思い出の釣り・これからの釣り

欧州の釣り、竹竿、その他、その時々の徒然の思いを綴るつもりです

Hans Gebetsroither (ハンス・ゲベーツロイター)について

2019-01-27 09:28:11 | その他の話題/Other Topics

日本から遠い北アフリカに住んでいても、電子版で日本の書籍をダウンロード出来る便利な時代になったものです。ペゾン・エ・ミシェル (Pezon et Michel)竿の記事があるのが気になり久しぶりに日本の釣り雑誌をダウンロード購入致しました。
実物の竹竿、その他グラス竿、等を実際に投げてみて批評する、素晴らしい内容の記事でありましたが、非常に残念なのが欧州の人名・固有名詞の校閲が出来ていないところが多々ある点。

シャルル・リッツ(Charles Ritz)は流石に、チャールズ・リッツとは書かないですが、ピエール・クールズボーと書くのは全く頂けません。Pierre CREUSEVAULTですので、「CREU」を「クール」とクを長く伸ばす発音になる筈がない事、直ぐお分かりになると思います。正しくはVの音も反映するならば、「ピエール・クルーズヴォー(もっと凝ると「クリューズヴォー」。。。ここまでくると日本語に無い仏語母音をどう表記するかの問題に当たります)」となる筈。Vは日本語では頻繁にBの音で表記されるので、クルーズボーでもまあ、良しでしょう。
そして、「クールズヴォー」以上に眉を顰めなければならないのが、日本の釣りジャーナリズム関係者がオーストリアの有名釣り師、Hans Gebetsroitherを「ハンス・ゲーベツロイター」と表記し続ける事。


Gebetsroitherを分解すると、Gebet-s-roither。Gebetはドイツ語の「お祈り」。Roitherははっきりとした定義は見えませんが、南ドイツ方言で梯子の様な木組みの物の様です。発音は有名な通信社Reutersと一緒の「ロイター」となります。「お祈りするための台」という様な語感になるのでしょうか。さて、問題のGebet。この発音は「ゲベート」です。動詞のbeten(祈る)、或いは、語源的に動詞のbieten(提供する)の過去分詞形を元にした名詞であるGebet (betenは不規則動詞で過去分詞はgebetenとなります)。ご参考までですが、上の写真は昨年12月24日の北ドイツの改革派教会のミサのプログラム。その一番下にGebetとあります。ドイツ語過去分詞の語頭にくるgeにアクセントは無く、それ以降の母音にアクセントが来ます。ドイツ語名詞のアクセントは「大体」第一母音に来ると思ったどなたかが、geを語頭に持つ単語の発音を間違えて、Gebetsroitherを「ゲーベツロイター」と記載し、その間違いが根強く続いているというのが多分真相なのでしょう。私が確認した限りでは、1980年代の「フライの雑誌」に「ゲーベツロイター」という記載があります。日本語版のリッツのA Fly Fisher's Lifeは目を通した事がないので、そこでの記載は分かりません。いずれにしましても、ドイツ語の初歩を知っていたら避けられるこの間違い。日本の釣りジャーナリズムの質の向上を願います。

そのゲベーツロイターですが、1903年2月3日にトラウン湖(Traunsee:トラウン・ゼーであり、トラウン・ジーではありません。因みにトラウンの当時有名だったSeeforelle(湖鱒)もゼーフォレレであり、ジーフォレルではありません。。。)の畔に生まれ、1986年12月13日にグムンデンで亡くなっております。

小学校を卒業後、靴作りの修行に赴き、ウィーンの製靴マイスターとして生まれ故郷に帰って来ますが、第一次大戦後の混乱、米国の大恐慌、オーストリアのクレディタンシュタルトの破綻という不況の中、地方では靴作りで生計を立てられず、兼業手工業者として、グムンドナー・トラウン(Gmundner Traun)川を中心に釣り客の釣った魚を担ぎながら同行する仕事(Lagelträger: Lagel担ぎ)としての仕事を始めます。Lagelというのは上の写真にある木製の魚を生きたまま入れる容器。
その時代に英国人Dr. Duncan(ダンカン博士)、シャルル・リッツと知り合う事になりました。ダンカン博士は1931年にグムンドナー・トラウン川の漁業権を取得しますが、その際、博士が管理人に選んだのがゲベーツロイターでした。そして1932年、ゲベーツロイターは本業の方を辞め、川の管理人の仕事に注力する事になり、1938/1939年には二回の水棲生物の生態に関する講習を受けたのち受けた試験で漁業マイスターの称号を得ます。その後1939年〜45年の第二次大戦で昇進が遅れますが、1967年には上級漁業マイスターとなります。


ゲベーツロイターは強い短竿を使い、肩を使った投法の創始者としてオーストリア、ドイツ語圏のみならずフランスを含めた大陸欧州の毛針釣りに今も影響を残しております。その生涯はグムンドナー・トラウン川を訪れる釣り人が必ず宿泊した、Frau Hoeplinger(ヘープリンガー夫人)が女将を務めるHotel Marienbrücke (ホテル・マリーエンブリュッケ)と分かち難く結びつき、今も、マリーエンブリュッケの前庭に残る彼の記念碑がそれを顕彰するのでした。

ハンス・ゲベーツロイターの記念碑。右はゲベーツロイターの弟子でフライキャスティング遠投競技の世界チャンピオンになったスイスのリュディ・ヘーバイゼン(Ruedi Hebeisen)氏。


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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
感謝しています (Kebari and Fly)
2019-01-28 00:16:33
好きな趣味だからこそ、出来ればそのお先棒担ぎの釣り雑誌=専門書の様なものですから正確を期する旨は注意し貰いたいと思います。ドライ・サモンフライの一つのパターンも未だにボンバー表記ですし、言葉以上に、定番のエルクヘヤー・カディスパターンでも当初のパターンでの重要点、アイ上のヘヤー・カットの角度(船の舳の様にカットする)を忘れられてもいます。それでも毛鉤の世界よりはまだマシかもしれません(笑)ハンス・ゲーベツロイターの件、手元の本では川のヘッドキーパーのハンス・ゲーペッツロイターとなっておりました。
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釣りとは関係なく恐縮ですが (budsek)
2019-01-28 03:54:17
Kebari and Fly様
善良な釣り人諸氏にはどうでも良い、本当に大人げ無い話題と思いましたものの、日本の釣りジャーナリズムとそれに連なる影響力のある方々が何十年も明確に間違いと判る事を繰り返しているのがとても気になったもので、今回投稿してしまいました。昔オーストリア釣り連盟の会員だった経緯もあり、オーストリアの有名人の名前がこういう扱いを受け続けているというのも、どうも。。。英語の知識だけで大陸欧州を語る事の恐ろしさは釣りの世界だけでなく普遍的なものと思っております。同じ様な事が、ある条件で魚を釣るために先人が考案された毛針の元々の意味が人を介し、時代を経、国境を跨ぐと、分からなくなってしまうという流れにも現れておるのでしょうか。偉い釣りの先生方はそういう事を全てご存知なのかも知れませんが、影響力のある偉い先生方には些細な事でももっと注意して頂ければ幸いです。
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レオナルドですからね。 (yugawasuki)
2019-01-28 22:32:49
こういうのは、最初に紹介した人の表記が後々まで影響するんでしょうね。
何せマクドナルドの国ですから(笑)
H.L.Leonardを輸入した商社は先方と英語で会話をしていたはずなのに、どうしてレオナルドとなったのか不思議です。
誰かが敢えてレオナルドと表記することにしたのかもしれませんね。戦略的に。
でも、個人的にはレオナルドの表記は好きです(笑)
ファーストリトリーブにファーストアクションにファーストフード…いずれもスローに対するファストなはずなのに、何故か伸ばすのですよね。
セカンドリトリーブやサードリトリーブがあるのですかねぇ。
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レオナルドですね。 (budsek)
2019-01-28 23:11:37
yugawasuki様
コメント頂き大変ありがとうございました。確かにfastがfirstになったり日本語にするとへんな表記が多くありますね。しかしながら、ゲベーツロイター、もとい、「ゲーベツ」の件は日本の釣りジャーナリズムに影響力のある方が多分に発信元であるのが由々しい問題であると思っております次第。英語の知識で大陸欧州を語る事の危険とコメントしましたが、それは英語の知識で日本のテンカラ・毛鉤釣りを語り、気が付くとTENKARAという別の世界になっていて、一旦そうした世界が出来てしまうと、TENKARA側から日本の元々こうでしたというより正確な情報が拒否される。。。という極めて時事的な話と共通する事なのでは、そうであるなら、影響力のある釣りジャーナリズムは、お友達の沢山いる偉い先生の話を鵜呑みにするのではなく、より正確性を期すべきではと憂う。。。そこまで大した事ではないにせよ、気になるという訳であります。

然しながら、ペゾン竿を集めて一本一本振ってその感想を纏めるという企画自体は非常に良かったですし、今度はそれを是非ハーディーでやってもらえると嬉しいです。私自身には的確な表現で竹竿のテイスティングをする能力はないので、本ブログ上でそうした企画をする事はないですし、そうした企画が載る雑誌は多分買ってしまうでしょう。連載が続くとお金がドンドン出てしまうのが怖いですが。古い竿になればプラスチックラインとシルクラインの振り比べもやってもらって。。。と妄想は膨らみます。
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ファリオクラブ (halford_knockabout)
2019-01-30 06:34:35
早速 雑誌を購入しました 後編となっておりましたので 記事の内容は消化不良気味です 以前ファリオクラブを所有しておりましたが 軽快なキャスティングロッドといった印象で 魚をかけるとだらしなくバットから曲がってしまい 魚を上手くコントロール出来ない竿でした。フィールドに合わなかったのだと思います。ただキャスティングが楽しい竿ではありましたね。
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面白いですね (Kebari and Fly)
2019-01-30 17:43:24
プラスチックラインとシルクラインの振り比べとか、手持ちの竹竿をワイン宜しくテイスティング(あくまでも手前勝手ですが)高番手のダブルハンドでラインの振り比べは行いました。竿が曲がる以上にプラスチックラインが伸びるのでアタリがぼやけます、その代わりにシルクと違い驚くほど良く飛びます。犀川本流程度ならラインが狙った場所に流れる迄、手持ち不足で呆れます(笑)
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ファリオクラブ (budsek)
2019-01-30 22:24:38
halford_knockabout様
コメントを頂きありがとうございました。
「魚をかけるとだらしなくバットから曲がってしまう」という様な大物の魚をファリオクラブでかけた事が無いものですから、如何に大物とやりとりされているかが拝察され誠に羨ましい限りです。中々釣りに行き難い環境におりますため、どうもモノの方に流されてしまい、ペゾンとかハーディーの蘊蓄話に食いつき易い体質になってまして、今回そこを雑誌にうまい事釣られてしまいました。ペゾンの竿を品評する能力は当方ございませんが、PPPはキャスティングは確かに楽しい竿だと感じております。Sawyer Nymphは針にかけた後もしっかりした竿との印象は受けております。PPPより総合能力はひょっとしたら高いのかも?
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ダブルハンドの品評 (budsek)
2019-01-30 22:32:26
Kebari and Fly様
犀川本流での高番手ダブルハンドでの振り比べのお話ありがとうございました。プラスチックラインはシルクに比べ驚くほど良く飛ぶとの事、ダブルハンドやトーナメント系の竿ですと一般の鱒竿よりプラスチックラインが飛んで行くイメージが頭に浮かびました。それにしましても、冬場は寒そうで難儀ですが、犀川で竿を振れる環境は大変羨ましいです。帰国しましたら一度伺いたいものです。
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