つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

燃えている!

2006-01-18 23:58:45 | SF(国内)
さて、三夜連続企画第三弾な第414回は、

タイトル:マルドゥック・スクランブル The Third Exhaust――排気
著者:冲方 丁
文庫名:ハヤカワ文庫

であります。

マルドゥック・スクランブル三部作(というか三冊で一作品)の最終巻。
一冊目についてはこちら、二冊目についてはこちらを参照。

バロット達を待ち受ける最後の難関、ブラック・ジャック。
絶妙のコンビネーションでディーラーの心を打ち砕く三人。
だが、順調に勝ち続ける彼らの前に最強のディーラー・アシュレイが立ち塞がる!

あ、先に警告しときます――今日は吐きますので、本作が大好きな方は読まないほーがいいかも知れません。

本巻も、二巻と同じく二部構成になっています。
前半はカジノの王様ブラック・ジャックによる心理戦。
後半は事件、及び因縁に決着をつける話です。

前半のカジノ編(前巻からの続き)がとにかく面白い!
仮にルールを知らなかったとしても、ブラック・ジャックは非常に簡単なのですぐに覚えられます……ちゃんと前巻から読んでいれば。
興味を持ったなら、トランプを用意して一人で遊んでみることもできます。実際やってみると、嫌でも負ける瞬間があることがすぐに解ります。

一人目はいわゆるカモ(笑)で、色々と小細工を仕掛けて来ますが、最終的には殆ど丸裸にされて破れます。ここは前巻のヤラレ役の方々と同じ。
問題は、雑魚が敗れた後に登場するアシュレイ。ディーラーとしての腕も化物級ですが、性格もなかなか曲者という、非常に味のあるキャラクターです。
バロットとウフコックのコンビは相変わらず健在だし、脇を固めるドクター、そして前巻で登場したベル・ウィングもなかなか美味しい役回りを演じてくれます

五人のキャラクターの絶妙な会話と一瞬で勝負が決まるブラックジャック、二つの要素で進行していく心理戦は非常に面白く、バロット達の本来の目的を忘れてしまうぐらいです。いや……本人達はちゃんと覚えてるんですけどね。
べルもアシュレイも善人過ぎる感じはしますが、ラストゲームのシーンは好きなので、あれで良かったかなと思います。

で、後半なのですが――面白くない。
シェルのバックにいるオクトーバー氏とのいざこざ、シェルとの決着、ボイルドとの対決、と重要イベントが目白押しなのに盛り上がり0……飽くまで必要な話だから書いてるといった印象。
一巻、二巻と続けて描かれてきたバロットとウフコックの絆も、同じ事をしつこく再確認しているだけで、少々くどい感じがしました。

三冊を総括して考えると、個人がメインとなるミクロレベルの話は最高に面白いのですが、社会がメインとなるマクロな話は落第。
組織対組織の話の中核となる筈のオクトーバー氏、あっさり負けすぎです、悪役としてまったく機能していません。
ただ単にバロットが嫌悪感を抱く相手として登場したといった感じ。

別にバロットの成長物語だからいいんじゃない? という意見もあるかと思いますが、両方書きたかったからこそ、二巻の前半や三巻の後半のような話が要求されたのではないでしょうか。
はっきり言って中途半端……どうせならズバッと割り切って欲しかったってのが、正直なとこです。

面白かったか? と聞かれたら、間違いなく面白かったと答えるのですが、オススメか? と言われると微妙。
好きなキャラクターは多いので、読んで欲しいとは思うのだけど。