満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

昨日。松下一夫氏(ex-O.A.D)主宰<abstract music meeting>終了

2019-08-11 | 新規投稿
昨日。松下一夫氏(ex-O.A.D)主宰<abstract music meeting>終了。
出番トップは◍瑕疵(マツシタカズオ+鳴瀧朋宏+衣笠智英)+登敬三。松下氏によるO.A.D以来のリーダーバンドを観る。しかもそこに登敬三氏がゲストで加わる豪華な布陣。最初はレギュラーメンバーのみの演奏で幾分、モーダルな即興。SAで使用されるピアノの微妙にコードアウトするような響きが心地よく、そこに松下氏のO・コールマン、或いはM-BASS派を想起させるような癖のあるフレーズが重ねられていく。やがてリズムが怒涛の展開へ変化。ポリリズミックなビートをたたき出す衣笠氏のドラムは手数の多さで圧倒しながらタイトなグルーブを作り、鳴瀧氏は見たこともないようなエレベでウッドベースの音色で土台を固める。このリズムセクションは強力。鳴瀧氏は手先の感覚でボリュームをコントロールし、音色までも歪みや倍音めいた拡がりを作る。エフェクトは最低限に留め、指先の感覚だけで多彩な色を生み出していると言えよう。2曲目から登氏がバリトンサックスで加わり、より疾走感が増していく。松下氏はソプラノに持ち替え、登氏との対比を形成。しかもありがちなフリーフォームではなく、どこかモダンな感性が浮き上がる。バンドサウンド全体が混沌度を上げながらもクールな統制感覚が聞こえるのはやはり、音響的な配慮のせいか。このあたり、かつてのO.A.Dに通じる先端への嗅覚がしっかり、感じられる。ビートも生にもかかわらず、どこかデジタル的なものとの融合を匂わせ、さしずめ、nu free jazzといったところか。
2番目の出演は◍okahashi nobuhiro(NANIWA AMBIENT)+天晴輝一(尺八)。
オカハシ氏は元々、ソロ色の濃いアーティストだが、最近は様々なコラボを実践し、ユニットによってスタイルを使い分けている。天晴輝一はピアニスト廣樹輝一氏の変名だが、このユニットでは尺八とボイス、謎の棒にゴングを扱うノン・ミュージシャンと化す。オカハシ氏のビートを交えたアンビエントに呪術的な天晴輝一のパフォーマンスが重なり、そこには儀式的な空間が広がった。天晴輝一によるけたたましく響くゴング、奇声、嬌声、呟き。オカハシ氏は全く動揺せず、音響の断片を左右のスピーカーに振り分けながら、自らももう一人のシャーマンになる。全く、なんじゃこれは!という驚きに満ちたステージでした。
3番目は私、(Bass)+仁井大志(Gu)+松尾哲治(Dr)のトリオ。このトリオは今年の初めに一度、演奏し、2度目のセッションとなる、仁井氏は独特の空間系ギタリストでセンスの塊のような演奏者。そして松尾氏はジャーマンっぽい反復リズムにジャズ的オカズを組み合わせグルーブを作る味のあるドラマーである。「15分のセットを二つ。間にMC入れ、前半は静かなアンビエントから徐々にオンビート。後半は変則的な即興やって、徐々にオンビートへ」という事前の打ち合わせは演奏が始まると途端に消しとび、30分ぶっ続けで演奏。静かな場面は早々に手じまい、オンビートによるフルボリュームの‘スペース・ロック’と化した。私はディストーションとリバーブを組み合わせ、リフをループさせながら。上でソロ的に大仰なフレーズを弾いた。「もうホーク・ウィンドでいったれ」という私のギアチェンジは久しぶりのライブだという仁井氏のアンビエンスが今回、やや薄いと感じ、この場面で引っ張るよりは早めに火をつけたほうがいいと感じた事による。それが功を奏したかどうかは解らないが3人のノリが出てきたのは後半であった。せっかくベアーズで演奏できるのだからやはり、フルボリュームでないといけない。演奏は楽しめた。後で松下氏から「このユニットはずっと続けてほしい」と言われ、内容、とりあえず良かったのかなと安心した次第。
イベントのトリは◍柳川芳命(Sax)+豊永亮(Gu) DUO。松下氏の要請で私が柳川氏に声をかけ、「誰と演奏でもいいです」という氏の相変わらずの切符の良さを受けて、松下氏が豊永氏を選択し、実現したこのDUO。結論から言うとトリに相応しい最高のセットとなった。のっけから鋭いギター音で切り込む豊永氏に呼応すべくハリのある音色で柳川氏は応酬する。しかしこの二人、噛み合う、噛み合わないという次元を超えたところで音を出していた。一見、双方があっち向いてホイの様相を示しても音の強度がその離反を相殺する。全く不思議なDUOだ。隙間を空けて、さっと二人が同時に滑り込むように音を発する場面も何度かあった。これはバトルではない。駆け引きでもない。探り合ってもいない。初めて組む両者がまるで其々の仕事に没頭しながら無意識に最低限の共有物を作ろうぜと挑んでいるようだった。終盤、豊永氏がアンプのボリュームをゼロにして空ピックで弦をかき鳴らす瞬間があり、それに聞き耳を立てていた柳川氏が空ピックの終わりと同時に号砲するさまは即興演奏の醍醐味とも言える凄味があった。30分くらいであっさり、矛を収めた両者がうなずき合って終了。今日一番の拍手だったのではないか。私もアンコールのつもりで拍手していた。終わった後、二人に話しかけると両者とも、満足そうな笑顔を見せていたのが印象的だった。このイベントをオーガナイズした松下氏にも改めて感服した想いである。
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