思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引書』

2021-05-19 10:59:05 | 日記
岸本佐知子 訳
『掃除婦のための手引書 ルシア・ベルリン作品集』

ルシア・ベルリンは
亡くなってから10年以上が経った今、
人気が出ているアメリカ女性作家。

生前は寡作で、知る人ぞ知るという感じの短編作家だったらしい。
カーヴァーが影響を受けているとか。

アラスカ生まれ、ほぼチリ育ち、
後半生はサンフランシスコやコロラドにいたようです。

自分の人生に立脚した物語を綴るので、
「わたし」の一人称が多いのですが、
「いつも同じ主人公だなあ」という感じは全くない。
どの短編も新鮮で、独特。
風物の描写や、そのときの気分の表現が、とにかく面白い!

少女である「わたし」も、寡婦である「わたし」も、
掃除婦の「わたし」も、不思議な視点を持っていて
文章に引き込まれる。
やっぱり表題作が好きだなあ。

訳者の岸本さんが、雑誌の対談で
ルシアと武田百合子を比較する話をしていて、
それもおもしろかった。

2020年本屋大賞〔翻訳小説部門〕第2位。
第10回Twitter文学賞〔海外編〕第1位。
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盛田隆二『二人静』正しく良質な小説

2021-05-18 13:18:20 | 日記
盛田隆二『二人静』

よかった。
アマゾンで高評価なのも、納得だ!

正しく良質な文学作品だったよ!
よかったよ…。



いや、不満はないし、本当に良い小説なんです!けど!!

最近個人的に注目している「Twitter文学賞」の第一回受賞作なんですよ。

なんというかね、
「Twitter文学賞」の受賞作ってクセが強いじゃないですか。

『本にだって雄と雌があります』とか
『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』みたいな
「頭おかしいけどおもしろいな!」系が
堂々一位を獲れちゃっているところに
多大なる好感と期待を抱いておるわけです。

ついでに、あらゆる賞に縁遠そうな
佐藤亜紀大先生が2回も1位を獲れているところにも
心を鷲掴みにされていまして。

という先入観があったもので。

第一回受賞作の『二人静』。
正しく、良質な、文学作品だったので、
戸惑ってしまったんだな(失礼)。

とはいえ良い小説だと思う。
野間文芸賞とかが合うのではなかろうか(誰かくれないか?)。

周吾は最終的にあかりさんと家庭を築いてほしいと思うけど、
その手前あたりで終幕させたのも良いと思う。
逆に、その後を楽しく想像できるというか。

うん、良い小説。
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【読書メモ】2015年4月 ボッシュ祭り中

2021-05-17 15:57:39 | 【読書メモ】2015年
<読書メモ 2015年4月>
カッコ内は、2021年現在の補足コメントです。
7年前の春は、アメリカミステリマニアの先輩から
<ハリー・ボッシュ>シリーズをまとめ借りしていたのでした。
個人的には
「ボッシュ!お前はハードボイルドじゃない!社会不適合者だ!!」
と思っていて、たまに気分転換で別の小説を読む、という日々。
いや、結構おもしろく読んでましたけどね…!
以下、当時のメモ。


『ラスト・コヨーテ』マイクル・コナリー
ボッシュシリーズ4作目。
ボッシュ短絡的!と思っていたが、
とうとうパウンズを死に至らしめる羽目に。
やりすぎ!!短絡的すぎ!!!
後悔はしてるけど反省が少ない!!
北上次郎の解説は言い得て妙。
「とことん過去に遡る、未来の無い男」と。
この作品でシリーズひと段落、という感じか。

(迷宮入りしていた母の殺害事件という「過去」に
 ひとくぎりをつけた作品。
 とはいえボッシュは未来の無い男である。
 というか後先考えなさすぎる男である。
 お前は何歳だ!!)


『ザ・ポエット』マイクル・コナリー
ボッシュ月間と言いつつ、これはノンシリーズのもの。
新聞記者の一人称なのだけど、なんだか暗い男である。
「シニカル」という表現を多用しているけれども、
そういう鋭角的なものではなく、ただただ暗いという感じがする。
レイチェルへの嫉妬やらセックス後の電話に出ないことに
いちいち引っかかる考え方やら、暗い!
こういうねちっこい感じってアメリカ的なのか?

(新聞記者のジャック・マカヴォイが主人公。
 暗い男ですが、後々<ハリー・ボッシュ>シリーズに登場します。
 FBI捜査官のレイチェルも再登場します。
 暗い男ですが、作者の記者時代がモデルだそうです)


『トランク・ミュージック』マイクル・コナリー
ボッシュシリーズ5作目。
第一作のヒロイン・エレノアに再会するボッシュ。
女々しいよボッシュ…。
少女マンガ並の女々しさ。
コナリーが描く男はみんな、アメリカンマッチョ思考な割に
やることなすことがなんとも女々しいんだよなあ。
事件は二転三転しておもしろかった。
痔の薬を目元に塗ると若く見えるというのは勉強になりました。
あとアメリカの警官は全員犯罪者。

(コナリーは、どの作品もプロットが面白くて
 上下巻の文量でもぐいぐい読んじゃうんですよ。
 それはさておき、5作目まで読んで、
 「身内に凶悪犯罪者を抱えすぎだぞアメリカの司法よ!!」
 という思いが拭えない)


『黒後家蜘蛛の会』アイザック・アシモフ
おっさんが集まって美味しいディナーをもぐもぐしながら
謎についてああでもないこうでもないと推論し合う短編集。
いいなあ。
入会したい。
推理作家のルービンと画家のゴンザロがキャラがたっていて、
会話がわかりやすいのも良い。

(こちらが当月のお口直し小説です。
 この作品に出る探偵役のヘンリーも好きだけど、
 ヘンリーのモデルになったというウッドハウスのジーヴスも好き)

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『香水 -ある人殺しの物語-』パリの鼻男一代記

2021-05-14 12:04:35 | 日記
1985年にドイツで刊行され、
当時23カ国に訳されてベストセラーになった小説です。

『香水 -ある人殺しの物語-』
パトリック・ジュースキント
池内紀 訳(ちなみに日本語版は1988年)

サブタイトルがちょっとセンセーショナルなので、
徹頭徹尾猟奇系の話かと思っていました。
『FBI心理分析官』みたいな異常性犯罪者の記録風とか、
『冷血』みたいな特定の犯罪者のノンフィクション・ノベル風とか、
『羊たちの沈黙』『ボーン・コレクター』みたいな表現キツめの
シリアルキラー小説とか、みたいな。

と思ったら、そうではなかった。

どちらかと言うと、嗅覚が異常に発達したヘンテコ男の人生を、
文学風に淡々と綴る系かな。

『阿Q正伝』(魯迅)とか『イワンのばか』(トルストイ)を
思い出しました。
いや、そこまで文学ではないけど。
副題のイメージがちょっと違うかな、という感想。

それはさておき、中身はおもしろかった。
連続殺人者としての活動は小説の後半3分の1くらいかな。
それよりも、前半がおもしろいですね!

天才的嗅覚を持ったクレイジー変人グルヌイユが
どう生まれてどう育ったか、
ついでにその周辺の人物がどんな物語(?)を背負っているか、
というパートがとにかく面白かった。

調香師としての師匠が2ページくらいかけて延々と、
ライバルへの愚痴と我が身への嘆きを述べているところとか、
「この爺さんしつこいな!」と思いつつ楽しい。

18世期パリの「臭い」描写もおもしろかった。
実際に臭気で体調を崩したり、死んでしまうこともあったとか。
どんだけ臭かったんだよ花の都パリ…。

文章も翻訳もいい。
さくさく読める文章で、異常者グルヌイユの人生を飄々と描きます。

数年前に映画化もされたみたいですし、
2003年に(ようやく?)文庫化されたようです。
近年でまた再燃してるのかな?
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アントニオ・タブッキ『レクイエム』夏の旅行代わりに良い。

2021-05-13 09:52:18 | 日記
アントニオ・タブッキ『レクイエム』
ザ・幻想文学って感じの一冊です。
と言いつつ、夏の小旅行という感じもあって、
休日に読むと良い時間を過ごしたなあって思える。
お得!

7月の終わりの暑い日曜日。
リスボンの町を彷徨いながら、
死者に再会する「わたし」の物語。

現実には、アゼイタンの友人の農園で休暇を過ごしていて
桑の樹の下で読書をしていたはずなのに。
いつの間にか「詩人との待ち合わせ」で「リスボン」にいる「わたし」。

という不思議な状況も自然に受け入れて、
街をうろちょろして、いろんな人に出会います。
ポジティブ!

死んだはずの友人やら恋人やら若かりし頃の父やら歴史上の詩人やら。

「わたし」が何歳か、何年が舞台の物語か、わからないのもいい。

死んだ友人タデウシュの部屋に飾られている写真は
1965年に「わたし」が撮ったものだそうで。
50年代のアアルト作品にも言及してる。
この小説の初版が91年だけど、その頃のリスボンのイメージかな?

個人的には、もうちょっとまえ、
70年代ぽい空気感を抱いたのだけど。
リスボンには行ったことないけどね!

フェイジョアーダとかパイナップル・スモルとか
サラブーリョとか、ポルトガル料理をモリモリ食べてるの、
良かった。
幸福な胃もたれをしそうだ笑。

昼の12時から夜中の12時までの、わずか半日の物語にしては
密度の高い移動と出会いと会話と食事だと思うけど、
幻想文学なので「それでよし!」(と、作中でオウムも肯定してくれる)。
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