満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

BIOSPHERE 『CIRQUE』

2007-11-11 | 新規投稿
    
ノルウェーのアンビエントエレクトロニカ、BIOSPHEREの『CIRQUE』。衝動買いして大正解。最高。2000年発表のリイシューである本作。こんな傑作を聴きいてなかった事を後悔。そこまで思わせる音楽。こんなCDに出会うだけで生活が楽しくなる。

感動的なまでに作り込まれた音響作品。
練りに練られた音達が四方八方に運動する。ゆっくりと躍動感を制御しながらテンションが上下にコントロールされる。さり気なく光るメロディ。自然音や日常の音が旋律を伴って蘇生する。音象がズームアップされ、ゆっくりと奥へ下がってゆく。造形的な未聴の音が空間に顕れ、立ち消えてゆく。ミュージックコンクレート的な具体性、構築性に楽曲というカバ-がゆっくり掛けられる。だから感触は暖かい。ヒューマンな匂いすらある。実験音楽とさえ言える程の冒険主義や前衛性があるが、全体を貫く核心は人間主義、ヒューマニズムのような気がする。安易なメロや作為的なフレーズの反復が皆無な事が逆に今作の<旋律的>な感動を保証しているとも思われる。

資料がないので確認できないがBIOSPHEREはGeir Jenssen個人のユニットのよう。
実験精神のかたまりのような人だろうか。
日常の音や自然音、雑音、人工音、ボイス等を旋律的に響かせる。単音が旋律になる。あるいはたった二音のフレーズを造形的に複数音階的に奏でる。<嘗て無い音>の生成に執着し、自らが内に持ったイメージを追い求める結果、このような練られた音楽を生み出せるのか。ここには大変な努力も辞さない求道的な姿(まるでMike Oldfieldのような)が見えてくる。そしてアーティストの理想主義的な気質をも想起する。

メロディは潔いほどの簡潔さに圧縮される。甘口なものを意識的にカットするような感性。アンビエント系エレクトロニカによくあるストリングスシンフォニーは全くなし。重厚なシンセもなし。2小節のメロディすらない。なのに他のどんなエレクトロニカよりも旋律的に酔わす力を持つ。ここが凄い。<響き>に対する鋭い感覚が尋常でないのだろうか。

BIOSPHERE=Geir Jenssenの創造は音楽のフォームや表面的なメロディに添う楽曲へ向かうのではなく、内的な自発性による音楽構築、イメージの断片を紡ぎ併せながら結果的に壮大なドラマへと至るという<大きな>音楽である。大きな鼓動、大きな旋律が鳴り響くオーケストラの如く音楽世界だろう。
私は他のアルバムもすぐ買わねばなるまい。

2007.11.11

  
コメント (2)
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