しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

明暗 夏目漱石著 新潮文庫

2013-11-20 | 日本小説
先日「私的日本小説番付」で「吾輩は猫である」を東の正横綱にして、「坊ちゃん」「こころ」を番付上位に入れました。
別に「夏目漱石」の名前で入れたわけではなく自分なりの正直な評価ではあるのですが、他にあまり漱石を読んでいないのが気になりました。

上記三作以外だと読んだのは「草枕」「二百十日」「三四郎」「彼岸過迄」「硝子戸の中」くらい。(内容殆ど覚えていませんが...)
有名作である「それから」「門」本書「明暗」などは過去にチャレンジしましたが読み始めては挫折していました...。

本書は大学生最後か会社入りたて頃に新品で購入しました。

その頃「吾輩は猫である」を読み返して「これはすごい!」と感動し、夏目漱石の未完の最終作にして「猫」とならんで評価の高い本書を読んでみようと買ったのですが前述のとおりで...20年ほどそのままになっていました。
(「猫」を評価する人は「明暗」を受け付けず、逆の人は逆なパターンが多いことはその後知りましたが...)
本作は大正6年(1916年)に朝日新聞に連載され、漱石の死により未完で終わっています。
もうすぐ100年経つんですね。

内容(裏表紙記載)
「明暗」は漱石の絶筆であり、五十年の人間的体験と十年の作家的修練の果てに達した悟り、人生解決の霊的秘境がこれである。明治の知識階級の業病である立身出世主義の具現者津田とお延夫婦の不安定な家庭生活を中心にして、漱石の生涯のテーマであるエゴイズムとそこからの脱却の問題を追求した本書は、真の近代小説の名に値する数少ない日本の代表的小説のひとつである。

読後の感想、「すごい(ねちっこい)小説」ですね。
本作が未完で終わっているのは日本のみならず世界レベルで惜しいことかもしれません。
ただ本作、若者には無理だとは思いました。
味わうには最低でも結婚している30代以降の人じゃないとな気がします。
最近SF慣れしていた私にも読み出しつらかった....。
(楽しい小説ではない)
内容ですが、裏表紙記載の「悟り」とか「人生解決の霊的秘境」というような表現は本作を評するのにとても不似合だと思います。
「近代小説」云々はよくわかりませんが、本作「悟り」といった枯れた表現ではなく日本には珍しい粘着質な作品だと思います。
ドストエフスキー的とでもいうのでしょうか、なんとも粘っこい人物・心理描写が繰り広げられています。
わずか10日間ほどの出来事を600ページ弱(新潮文庫の細かい字版で)に渡って展開していきます。
なんだか読んでいると時間軸がずれてくる。(解説でも書いていた)
作中でもドストエフスキーのことが語られていますし、漱石が影響を受けているという説もあるようですね。(これも解説にあった)
マネとしてもドストエフスキー的小説をここまでのレベルで描ける作家はそうはいないでしょうから、「さすが漱石!」というところ。

ただ私的にはやはり「猫」「坊ちゃん」「こころ」の方が好きですね。
そちらの方がストレートに漱石のメッセージが描かれているような気がします。

対して「明暗」は技巧の極みというか、もの凄く作りこんだ小説になっています。
ストーリー的には「昼メロ」的な痴話げんかやら親子兄弟の葛藤を、心理的に別の面から捉えて処理しているのが本書の魅力ですね。
(ネットでいろいろ見ていたら「渡鬼的」という人もいました、「わかるなー」という感じ)
作品世界の設定から離れて客観的に状況をみるとなんということのない話が続いていくのですが、解説のことばを借りると「切迫感」を持って展開していく。

書き方によっては「気弱な夫」と「愛情深くちょっと強気な妻」の新婚生活をほのぼのと描いているというような状況にもなりそうなのですが、夫妻の心理の負の部分を思いっきり強調してなんとも「やりきれない」世界にしています。
そういう意味では「カフカ」的でもありますね。

重要登場人物である小林と主人公津田、小林と津田の妻お延の会話などもなんとも奇妙かつ不協和音が奏でられて「切迫感」を感じるように描かれていますが、別の見方をすればそんなに大した話でもないような気もする。

人間の心理には負の部分、正の部分などなどいろいろあるはずですが、そのある部分を抜き出してデフォルメしてドラマを仕上げる手腕が際立っています。
「猫」でもそんな傾向はあったと思うのですが、漱石の作家的技巧の進歩なのでしょうかとても「巧く」暗いトーンで描き出されています。

最後の温泉宿に津田が向かってからの展開がどう進んでいったのか....。
非常に気になります。
返す返す「未完」残念です。

ネットで検索したらこの後の展開は、定説めいたものがあるようで、その辺の研究の成果も取り入れた「続明暗」水村美苗著というような作品も出ているようです。
(これもそのうち読みたい)

でも漱石自身で書かれた結末を見たかったなー。
改めて非常に残念です。

あと最後に、登場人物全員が全て何か「欠けた」デフォルメされた人物なのですが、私が一番好感を持てたのは津田の妹お秀。
お延に「キリスト教徒?」などといわれていましたが、ストレートに思いを吐き出している人物な気がしました。

まぁ結婚して「100%幸せ」というような人でなければ、読んでみると迫ってくるものがある作品だと思います。(除く若者)
「100%幸せ」と言い切れる人がいたらそれはそれで怖い存在ですけれどもね。

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