、あれね」と判明するくらい、直前に聴き、確認した曲。デモもらったときの単調さが全員で演奏すると力強いグルーブの曲に変わった。向井氏のピアノ、相変わらず左手のリズムが強い。この時ばかりはノブナガ氏もノーマルなドラム演奏スタイルでオンビートのドライブ。森川氏もドラムに合わせるように鈴によるリズムを刻む。果てなく続くかと思われるようなグルーブが8分。最後に相応しい演奏だった。
お客さんも多数、来場。バイブレーションに満ちたライブで、私にとっては大変、有意義であった。終演後、大阪でもこのようなライブがやりたいと向井氏と話し合っていた。
1/31㈯公園通りクラシックス
☆向井千惠 [二胡er-hu ,piano, danc
☆田畑 満 [guitar]
☆森川誠一郎 [朗読reading]
☆ノブナガ ケン [percussion]
☆宮本 隆 [bass]
☆Okahashi Nobuhiro [ambient]


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