思惟石

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中島京子『小さいおうち』結構な良作ですが

2018-03-02 14:13:24 | 日記
ワトニー・ロス、略してワトロスがすごいです。
もっとワトニーの火星サバイバルを読んでいたかった……。
なんで火星から帰っちゃったの……。
ワトニー!!

ま、それは著者の第二作(『アルテミス』)を読んで
なんとか心の慰めとするとして。

ワトロス真っ最中なので、
次に読んだ中島京子『小さいおうち』に
いまいち集中できませんでした。
ごめんねタキちゃん。
(更新の順番が逆になっていますが、
『下町ロケット』を読んだのは『火星の人』の前でした)

というわけで、表題の『小さいおうち』です。
第143回直木三十五賞受賞作です。

タキおばあちゃんが、
戦前、女中のタキちゃんだった頃を回想するお話しです。

いわゆる昭和初期の中流家庭での女中さんです。
これくらいの社会的地位の人たちが、
書生や女中さんを家に置いていたことに
まず驚きました。
住み込みで人を雇うって、もっとずっと
上の方の家庭だと思っていました。
まあ、旦那さまは小さい会社とはいえ、重役さんだったけど。

そんな女中のタキちゃんから見た東京の風物や、
若く美しい奥さまとの暮らしが
瑞々しくて、ちょっとノスタルジックで、
とても良い小説です。

戦前、戦中も描かれるのですが、
東京郊外の中流家庭(の女中)にとっての戦争と世の中
という描き方が、
よくある戦争モノの重苦しいイメージとかけ離れていて
新鮮でした。勉強になる。

物語の合間でちょこちょこと、現代に戻って、
大学生の甥っ子がつっこみを入れるのも良いですね。
「戦時中の日本がこんなにウキウキしてるわけないよ」的なね。
「戦勝セールに喜んで行くなんて不謹慎だ」的な。
現代から俯瞰して偉そうに歴史を振り返る甥っ子(我々)と、
その時代を、「自分」というミクロな視点から見たタキおばあちゃん。
そのすれ違いが、またなんというか、勉強になります。

それと、随所に出てくる、昭和の中産階級(とはいえ育ちが良い)
奥さまたちの言動がかわいらしいです。
時子奥さまの「うんと」「ちっとも」「~でなくっちゃ」などの
品が良いけど、ちょっと女学生ぽいような口調が、とても良いです。
『女中さん読本』に「シチュウのつけあわせは、なます」
と書いてあったというディテールも面白い。
当時の雑誌にありそうな、でもさすがにナマスは無さそうな。
絶妙な面白さですが、これ、ホントなのかな。気になります。

最後に、タキおばあちゃんが亡くなった後の
甥っ子視点のお話しが少しついていて、
それが良い余韻を残してくれます。
タキちゃんが一人称で綴る「黄金時代」だけでない
側面が垣間見えるというか。

結構な良作である、というのが感想ではあるですが、
ちょっと、ワトロスが酷くてのう…(しつこい)、
なんかいまいち集中できなかった。申し訳ない。
コメント
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