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宮内悠介『ヨハネスブルグの天使たち』おもしろい!

2018-09-12 23:07:46 | 日記
宮内悠介『ヨハネスブルグの天使たち』読了しました。

デビュー作の『盤上の夜』に続いて
直木賞候補になった作品です。

ちなみにこの作者、デビューはSF系の短編賞ですが、
直木賞、芥川賞、ついでに山本周五郎賞や三島由紀夫賞など
多岐に渡る文学賞の候補にあがっているそうです。
それだけでも、多彩というか、万人に届く作風というか、
なんらかを感じます。

で、『ヨハネスブルグの天使たち』です。

これは連作短編集で、
すべての物語が、とある近未来の設定で描かれています。
地球上の各地で相変わらず起きている紛争を
様々な国と主人公の角度から切り取って、深く(しかし読みやすい)描きます。

すべての物語には共通して日本製の人型ロボットDX9が
登場するのも本書の特徴。
富裕層向けの娯楽ロボットとして開発され、
販路の問題で「楽器」として売り出す予定だったDX9。
というわけで、見た目はかわいい女の子ですが、
機能は、「歌うこと」だけ。

のはずが、紛争地域では単純殺戮兵器として
ソフトを入れ替えられたり。

第2に人生として人格をアンインストールされたり。
(それは本当に自分なのか?何かの解決なのか?)

短編ごとの、深く、グレーな、人類への問題提起に
毎回ひと役買っています。

ちなみに、書評とか広告とかで、
「少女ロボットが毎日降ってくる」みたいなことが書かれていて
「トンデモ系かよ!!!」と思って、ちょっと忌避していたのですが
読んだら全然トンデモくなかった。
地に足ついてた。
(はい、次からネタバレゾーンです)


がっつりネタバレですが、
工業製品の「対衝撃テスト」で毎日落下しているという設定でした。
と言われると、「あ、そう」ってなりますが、
風景として毎日夕暮れに女の子型ロボットが多数落下するって
ビジュアル的にも強いですよね。
すごいな!と思いました。
巻末の日本(団地!)が舞台の短編にも落下モチーフが出ます。
そちらは表題作に比べるとイマイチですが、
日本・近未来・団地というキーワードを掛け合わせると
納得のいく設定とも思えました。

まあ、それは一部でしかなくて。

この小説は、それぞれの短編で、
紛争や喪失や民族や宗教を用いて「社会」と「個」の関係性を
多角的に、そして何よりも大事ですが、
”わかりやすく””感じやすく”描いている短編集だと思いました。

ヨハネスブルグってどんな国?と問われて何も連想できなかった人
(私ですけどね)は、是非とも読んでおくと良いと思います。


あと、定型文のような薦め方でアレですが、
伊藤計劃が好きな人にこの作品はオススメできると思います。
うっかり『あとは野となれ大和撫子』を薦めると
ちょっと揉める気はします。

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