つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

カバー裏は見ましたか?

2006-01-10 19:51:21 | ミステリ+ホラー
さて、ハマってる作家が相方と両極端だなと思う第406回は、

タイトル:GOTH――リストカット事件
著者:乙一
出版社:角川書店

であります。

短編の名手・乙一の連作短編集。
色んなジャンルを使い分ける方ですが、今回は純然たるミステリ。
例によって、一つずつ感想を書いていきます。

『暗黒系』……夏休みの登校日、クラスメートの森野が一冊の手帳を僕に見せた。そこには、三ヶ月前に起きた殺人の記録が――。人の暗黒面に興味を持ち、死体に惹かれる主人公と森野が、殺人鬼の手帳を手に入れたことで事件に関わっていく話。短い中で、二人の紹介、謎解き、オチ、と非常に上手くまとめているのはさすが。作者曰く、森野の過去は四話になってやっと思い付いたそうだが、この一話目で既に彼女と主人公の違いは明確に示されている。

『リストカット事件』……僕は、初めて森野のことを認識した事件のことを思い返していた。彼女がセクハラ教師を撃退した、ということになっている事件を――。主人公が森野と親しくしている理由が明らかになる話。一話目よりさらに、主人公が犯人に共感を覚える度合いが濃くなっているのが不気味。ミステリにはなっていないが、オチは結構好き。

『犬』……夜な夜な、ユカが用意する得物を殺す私。すべては、ユカに暴力を振るうあの男を殺すために――。〈私〉と主人公の話が交互に描かれ、ペット殺害事件を通じて二人の距離が次第に近づいていく話。だんだん影が薄くなっていく森野さんは完全に脇役で、主人公の妹の方が目立っている。主人公が事件に関わる時に自ら課すルールの解説、また、それが良心などとは無縁のところから来ているのが面白い。

『記憶』……森野が初めて語る自分の過去。彼女にはかつて双子の妹がいた――。森野のキャラクターが確定する話。裏を返せば、この話で彼女はサブ転落を認めてしまったとも言える(爆)。不眠症、自殺願望、犬嫌いなどの理由が一挙に明らかになる。小道具のばらまき方と、それを集めて結論に持っていく展開は見事。ただ、双子ネタは完全にパターン化してる気がする、『ZOO』にも似たような話がなかったっけ? ま、それでも好きだけど、この話。

『土』……古い一軒家に住む佐伯は、生き物を土に埋める嗜好があった。小さな子供を埋めた三年後、彼は再び別の得物に手を伸ばす――。佐伯一人の視点で進む話。ネタ的に苦しくなってきたのかなぁ、と思ってしまった。例によって主人公が探偵役を勤めるが、事件を解決することに全く興味がなさそうなのがいかにも彼らしい。

『声』……姉を何者かに殺された少女。その前に現れる、自分が犯人だと名乗る少年。殺害現場で交わされる密かな取引――。本書で最も長い、完結編(?)。ゲスト出演する少女と死んだ姉の関係、主人公と森野の関係、死者の声が記録されたテープを巡る事件、等々、充実したドラマが展開される。オチが素晴らしく、これまで書かれてきた二人組の総まとめといった感じになっている。二度読める、完成度の高い作品。イチオシ。

主人公の感覚に拒否反応を示す人は読めない、と思います。
その意味では、客観読みの人向けの話と言えるでしょう。
よく『ZOO』と比較されるけど、私はこっちの方が好きかな。

飽くまで物語の中のことと割り切って読める人にオススメ。
最終話は乙一作品の中で一番のお気に入り……になったので、できれば読んで欲しいと思うけど。



――【つれづれナビ!】――
 ◆ 『乙一』のまとめページへ
 ◇ 『つれづれ総合案内所』へ