満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

 JOE ZAWINUL   『BROWN STREET』

2007-08-15 | 新規投稿
  

ザウィヌル名義のアルバムでこれほどつまらないものも珍しい。よく聴けば理由は明らか。
これはザウィヌルの作品と言えるのか。違う。名義は<KOELN WDR BIG BANDフューチャーリング JOE ZAWINUL ウィズVICTOR BAILEY アンドALEX ACUNA>とするべきだった。長すぎるわいと言われそうだが、そうゆう内容なのだから仕方がない。ジャズ誌などの評ではWDR BIG BANDによるアレンジが好評で「最高!」とされているみたいだが、私には月並みなアレンジとしか思われない。そもそもアレンジと言えるほどのものがない。原曲を忠実になぞっているだけでウェザーリポートでのシンセパートを重層的なホーンセクションに置き換えただけ。しかもショーターレベルのソロやインプロは当然、望むべくもない。結局、ここにはなにもない。ジャコパストリアスのワードオブマウスのような原曲をねじ曲げながら、テンポを変幻自在に変えるようなアグレッシブな姿勢もない。まるで保守的だ。単に演奏が上手いだけだろう。これのどこが最高!なのか。

このビッグバンド、感性がフュージョンなのだ。GRPなどに類似し、決してギルエヴァンスが持った方向性には向かっていない。どうせやるならザウィヌルが魂込めてアレンジすれば良かった。そしてあの核弾頭パコセリー(ds)を呼べば良かったのだ。彼ならこの怠惰な空間をぶち壊して全体をあらぬ方向へ引っ張ってくれただろう。予定調和で面白みのないこの音楽にスリルをもたらしてくれたかもしれない。勝手なこと言ってるが。
ウェザーやザウィヌルシンジケートに比べ、決定的に足らないものがある。スピードだ。遅すぎる。テンポを感じさせる危うさ、生命感がない。安定し過ぎだ。安心して聴いていられるこの音楽は単なるショーミュージックだろう。ザウィヌルの弾く音色、音の選び方、フレーズ。それらは相変わらずカッコいいが、それすら余興の域を超えるものではない。レイドバックが最も似つかわしくない天才が演奏の<お仕事>をした。こんな姿勢は初めてではないか。もっとも、もう70才か。なるほどザウィヌルがやっと音楽人生に於ける一休みの姿勢を見せたのだ。攻撃的姿勢を中断しリラックスした。
故郷ウィーンにオープンした自分のクラブでケルンのビッグバンドと共にエンジョイした一夜の演奏。そんなに騒ぐものでもない。しかしCDとしてリリースするなら、ちゃんと正確な名義にするべきだった。

2007.8.14
    
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする