明るく正しく強いブログ

朝昼晩、時間を問わず飲んで喰って面白おかしく過ごす人生を歩みたいです。※旧名「日が沈む前に飲む酒はウマい」

太すぎるうどんと奥が深すぎる店主 川口『因業屋』

2020年01月19日 | そば、うどん
川口市に、ものすごく太いうどんを出す、一風変わったお店があることを知った。
その店名は『因業屋』(いんごうや)。なるほど、屋号自体も変わっている。
店名通り、頑固で意地悪なオヤジがいるのかと、ネットでこのお店について調べてみたところ、
屋号の由来について店主が、“「因業」は本来、悪い意味ではない”と語っていたようだが、
それがどんな意味で、どのサイトなのかは忘れてしまった(「食べログ」でないのは確か)。
とにかく、おっかない店ではないようなので、ぶっというどんを食べに川口へと足を運んだ。
お店は、基本年中無休だが、ごくまれに臨時休業もあるらしい。私が初訪問した日がそうだった(泣)。

2度目の訪問となった先日、今度はちゃんと営業していたので、入店することができた。


店内はカウンター5席にテーブル席。厨房にいた男性店主が「いらっしゃい。お好きなお席へどうぞ」と迎えてくださったので、
調理の様子がうかがえる、カウンター席に座らせてもらう。店内清掃は行き届いており、不潔感はなし。
銀色の髪を後ろで束ね、一見怖そうにも感じる店主だが、声のトーンは柔らかだった。
お店のメニューはこちら。写真がヘタなのはいつものことなのでカンベン。まずは麺類。


表記は「そば」だが、ほとんどのメニューが「うどん」にできるようだ。裏面には、お酒やおつまみ類。


そば・うどん店には珍しくワインが豊富で、チーズやサラミなど、ワイン向けのつまみも用意してある。
最近、飲んだあとの食事がツラくなってきたので、酒類は頼まず、いきなりカレーうどんを注文。
店主は調理中にもたびたび、「今日はこれから寒くなるそうですね」などと話しかけてくれた。全然因業オヤジではないぞ。
カレーソースの入った鍋を、ヘラを用いて一定のリズムで何度も何度も丁寧に混ぜ合わせ、
芳香が店内に充満し、店主の手が止まりようやく完成…と思いきや、太いうどんが茹で終わらない様子。まあ当然だわな。
その後、ようやくうどんが丼に盛られ、肉うどん用の具材を煮た鍋(?)から、お肉と煮込み汁をお玉で1杯ずつすくう。
そこへ、さきほどのカレーソースがたっぷりと注がれ、ネギを飾って完成。これが「かれいうどん」1000円だ! 

※わかりづらいけど、丼は深くてデカいサイズ

右側にチラリと見えるモチみたいなのが、例の超スペシャル極太うどんだ。ガキみたいな表現でスマン。
「けっこう辛いですよ」と店主が忠告してくれたが、他に告げるべきことがあるのでは(笑)。
ダシで割らず、ほぼカレーだけでドロドロ状態のスープから、うどんをすくってみた。


ハシとの比較でおわかりだろうが、普通のうどんの8本分くらいの太さで、それが3本入っている。
写真に収めるべく持ち上げたら、カレーが衣服に跳ねまくり。どうにもイキのいいうどんである。
別アングルがこちら。こうして見ると、うどんというより穴子の白焼きのようだね。


うどんをすするのではなく「かじって」みると、小麦の甘い味がした。無論、中心が生、なんてこともない。
なお、店主の忠告通り、カレーは本当に辛かったが、あとから旨味がジワジワくる、クセになる辛さであった。
私がカレーうどんと、文字通り格闘している間、店主は黙々と、メニューにない料理の仕込みをしていた。
その仕込みを気にしつつ、穴子みたいなうどんと肉を食べ終わり、残るはスープだけ。
丼に口を付けて飲もうとしたら(レンゲなどはない)、カウンター越しに「よかったらどうぞ」と、そば湯が出てきた。


そのタイミングで店主に、「カレーも辛くて美味しいですが、とにかくうどんがスゴいですね!」と感想を述べたところ、
「これが本当のうどんなんです」とおっしゃり、さらに「よそのは麦で作った麺でして、うどんのどんではないんです」。
うどんのどん!? 初めて耳にした言葉だ。
「それって、漢字で書く饂飩の飩ですか?」とたずねたが、曖昧な返答しかいただけなかった。
うどんの歴史をたどれば、どんor飩の意味がわかるのだろうか。とりあえず、今の私にはサッパリわからない。
ただ、ここのうどんが、奇をてらったものではなく、店主の信念がこめられた商品であることは理解できた。
あと、「よそのは麦で作った麺」という発言も、あくまで店主の個人的意見であり、自身のうどんに誇りはあれど、
「ウチは本物で、よそは偽物」というような、他店を批判するようなニュアンスでなかったことは断言しておく。
この御方が、同業者を罵り己を上に見せるような、器量の狭い方じゃないのは、会話しただけで理解できた。

とにかく、こちらの店主は、ひと言で表すのが難しい。熟練、洒脱、枯淡、達観、大胆…どの言葉も当てはまる。
そんな奥の深い方と、もう少しお話ししたいと思い、順序が逆だが、ここでびんビールを追加注文。
奥の冷蔵庫から、好きな銘柄を自分で選んで取り出し、店主が鉄製のコップと栓抜き、お通しの揚げたソバを出してくれる。


冷蔵庫の脇には、旅行関連の書籍が多数。そういえば、店内にはワインの空きボトルの他、世界中のお土産らしきものが多数。
店主に「旅行とかお好きなんですか」とたずねてみたら、「そうですね。だからたまにお店も休む」とのこと。
旅行といっても、私の「大阪西成ツアー」のような小規模なものではなく、過去には7ヶ月も休んだことがあるらしい。
「今年の5月にも、1ヶ月くらいフランスに行ってきます。知り合いにそば打ちを頼まれちゃって」。
どうやら、世界中に大勢の知人がいるようだ。店主の人間的深みの理由がわかった。 

そういえば、びんビールのおつまみを紹介していなかった。このとき私が注文したのは水餃子。
さっき、「メニューにない料理の仕込みをしていた」と記したが、その料理こそ餃子であった。
餃子には目がない私が「それは裏メニューですか?」とたずねたら、「イヤ、夕飯のおかず(笑)」だって。
あとでご夫妻で食べるらしい。「餃子お好きですか。よかったら少しお分けしましょうか?」という店主の申し出に、
「ぜ、ぜひいただきます」と遠慮せず食べさせてもらうことに。我ながら、初入店のくせに図々しいと思う。
こちらがその「この日限定・本来はまかないの水餃子」(特別価格500円)。うどんダシで煮込んであり熱々だ。


中身はたっぷりのお肉に、粗目に刻んだ白菜、玉ねぎ、ニラ。玉ねぎの甘みとシャキシャキ感が心地よかった。
写真はないが、「これも使ってください」と、ワインの空きびんに入った、自家製ラー油も垂らしてみた。
そういえば、おそば屋さんなのに、自家製ラー油があるのは珍しいね。

ビールと餃子で、もはや満腹状態だったのだが、上の行で書いたように、ここはおそば屋さんである。
実際、因業屋さんはそばをウリにしているようなので、「せっかくなので、もりそばもお願いします」。
すぐに、ツユと、薬味のわさび、大根おろし、ネギが提供され、その後、冷水で締められたそばがやってきた。
こちらが「もりそば」800円。大きな平皿に、予想以上にたっぷりのおそばが盛られている。


食べきれるかな…と心配していた私に、店主が「残り半分になったら言ってください。温めなおします」と不思議な提案。
よくわかってない私に対し、「ウチのそばは、温めると10倍うまくなるから」だって!
要するに、ラーメン店の「つけ麺・熱盛」のようなものらしいが…10倍ってのは楽しみ。
店主が打った自家製の十割そばは、一般的なものより太めで、平べったくフェットチーネのよう。
普段私が食べている、乾麺や立ち食いソバとは一線を画す、蕎麦粉本来の味がする麺であった。
このままでもじゅうぶん満足できるのだが、提案通り半分食べ終えたところで店主に合図すると、
もう一度麺を茹でる網(=てぼ)にそばを入れ、サッと湯通しし、湯切り後は水で締めず、そのままお皿に再度盛りつけ。
「まずは、ツユに付けず、そのまま食べてください」の指示に従い、まだ温かいそばを口に含んだところ、
「あっ! 全然違う!!」
10倍かどうかはともかく、そばの香りが増幅している。こんなの初めて食べた!
店主によると、「歯触りやのど越しを楽しむなら冷やしですが、蕎麦粉の風味を楽しむなら温かいのに限ります」。た、確かに…。
「日本酒が冷やより燗の方が美味しいのと同じです」。あ、それは私も聞いたことある。「いい酒蔵の杜氏は温めて飲む」って。
ここで私が「普通のおそばだと、ここまで美味しくなりませんよね?」とたずねたら、
「そうです。うちの十割そばだから温めても美味しいんです!」と、誇らしげに答えてくれた。
満腹だったにもかかわらず、大盛りのそばを全部食べ切り、さきほど、カレーうどんのときにも出てきた、
そば湯が再度登場し、ツユに入れて飲み干し、ごちそう様。


こちらの食器は、陶芸家に作ってもらう特注品らしく、このお皿もそうなのだが、先日、何枚かまとめて割ってしまったらしい。
写真のお皿に茶色い線が入っているのは、継いだためである。ただ、安易に捨てないところに、器への愛情を感じるね。
うどん、そば、ワイン、食器、旅行の書物…それに、まかない餃子(笑)。お店の随所に、店主の心が反映されている。
ほんの数時間の滞在で、これほど心地よい気分になったお店は、久しぶりだった。

お会計後、今度は牛肉を煮込み始めた店主。もちろん、それらしき料理はメニューに見当たらない。
聞いてみたら「このあと、“ワインを飲む会”があるので、そのための料理」だそうだ。
こちらのお店では、ワイン愛好家が集まり、イベントを開催することがたびたびあるそうだが、
「これは、近江牛のA5ランクで作るすき焼きで、今日の会費はひとり2万円」。あ、私には手が出ない会ですね(苦笑)。
あの御方が作る高級牛肉のすき焼き、絶対ウマいだろうねえ。

お店を出ると、さっき語っていたように、いまにも雪が降りそうな低気温だったはずだが、
魅力あふれる店主とのトークで、お腹以外も満たされ、心身ポカポカだった私は、全然寒くなかった。
次回は、おつまみでゆっくり飲んで、シメにおそばを食べさせてもらおう。
そういえば、「うどんのどん」についても、くわしく教えてもらわなくては!



因業屋
埼玉県川口市中青木1-11-28
JR川口駅から徒歩約13分、西川口駅からは徒歩約28分
営業時間 12時~15時、18時半~22時
定休日 基本、年中無休だが臨時休業あり
※来店前に要連絡、とのこと
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ブログ変更点のちょっとした... | トップ | さようなら金田正一さん »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

そば、うどん」カテゴリの最新記事