しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

地球は空地でいっぱい アイザック・アシモフ著 小尾芙佐・他訳 ハヤカワ文庫

2013-01-22 | 海外SF
5-6年前にブックオフで購入(400円)。
その頃古本屋で「永遠の終わり」を見つけて久々に読み返してえらく感心しアシモフ作品を何冊か買ったのですが読まないまま本棚の肥やしになっていました。
この本は一回途中まで読んでいたのですがその時読み通せなかったので今回最初から読み直し。
先回の「闇の左手」が重い感じなので口直しな感じもあったりしますが、軽い感じで楽しく読めました。

(長く持ち歩いていたのでボロボロになってしまいました)

内容(裏表紙記載)
カルタゴの人身御供の儀式、クレオパトラの鼻、キリストの処刑、ニュートンのリンゴ……いかなる時代も場所も、クロノスコープを使えば自在に見ることができる。その使用許可がもらえなかった歴史学者は危険な賭けに挑んだが? あらゆる学問が政府の統制下におかれた未来を描く代表作「死せる過去」のほか、過去・現在・未来の地球を舞台に巨匠が奔放な想像力をくりひろげ、軽快な筆致で描きだす珠玉の17短篇を収録する。

1950年代(1953-1957)に書かれた短編をまとめたものです。

全体的に軽い感じで書かれている作品を集めている感じですが、小説家として脂がのりだしてきた時期の作品らしく、それぞれまとまりがよく読みやすい作品に仕上がっています。
50-60年前に書かれたものですからさすがに内容が古びてはいますが、テンポは速く現代的です。

それぞれ感想など
○死せる過去
内容は裏表紙に記載されたとおり。(もっとライトな感じですが)
ハードSF風な感じで、仕掛けそのものは今となれば大したものではないですが、登場する歴史学者・物理学者の「思い」が錯綜する感じがなかなか楽しめました。
学者生活が長いアシモフ博士ならではの描写ですね。

○SF成功の要諦
「SF」に関する詩です。
まぁ内容云々するものでもないような気がしますが、アシモフらしいファンサービスという感じ。

○投票資格
コンピューター「マルティヴァック」が全てを管理する社会での大統領選挙について。
コンピューターが選んだ代表1人が投票すればそれで終わりということになっており、それに選ばれた男性のお話。

今の日本の選挙でも開票率1%とかで「当確」が出たりしているんですから、そういう世の中も確かにありそうですね。
これもその男性のなんとも微妙な気持ちと、「こんな選挙でいいのかなぁ?」と漠然と考えさせるところが余韻となって楽しめます。

○悪魔と密室
悪魔と取り引きして願いをかなえた男性が、最後にどのようにするか?というお話。

このテーマも星新一が結構ショート・ショートで書いてましたね。
SF的解決方法で解決するのですが、最後はちょいと宗教的なことを考えさせようというところでしょうか。
この辺は非西欧人である我々には今一つわからないところですね。

○子供だまし
ファンタジー作家の前に現れた妖精をめぐる騒動についてのお話。

執筆中に現れた妖精の場面はなんだかブラウンの「火星人ゴーホーム」の冒頭を思い起こさせました。
「作家」の自虐ネタという感じですが、なんだかブラウン的な作品。
その辺狙っていたのかな?

○高価なエラー
地球に来訪した金星人と田舎町の保安官についてのショート・シュート。
これもブラウンあたりが書きそうだなぁ。
(解説でも草上 仁氏がアメリカSFにありがちなお話と書いていました)

○住宅難
多次元宇宙上の他の地球にマイホームを建設した地球人が直面した問題とは?という作品。

「多次元宇宙」の概念がスーと入ってこない人にはなんだかわからないだろうなぁという作品。
そういう意味ではSF上級者向けの作品。(この辺の設定も今となっては古いんでしょうが)
膨らませれば長編になりそうなアイディアですが短編でまとめてしまっています。
というわけで発想は楽しめますが、展開はちょっと雑かなぁと感じました。

○メッセージ
戦争のない30世紀から20世紀の戦場に送り込まれてきた者が残したメッセージとは?というショート・ショート。
まぁショート・ショートです。

○お気に召すことうけあい
「ロボットの時代」に収載されているものと同じです。

○地獄の火
原子爆弾に関するショート・ショート。
アシモフは原子爆弾嫌いなんだろうなぁという感じですね。

○最後の審判
ライトに書いていますが、タイトルどおり宗教色が強いお話ですね。
悪魔の要請で1957年に突然最後の審判の時を迎えた地球をめぐるドタバタとなんとか助けようとする天使のお話。

最後の審判ネタでパニック小説的に仕上げるとまぁ作品に仕上がるんでしょうねぇ。
死人がよみがえったりでステレオタイプになりますが...。
いろいろ書いていますが、アシモフの原子爆弾への嫌悪が現れている作品といえるのではないかと感じました。

○楽しみ
コンピューター社会が進み家でマシン相手に勉強しているこどもが、登校して「人」の先生がいる昔の学校を思うショート・ショート。
現代ではこの辺のネタは手垢が付き過ぎているような気もします。

○笑えぬ話
「投票資格」でも出てきたコンピューター「マルティヴァック」が出てくるお話。
マルティヴァックに質問した「ジョーク」に関わる真実とは...。
これも着想としてはブラウンの短編にありそうな感じですが、マルティヴァックが出てくるところ、質問する「グランド・マスター」の心理描写などはアシモフ的な作品で軽妙でしゃれた仕上がりになっていて好感が持てました。

○不滅の詩人
現代に読みだしたシェークスピアはどうなるか?というお話のシュート・ショート
アシモフらしいしゃれた仕上がりです。

○いつの日か
おとぎ話しか話せない機械仕掛けの「詩人」を少年たちはばかにするが....。
ロボットものに分類してもいい作品かもしれませんが三原則は語られていないのでなんだか怖いラストになっています。
「投票資格」「楽しみ」に通じるコンピューター社会への懸念が出ている作品。

○作家の試練
「作家」に関する詩です。
創作の苦悩を語っていて、解説では次に出てくる「夢を売ります」につながっていると書いていますが、つながっているかは私には「?」に感じられました。
詩は苦手なのでよくわかりません...。

○夢を売ります
ドリーマーが作り出す「夢」が商品となっている世の中で起こるいろいろ。

表現方法は違っても人々が楽しむ「創作」物にはいろいろ試練があるというお話。
「ドリーマー」「夢」を創る力はなくてもなんとかいいものが世に出ていくように奮闘する夢販売会社社長のウェイルがかっこよかったです。
アシモフの敬愛する編集者キャンベルあたりがモデルでしょうか。



解説にも書かれていますが、この短編集全体として「歴史に残る名作」という感じの作品はありませんがなかなか軽く楽しめる作品が並んでいます。
「“名作”以外読むのは時間の無駄だー」という人にはお勧めできませんが、こういうのも私は好きですねー。
みんな芸術的な名作ばかりでは疲れてしまいます。

私的には「死せる過去」「笑えぬ話」が、コンピューター社会やら原子爆弾についての啓蒙といった余計なものがなく、登場人物が魅力的で好感が持てました。
非日常的な展開で人がどんなことを感じるかというものを考えさせるのがアシモフの魅力なんでしょうね。


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