うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

ひなこまち

2012年07月01日 | 畠中恵
 2012年6月発行

 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第11弾。

ろくでなしの船箪笥
ばくのふだ
ひなこまち
さくらがり
河童の秘薬 計5編の短編集

ろくでなしの船箪笥
 唐物屋小乃屋の七之助、冬吉兄弟が祖父の形見として受け取った船箪笥。だが、仕掛けがあるらしく引き出しを開ける事が出来ず…。

ばくのふだ
 怪談で人気の落語を聞きたいと、一太郎は妖たちと寄席に出向いたが、なんとその場で噺家に刃を向けた侍が…。一太郎は騒動に巻き込まれるのだった。

ひなこまち
 浅草の人形問屋平賀屋が、美しい娘ひとりを選び、その面を手本とした雛人形を作り、去る大名家に献上すると言う。娘たちは雛小町の選ばれようと、奇麗な着物を買いあさる中、仁吉と屏風のぞきは、売り物を盗まれた古着売りの娘に出会う。

さくらがり
 上野広徳寺に花見に行った一太郎と妖たち。そこに関東河童の大親分の禰々子が、河童の秘薬を携えて一太郎を訪った。秘薬のひとつ、惚れ薬の飲み込んだ着物や仏具が暴れ出し…。
 
河童の秘薬
 河童の秘薬を分け与え、それを飲んだと言う武家の奥方が長崎屋を訪ねた。だが見知らぬ子が迷い込んだ事から、一太郎は子を預けに自身番へと向かうが、どうも何時もの町と何かが違っている。

 今回は手法が違っている。まず冒頭で、指物師が忘れて行った「お願いです、助けてください」。5月10日までに助けて欲しいという木札を上げながら、それには触れずに雛小町の番付作りをバックグラウンドに、違った内容の事件が続く。
 だが、この木札と番付はメインテーマにならないまでも、全編に引っ掛かりを示す。
 さらに「ろくでなしの船箪笥」が、「さくらがり」へと繋がりを持ち、全てが明らかになる「河童の秘薬」まで、短編集でありながら、繋がりがあるといった手法である。
 そして、2作前の「ゆんでめて」。こちらは、弓手と馬手を取り違えたばかりに起きた、歪んだ空間の話であったが、最後に起動を戻した為、この1冊での過去は消えていた。だが、何かがふと気に掛かるといった設定で、今回、キーワード的な役目を果たしている。
 胸にジーンとくるような話は織り込まれてはいないが、組み立ては見事。僭越ながら文体も最初の頃から比べ、畠中さん腕を上げられたと感じた。「ゆんでめて」から書き方が変わったように思える。
 著者自身、ストーリ作りに苦心されているのか、今回は、一太郎の両親の藤兵衛、おたえ。兄の小間物屋青玉屋の主の松之助、それに幼馴染みの子屋三春屋の栄吉といったこれまでのレギュラーの出番はない。
 また、そろそろ正三郎とお雛の祝言話が絡んでくるかと思われたが、材木問屋中屋の於りん、紅白粉問屋一色屋のお雛ら準レギュラーの登板もなかった。
 新顔の本島亭場久(貘)のキャラが立っているので、彼は今後も登場しそうである。惜しむらくは謎解きが浅いが、何はともあれ、増々読むのを止められないシリーズである。

主要登場人物
 一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代
 おたえ...一太郎の母親 
 藤兵衛...一太郎の父親、長崎屋の主
 屏風のぞき...付喪神
 鳴家(小鬼)...妖
 鈴彦姫...付喪神
 日限の親分(清七)...岡っ引き
 金次...貧乏神
 
 おしろ...猫又
 お獅子...付喪神
 権蔵...狸の妖
 禰々子...関東河童の大親分
 七之助...瀬戸物町唐物屋小乃屋の総領息子
 冬吉...小乃屋の次男
 寛朝...上野広徳寺の僧侶
 秋英...上野広徳寺の僧侶、寛朝の弟子
 本島亭場久...噺家、貘
 於しな...日本橋古着売り太吉の娘
 安居...某藩武士(大名)
 雪柳...安居の妻
 義之助(仮名)...迷い子
 


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