つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

多い? しょうがないじゃん

2006-01-20 21:06:26 | ミステリ
さて、だっておもしろいんだもんの第416回は、

タイトル:ガラスの麒麟
著者:加納朋子
出版社:講談社文庫

であります。

著者の定番である短編連作の物語で、今度は初っぱなから通り魔殺人という重い出だし。
17歳の高校生である安藤麻衣子は、帰り道、道路に止まっていた車から現れた男に道を尋ねられるふりをされ、殺されてしまう。

その麻衣子の葬式に出席した、麻衣子の友人である野間直子の父は、そこで娘が通う学校で養護教諭をしている神野菜生子と出会う。
道すがら、娘のことを話しながら、野間は神野に語った。
「もし私が、安藤麻衣子さんを殺した犯人がどんな人間で、どんなふうに彼女が殺されたのかすっかり知っていると申し上げたら、信じていただけますか?」

こんなふうに始まる本書は、6話の短編から成っている。
基本的には、野間と神野のふたりを中心にしてはいるが、野間の娘が通う学校の教師である小幡康子。
イラストレーターをしている野間がイラストを描いている童話や詩の雑誌の編集長である大宮の息子、高志。
神野の務める学校の卒業生で、ある会社の受付をしている窪田由利枝とその恋人である山内伸也。

これらを主人公にした短編を通じて、野間が通り魔殺人の犯人を捜し出すところまでが描かれている。

とは言うものの、殺人事件を名推理で解決する探偵とか、犯人探しに執着する刑事なんてのは登場しない。
結果的に犯人を捜し出そうとする野間も、細々と続いている童話雑誌のイラストレーターなんて職業だし、各話の主人公たちもごくごくふつうの勤め人。

各話の謎解きには、本書の中心のひとりである神野がヒントを与えたり、解決したりすると言う形で、これは少し「ななつのこ」の作中作品に登場した「あやめさん」を彷彿とさせる。

また、ストーリーもただ事件を解決するために展開するわけではなく、各話の主人公たちの物語を通じて、ラストへ収斂していく。
このあたりの作り方は、やっぱりすごいと思うなぁ。

キーワードはタイトルともなっており、また殺された安藤麻衣子が執筆した「ガラスの麒麟」ともう1編の「お終いのネメゲトサウルス」という童話。
他にも、事故により片足を引きずるようにしてしか歩けない神野菜生子の過去。
安藤麻衣子を始めとして、高校生の、賑やかさ、煌びやかさ、傍若無人さ。
そして、そこに潜む危うさやもろさ、不安定さ。

キーワードでありながら、物語の根幹をなすものであり、特に17歳という少女……安藤麻衣子の内面、そして神野の内面に隠された心というものが十二分に表現されている。
裏表紙の紹介に「通り魔に襲われた十七歳の女子高生安藤麻衣子。美しく、聡明で、幸せそうに見えた彼女の内面に隠されていた心の闇から紡ぎ出される六つの物語。少女たちの危ういまでに繊細な心の増える絵を温かな視線で描く」とあるが、ほんとうにそのとおり。

雰囲気もこうしたストーリーに合ったやや重めのものだが、触れれば壊れてしまいそうな、繊細な、どこか切ない感じのするものも持っている。
これだけではなく、各話の中にはほほえましさを感じさせるものもあるが、作品全体の雰囲気を壊すどころか、うまく溶け合っている。

物語のよさは、相変わらずよいので、いまさらだが、作品の雰囲気と言う意味では、「ななつのこ」「ささらさや」などとは違ったものではあるけれど、これらの作品と1、2を争うくらい、雰囲気が満ち溢れたものになっている。
ストーリーのうまさや、各話のよさ、雰囲気など、1冊の本という意味では加納作品の中ではトップクラスだと思う。

それから、ネタバレが出来ないので詳しいことは書けないけど、犯人と登場人物との関係や、そこに潜む思いの重なりというものがすごくよい。
なので、気になったら是非読みましょう。


☆クロスレビュー!☆
この記事はLINNが書いたものです。
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