思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

奥泉光『モーダルな事象─桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活』

2018-03-14 16:47:19 | 日記

タイトルの通り、読了しました。

奥泉光と言えば、
個人的には古川日出男問題的なるものを
抱えている作家さんというか。

要するに、どうも、
作品によって合う合わないが激しい気がしてます。

それはさておき、
『モーダルな事象─桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活』
は、おもしろかった。

遠い昔に『鳥類学者のファンタジア』は楽しく読んでいて、
なんとなくフォギーや宇宙オルガンなどは記憶に残っていました。
なので、そういった並行世界設定も、
読者サービスとして喜ばしく受け取れました。

北川アキは記憶になかったのだけど、
元夫婦刑事は良い味出してましたね。
ホテルの部屋は別々なのに、混浴にふつーに一緒に入るとか、
むずむずする距離感の二人だなあと。

クワコーのダメっぷりも良いですよね。
実を言うと、
クワコーシリーズ2作目3作目をすでに読んでいたので
「そうそう!このダメ感だよ!想像の斜め下を下回るダメ感!」
と、頼もしくなるくらいです。
(むしろ、2作目3作目が、私は「合わない」ヤツです。
 作者のせいではないけど、表紙詐欺もひどい。
 そういうの要らないから!)

ちなみに、この作品、「本格ミステリマスターズ」という
叢書のひとつであります。

メタっぽい構成やSFチックな現象もあったりして
「本格ミステリー、なのか・・・?」
という感想を抱いたのですが。
あとがきで作者ご本人が、
そういうメタやSF要素は最小限に留めて
「ミステリ好きの人にちゃんと読んでもらいたかった」
と語っており、ああ手加減してくれてたんだありがとう…
と思った次第です。

まあ、確かに、読みやすかったし、理解しやすかった。
場当たり的な解ではあったけど真犯人とトリックは
ひと通りすっきり説明はされていた。
うむ、ありがとうございます。

個人的に、恩田陸と奥泉光に関して
厳密な整合性とか謎解きの爽快感やハラオチは求めてませんので。
ぶ厚い割に、焦らず、不安を抱かず、
平静な気もちで粛々と読み進められました。
ありがとうございます。
(誉めてます)

ちなみに単行本で読んだので解説もついていましたが、
(作者のメタ解説という説もあったらしいのですが
 実在の書評家が書いているようです)
なんか、この文学論を理解できなければ奥泉作品の良さは
わかるまいって感じのハイブローな文章で、
私はわからなさすぎて悲しい気持ちになってしまった。
読んですみません!
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殊能 将之『黒い仏』バカミス?

2018-03-05 14:59:41 | 日記
トンデモミステリという前情報を仕入れて読みましたが、
これは、バカミスというヤツではなかろうか…。

というわけで、殊能 将之『黒い仏』の
ネタバレの感想です。
未読の方はご注意ください。



えーっと、ひとことで感想を述べると、
バカミス?

あ、もう言ったか。



いや、バカミスがダメとは言いませんが。
(というかよくわかってませんが)
前半部は、なんか、ちゃんとしたミステリっぽいんですが
後半から、なんか、唐突に、作者が何かを放棄した感じになります。
(個人的な感想です)

人ならざる者が唐突に出るとか、
「力」がどーのこーのとか、別にいいですよ。
別にいいんですけど。

肝心のミステリ部分が投げやりになってないか。

探偵が推理した通りにするためにタイムスリップするとか、
ちょっと、何がしたいのかわからなくて、
私は理解に苦しみました。

それ以上にですね、
くろみさまとか、天台宗の僧が隠れていた理由とか、
お宝の在りか(これもムリヤリ感がすごい推理で…)とか、
いろんなことを放棄しすぎではないだろうか。

石動探偵かわいそう。

『美濃牛』がミステリとして
よくできていたなと思ったので、
第二作にしてこの扱いはどうなのよ……。
と、私は思いました。
個人の感想です。
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中島京子『小さいおうち』結構な良作ですが

2018-03-02 14:13:24 | 日記
ワトニー・ロス、略してワトロスがすごいです。
もっとワトニーの火星サバイバルを読んでいたかった……。
なんで火星から帰っちゃったの……。
ワトニー!!

ま、それは著者の第二作(『アルテミス』)を読んで
なんとか心の慰めとするとして。

ワトロス真っ最中なので、
次に読んだ中島京子『小さいおうち』に
いまいち集中できませんでした。
ごめんねタキちゃん。
(更新の順番が逆になっていますが、
『下町ロケット』を読んだのは『火星の人』の前でした)

というわけで、表題の『小さいおうち』です。
第143回直木三十五賞受賞作です。

タキおばあちゃんが、
戦前、女中のタキちゃんだった頃を回想するお話しです。

いわゆる昭和初期の中流家庭での女中さんです。
これくらいの社会的地位の人たちが、
書生や女中さんを家に置いていたことに
まず驚きました。
住み込みで人を雇うって、もっとずっと
上の方の家庭だと思っていました。
まあ、旦那さまは小さい会社とはいえ、重役さんだったけど。

そんな女中のタキちゃんから見た東京の風物や、
若く美しい奥さまとの暮らしが
瑞々しくて、ちょっとノスタルジックで、
とても良い小説です。

戦前、戦中も描かれるのですが、
東京郊外の中流家庭(の女中)にとっての戦争と世の中
という描き方が、
よくある戦争モノの重苦しいイメージとかけ離れていて
新鮮でした。勉強になる。

物語の合間でちょこちょこと、現代に戻って、
大学生の甥っ子がつっこみを入れるのも良いですね。
「戦時中の日本がこんなにウキウキしてるわけないよ」的なね。
「戦勝セールに喜んで行くなんて不謹慎だ」的な。
現代から俯瞰して偉そうに歴史を振り返る甥っ子(我々)と、
その時代を、「自分」というミクロな視点から見たタキおばあちゃん。
そのすれ違いが、またなんというか、勉強になります。

それと、随所に出てくる、昭和の中産階級(とはいえ育ちが良い)
奥さまたちの言動がかわいらしいです。
時子奥さまの「うんと」「ちっとも」「~でなくっちゃ」などの
品が良いけど、ちょっと女学生ぽいような口調が、とても良いです。
『女中さん読本』に「シチュウのつけあわせは、なます」
と書いてあったというディテールも面白い。
当時の雑誌にありそうな、でもさすがにナマスは無さそうな。
絶妙な面白さですが、これ、ホントなのかな。気になります。

最後に、タキおばあちゃんが亡くなった後の
甥っ子視点のお話しが少しついていて、
それが良い余韻を残してくれます。
タキちゃんが一人称で綴る「黄金時代」だけでない
側面が垣間見えるというか。

結構な良作である、というのが感想ではあるですが、
ちょっと、ワトロスが酷くてのう…(しつこい)、
なんかいまいち集中できなかった。申し訳ない。
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池井戸潤『下町ロケット』働くって大変です

2018-03-01 16:42:06 | 日記
第145回(2011年上半期)直木三十五賞受賞。

池井戸作品は、『空飛ぶタイヤ』『シャイロックのこどもたち』
『銀行仕置き人』『最終退行』『株価暴落』と読んで、
銀行員って大変だなあ…というのと、
ピンチ山盛りで、さらに追いピンチ!ってくらい
ピンチのターンが辛いなあ…という印象が。

『下町ロケット』も、出だしっからピンチ大盛りです。
会社員を10年以上やっている私としては、
他人事じゃない辛さ…。
読んでて辛い…。
かと思いきや、意外とテンポが良いのね。
『空飛ぶタイヤ』は、結構、前半のピンチターンが重くて
辛かったのです。
今作は、辛いことも、腹立つことも多いけど、
読む辛さは特に無いというか。
様々な人間模様やビジネス模様が面白く展開します。

さらに、池井戸作品ならではで、登場人物は多いのですが、
純粋な悪役ってのは実はそんなに多くなくて、
それぞれが自分の仕事へのプライドや、
大事にする部分を持っていたりして。

総じて、働くってことはとても大変だし、
それでも働くってことは自信を持って良いことだし、
働く自分というものに向き合うことは
生きる上でとても大事なことだと思わせてくれます。

個人的には、佃工業にイジワル査定をしてやろう、と
息巻いてやってきた帝国重工の査定スタッフが良かったです。
結論として、
「良いものを悪いという評価はできない。
 なぜなら正しい査定をしないと自分の評価に関わるから」
というのは、とても正しい姿勢だと思いました。
自分の仕事への矜持、大事ですよね。
会社に評価されることが全てだとは思わないけど、
能力を評価され、正しい対価としてのお給料を
もらうことって、本当に大事だと思います。

池井戸潤って、ホント、
なんでこんなに会社員の心の襞をくすぐるんだろう。
いや、会社員じゃなくても面白く読むと思うんですが。
私の中のサラリーマンな部分が、ガッツリ掴まれて
離してもらえないというか。

あと、銀行員は大変そうだなって、毎回思う。
よほど苦労なさったのか。
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