うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

なりたい

2015年08月04日 | 畠中恵
 2015年7月発行

 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第14弾。
 病いがちの若旦那。神様相手に、来世では何になりたいかを苦悶中。


妖になりたい
人になりたい
猫になりたい
親になりたい
りっぱになりたい 
終 計5編の短編連作

妖になりたい
 何とか働きたい一太郎は、妖たちの力を得て、新しい薬を考案していた。その薬作りに協力を得たい西八谷村の名主・甚兵衛から、協力の見返りとして、妖になることを要求される。
 一方、一太郎を逆恨みする赤山坊と名乗る天狗も現れる。

人になりたい
 同行の士たちが集う「江戸甘々会」で、その中のひとり菓子売りの勇蔵が死体となって発見されたが、どうにも不可解であるところに、死人の筈の勇蔵が消えた。
 難事件のお鉢が回ってきた日限の親分は、一太郎を訪ね、事件の謎解きを懇願する。屏風のぞきや貧乏神の金次など妖たちが結集して一太郎の手足となり謎に挑むと、意外な事実が…。

猫になりたい
 傾き掛けた稼業の相談に一太郎を訪った手拭い染谷屋
の青竹屋春一と紅松屋冬助。二人の訪いの訳は、春一にあった。
 一方、戸塚宿の長・虎と藤沢宿の長・熊市の猫又が、東海道の長を掛けた判定を仰ぎたいと一太郎を訪れた。だが、その前に草鞋を脱いだ長崎屋の家作の一軒家で貧乏神の金次を怒らせてしまったから大変。
 そして、長崎屋の一番蔵から大福帳が盗まれるといった事件まで重なり、虎と熊市もその犯人探しにを手助けすることとなった。

親になりたい 
 奉公人のおようが、煮売り屋柿の木屋の主と見合いをした。だが、柿の木屋の三歳になる三太が曰く付きの子で、この子の親になるのは難しいと、おくまま話を断るが、当のおようは柿の木屋を好いていた。そのおようから、三太のことを調べて力になって欲しいと頼まれた一太郎。早々、佐助や妖たちと三太に会いに行く。
 すると三太の意外な正体が分かり…。また、三太の実父を名乗る猪助まで現れ、柿の木屋を手伝い出した。

りっぱになりたい
 茶問屋・古川屋の息子・万之助が若くして亡くなった。その通夜の席で一太郎は万之助の霊と出会ってしまう。一太郎にしか見えない万之助は、産まれ変わったらどんな仕事がしたいかを親に伝えたいと一太郎に縋る。
 そんな通夜の折り、万之助の妹お千幸の姿が忽然と消え、三十両を要求する文が届いたから大騒動。
 妖たちも乗り出して事の真相に迫るのだが、一太郎にはどうにも腑に落ちない勾引し事件であった。

 これまでのシリーズとは一風変わった趣向で物語が進行する。シリーズも14回を重ねれば、脇役もメインを張れるくらいに、キャラ立ちしたということか。
 主人公をゲストに迎えて謎解きがメインになっているが、初期シリーズのようなストーリもやはり捨て難く、一太郎、仁吉、佐助の独立した活躍を次回は期待して止まない。
 そして、終章を読むと成る程。「明治妖ロマン」へと繋がるのだ。こういった当たりが「凄いなあ」。

主要登場人物
 一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代 
 藤兵衛...一太郎の父親、長崎屋の主
 おくま...長崎屋の女中頭
 およう...長崎屋の下女
 屏風のぞき...付喪神
 鳴家(小鬼)...妖
 鈴彦姫...付喪神
 金次...貧乏神
 おしろ...猫又
 日限の親分(清七)...岡っ引き
 お獅子...付喪神
 寛朝...上野広徳寺の僧侶
 寿真...東叡山寛永寺の僧侶
 秋英...上野広徳寺の僧侶、寛朝の弟子
 黒羽坊...元小田原の天狗、寿真の弟子
 本島亭場久...貘の妖、噺家
 赤山坊 天狗
 甚兵衛 西八谷村の名主
 勇蔵...菓子売り(道祖神)
 虎...戸塚宿の長(化猫)
 熊市...藤沢宿の長(化猫)
 紅松屋冬助...手拭い染谷屋
 青竹屋春一...手拭い染谷屋
 古川屋万之助...日本橋通町茶問屋の総領息子
 お千幸...万之助の妹
 末三...古川屋の手代
 塩浜屋弥曽吉...八丁堀糸物問屋の総領息子



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