思い出の釣り・これからの釣り

欧州の釣り、竹竿、その他、その時々の徒然の思いを綴るつもりです

ドライフライのハックルの真実(日本鶏の貢献)

2019-02-10 13:24:01 | ハックル/Hackles
ハックルに関するほぼ唯一の専門書、 Frank Elder氏の「The Book of the Hackle」で著者は、オールドイングリッシュゲーム(OEG)の長所は、ハックルの色として知られる全ての色がOEGから得られる事としております。また、OEGは素晴らしいハックルを産出する事もあればどうしようもない品質のハックルを生み出す事もあるとしております。
そのElder氏がハックルのための養鶏を始めて当初の悩みは彼のOEGでは彼が理想とする槍の様な形のハックルを実現出来ない事でした。その時、Elder氏は1922年のFishing Gazette誌に寄稿した記事で、Thomas Hughes氏がYokohama(ヨコハマ)という鶏に言及しているのに出会います。そして、アバディーンのMr. McEwan氏からヨコハマのペアを入手し、OEGと交配。即、ストークに比べバーブの短い、理想に近い形のハックルを得ております。OEGの耳は赤、ヨコハマの耳は白なのだそうですが、以後、Elder氏のOEGはいくらOEGの血を濃くしていっても、耳は白いままであったとしております。
一方、ヨコハマのハックルの硬さはOEGに比し柔らかく、それを改善するためにRed Jungle Fowlとも交配をしております。このRed Jungle Fowlは鶏のご先祖のJungle Fowlの近縁。硬くかつ形の良いハックルを持つという機能面では理想的なハックルの鶏なのですが、一番の欠点はハックルの裏がチョークの様に白い事。この色のリスクを取りElder氏はRed Jungle Fowlの血もOEGに取り入れ、ハックルの機能面の品質向上と彼の求める色の発現に成功したそうです。

この「ヨコハマ」。日英独仏語情報を漁ってみると、幕末1864年に日本から尾の長い鶏が最初に欧州に輸出され、パリのJardin Zoologique d’Acclimatationに到着、輸出港の名前を取って「ヨコハマ」と名付けられ、その後、ドイツに1869年導入。品種改良の結果白地に赤の体色を持つ「ヨコハマ」という品種として確立されております。元々日本から輸出された鶏についての情報は不明で、尾長鶏だったのか、他の鶏だったのかハッキリしておりません。
一方、その動きとは別に、1878年日本からドイツに初めて「尾長鶏」が輸出され、欧州の地で根付かせるためにドイツのHugo du Roi氏により、OEGと交配され、そこから「フェニックス(Phoenix)」という尾の長い様々な色を持つ品種が作り出されました。
この「ヨコハマ」と「フェニックス」はドイツでは夫々別の品種として峻別されておりますが、英国では日本にルーツを持つ尾の長い鶏を全て「ヨコハマ」と呼んでおり、「ヨコハマ」と「フェニックス」を一緒にしているそうです。

上は「フェニックス」ですが、Elder氏は著書で、彼の「ヨコハマ」はOEGのBrown-breasted Redに似ていたとしておりますので、尾長鶏とOEGを交配した「フェニックス」がElder氏のハックルに入った血統ではないかと推測致します。
また、フランスのcoq de pecheの養鶏家のインタビュー記事では、ハックルの品質を向上させるために「尾長鶏」と交配したと記述されておりました。「尾長鶏」の日本からの輸出は長い事禁止されておりますので、養鶏家の言う「尾長鶏」は欧州にいる日本原産の血を持った鶏、多分「フェニックス」を交配したのではないでしょうか。

以前作ったハックルカラーの標本。

上はシングルカラーのハックルの標本ですが、4番目、5番目の戦前・戦中のOEGハックルの幅広三角形に比べ、左端のKeoughのハックルの長さは全くの別物。今のWhitingは更に長さを増し、殆ど鶏とは思えないハックルとなっておりますが、どうも世界中のドライフライ用ハックルの品種改良には日本原産の鶏の血が使われている様なのです。
軍鶏のハックルの色のバリエーションがOEGと同じくらいあるのかは分かりませんが、軍鶏と尾長鶏系統の血を交配させるとジェネティックハックルの様なものが出来るかも知れません。ドライフライ・ハックルへの知られざる日本の貢献。実際の釣りにはどうでも良い話なれど、東洋と西洋の毛針の交流とも重ね合う様な、ロマンを感じてしまいました。

数日前の寒波と嵐が嘘の様な今日のチュニス。バルコニーから臨む地中海は碧く穏やか。気温は19度と素晴らしい日曜の天気です。
コメント (7)
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