小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

桜宮高校を実名報道し、仙台育英や皇字山中学の校名を伏せたマスコミの報道モラルの基準はどこにあるのか

2013-01-24 04:59:21 | Weblog
 神奈川県立産業技術短期大学(横浜市旭区)のパソコンシステムのリース契約を巡り、事前に県に見積もりを出した業者が、県の予定価格と同額で随意契約を結んでいた(18日朝日新聞朝刊神奈川県版)。県の包括外部監査で明らかになったという。包括外部監査人の公認会計士は「談合や予定価格の漏洩(ろうえい)の疑いもあると感じた」と指摘しているようだ(同記事)。
 こうした官民談合を疑わせるに足るケースがなぜ後を絶たないのか。同記事の要約を記載する。
 
 県が行った一般競争入札に際し、3社が応募したが、いずれも県の予定価格を上回る入札だったので、県は最も入札額が低かった業者と随意契約を決め(入札日当日)、再度その業者に再入札を求めたところ、再入札価格は県の予定価格と全く同額だったという。しかも県は予定価格を決めるに際し、事前にこの業者に参考見積もりの提出を依頼していたことも監査人の調査で分かったという。この参考見積額は最終的に県が決定した予定価格と3万円しか違わなかったという。
 
 こうした経緯について監査人は「業者の言い値で不適切に発注・契約が行われたと疑念を抱く」と報告書で指摘した。当然であろう。
 この「官民談合」を疑わせるに足る記事で、朝日新聞は県産業人材課の課長の実名を公表した。
 この課長の県組織での将来は実名公表で極めて不利な立場に立たされる可能性が生じた。朝日新聞が取材するなら、この随意契約とは全く無関係と思われる産業人材課の課長に取材するのではなく、パソコンシステムのリース契約の入札担当者か、その部門の責任者に取材すべきだろう。
 こうした取材の場合、広報部門を通すのが通常ではあるが、広報担当者は随意契約に関して何の権限も責任もない人物に取材させたようだ。ということはその人物が何を言おうが、当該ケースに何ら責任を持たないことを前提にしている。その程度の理解は新聞社の記者にとってはイロハのイだ。記者は広報が「産業人材課の課長に取材してほしい」と言っても、「そんな取材は意味がない」と拒否すべきだった。広報が直接担当者か責任者に取材させなかったことへの腹いせで産業人材課長の実名を公表したのだとしたら、もってのほかである。
 ちょっと横道にそれるが、実は21日の午後8時過ぎ、バスケットボール部の男子部員(2年生で同部のキャプテン)が顧問教諭の体罰に耐え切れず自殺した事件で、なぜ「桜宮高校」の実名を報道したのか、報道基準についての検証を、NHKと朝日新聞に求めた(実名報道をしたのはNHKと朝日新聞だけでなくすべての報道機関が実名報道している)。
 私があえて報道基準についての検証を要求したのは仙台育英高校や皇字山中学で起きたいじめ自殺に関しては学校名を明らかにせず大きく報道した。このいじめ自殺について、報道機関はなぜ校名を公表しなかったのかをブログ記事で厳しく批判した。「結果的にいじめを助長する行為だ」と。
 確かに実名報道はジャーナリズムにとって悩ましい問題であることはわかる。仙台育英高校や皇字山中学の事件は、いじめと無関係な在校生や進学予定の学生に与えるであろう精神的影響や、地域周辺の事件を生じた学校に対するいわれのない非難が集中しかねないことを危惧したのかもしれない。だとしたら桜宮高校の場合も実名公表にはしかるべき配慮がされるべきではなかったか。「報道基準に全く整合性がない」と断定せざるを得ないのは当然であろう。ゆえにNHKと朝日新聞に実名公表の報道基準を検証せよと要求したのである。
 私は桜宮高校の実名を公表すべきではなかったと主張しているのではない。実名を公表する場合、何を目的に公表するのかの基準についての報道機関の無見識を問題にしているのだ。
 日本だけでなく世界的にいじめ問題は社会問題化している。そうした状況の中で生じたいじめ問題を報道する場合、先に述べたような問題点はあるにせよ、いじめを根絶することが報道機関にとって最大の社会的責務であるはずだ。いじめ事件が生じても学校名が公表されないとなると、他の学校や教育委員会は危機感を抱かない。学校が危機感を持って生徒指導に当たるような報道をしない限り「事なかれ主義」の学校や教育委員会の無責任体質は存続されてしまう。報道機関は自らの社会的使命と責任感を自覚して実名報道の基準を明確にしてほしい。
 そうした基準で神奈川県の官民談合を疑うに足る入札事件について、「談合や予定価格の漏洩があるとみて、業者や大学校職員から、聞き取り調査をしたが証拠は見つからなかったという」(同記事)との報道で、なぜ県産業人材課課長の実名を出す必要があったのか(監査人の氏名は公表していない)。しかも実名を公表された課長はこの入札事件の直接関係者ではなく、広報の指定により朝日新聞の取材に応じたに過ぎない人物である。朝日新聞記者はこう書いた。

(監査人の)指摘に対し、県産業人材課長は(※朝日新聞はここで課長の実名を公表した)「随意契約ではなく、再度入札をするべきで、手続きに不適切な点があった」と認めた。だが、予定価格の漏洩については「当時の担当者に聞き取り調査をしたが、漏えいの事実はなかった。たまたまぴったりになった」と否定した。

 私の若い頃(40年以上前)の経験談を書かせてもらう。
 ある日、なぜか担当外の東京都庁の某部門の発注印刷物の入札に行ってくれと営業部長から頼まれた。「無理に落札する必要はないから」とくぎを刺された。
私は発注印刷物の仕様にのっとり、会社の原価表を基準に見積書を作成して入札した。入札会場には30人ほどの印刷各社の営業マンが入札のため来ていた。結果的には入札が3回行われたが、いずれも予定価格に届かず、一番安い入札をした私が都の担当者に呼ばれ、「この価格で受けてもらえないか」と相談された。利益はほとんど生じない予定価格だったが、やむを得ないと思い承諾した。もちろん予定価格の算定基準は極秘で、営業マンは予定価格を知りようがなかった。せいぜい数十万円の仕事でもそのくらい厳しい状態だった。
 
 官公庁が予定価格を設定する場合、ほとんどの事業について内部で計算できる算定基準表を持っている。算定基準表にない項目があった場合は、その項目に関してのみ業者に見積もり依頼することはあるが、1社だけに見積もり依頼することは通常考えられない。時には見積もり行為に対価を支払っても入札に参加しないことを条件に業者に見積もり依頼して予定価格を決めることすらある。
 朝日新聞は「県予定価格で随意契約」と題し、「包括外部監査『極めて不自然』」というサブタイトルをつけてこの不自然な入札を報じた。このタイトルは官民談合を明らかに示唆している。確かに私の経験からも常識的にはあり得ない予定価格設定の経緯と不自然さを通り越したといっても差し支えない随意契約があったことは疑う余地がないと思う。
 とすれば、広報が指定した産業人材課長が朝日新聞記者の取材に対して「当時の担当者に聞き取り調査をしたが、漏えいの事実はなかった。たまたまぴったりになってしまった」という言い訳を無批判的に記事化したのはどういうわけか。少なくとも朝日新聞の記者は、広報が指定した取材対象の産業人材課長が、この随意契約問題についてどのような権限と責任をもっているのか問いただしたうえで、「担当者か責任者以外の方に取材しても意味がない」と主張して責任者を取材の場に引きずり出すべきだった。また、もし産業人材課が随意契約の担当部門であったら(そういうケースはありえないと思うが)、そのことをちゃんと明記すべきであろう。少なくともマスコミ関係者なら、全く的外れな人間に取材したと考えるのは間違いない。記者が無能なのか、記者の育て方を上司が知らないのか、はたまた記事のチェック体制が機能していないのか、いずれにしても無様な記事としか言いようがない。

 もう一つ重要な指摘をしておきたい。身内の調査は絶対信用してはいけない、というジャーナリストの大原則についてである。身内の調査結果は、新聞社として検証したうえで信じるに足ると確信できたケース以外は記事化すべきではない。仮に記事化する場合は、「と、言い訳をした」などと身内の調査結果に対して全否定とまではしなくとも、少なくても懐疑的要素を含んだ表現で記事化しなければいけない。
 身内の話は証拠にならないことを一番よく知っているはずの新聞社でありながら、身内の言葉を「証拠」として私を「ねつ造者」呼ばわりした新聞社がある。日本一の発行部数を誇る読売新聞の読者センターである。
 オスプレイの安全性について、米国防総省の発表にきわめて重大な疑問を抱いた私は、3回にわたってブログを書いた。その第1弾『緊急告発 ! オスプレイ事故件数を公表した米国防総省の打算と欺瞞』(12年8月15日投稿)を書くに当たって、私は読売新聞読者センターに私が抱いた疑問について意見を求めた。電話に出た方は、私が抱いた疑問についてあっさり肯定されたので、つい調子に乗ってオスプレイ問題について取材し記事を書いた記者への批判をし、その方とのやり取りをブログに書いてしまった。

 実は昨夜読売新聞の読者センターの方に、私の考えを申し上げたところ、担当者は「うーん。……おっしゃる通りだと思います」とお答えになったので、「読売さんの記者はまだ誰も米国防総省の計算と欺瞞性にお気づきではないようですね」と言いつのった。「そのようですね」とまことに正直にお答えになったので「つまり記者としては失格だということですね」とまで挑発してみたが、返ってきた答えは「その通りだと思います」だった。そこで私が米国防総省の欺瞞性を暴いてみることにしたのである。

 私は当時読売新聞を購読していて、しばしば読売新聞読者センターに電話していた。読者センターの方の中には私の前歴を調べたようで「先生」と敬称で対話してくれた人すらいた。私も容赦ない批判も含めしばしば読売新聞記事をブログで取り上げていた。そういう場合、基本的に投稿後にブログ記事をプリントし、読売新聞読者センターにFAXしていた。このブログも慣例に従ってFAXした。読売新聞に限らず、新聞社への手紙やFAX、メールの類いは担当記者部門に渡され、読者センターが読むことはまずない。が、このブログに関しては読者センターの責任者(と思う)が読み、こともあろうか「犯人」探しを始めたのである。その数日後、別件で読者センターに電話をしたら、いきなり「でたらめを書かないでください」と言われた。「何のことですか」と聞いたら先のブログに書いた読者センターの方とのやり取りのことだった。「当人に確かめたところ、そんなことは言っていない、と言っています。小林さんがお書きになったことはでたらめだということがわかりました」と言う。「内部調査で当人が本当のことをいうわけがないよ」と私は軽くいなしたが、22日に今度は読売新聞の社説についての意見を書いたブログの原本をやはり読者センターにFAXし、そのことだけを伝えるため電話をしたところ、電話口に出た方からいきなり「ねつ造された方ですね」と言われた。
 ジャーナリストにとって「ねつ造」とは「お前死ね」と言われたに等しい侮辱的言辞である。私は当然「ねつ造とは何を証拠に言っているのか」と詰問した。当人は「録音がある」とうそぶいた。
 皆さんも経験があると思うが、メーカーのお客様相談センターなどに電話した場合、担当者につなぐ前に自動音声で「この電話は録音させていただきます」と断りが入るケースが増えてきた。「言った、言わない」のトラブルを防ぐためだろう。報道機関でもNHKなどは「録音する」と自動音声で相手に知らせている。
 問題は三つある。
 最初の問題は、このブログのテーマである「責任を問われた当人の発言を無条件に信用する」という身内意識が、そうした意識を一番問題にしている新聞社自体が身内意識に染まっているという看過できない問題である。身内意識に染まりきっている新聞社が、問題を生じた組織内部の身内意識を批判する資格があるのか、皆さんはどう思われるだろうか。
 二つ目は、本当に読者に無断で録音していたのか、という点である。読売新聞読者センターはそのような卑劣な行為をする部門なのか。企業モラルの欠如を批判する新聞社が、このような卑劣な行為をしているということを読売新聞の読者はよく知っておくべきだ。
 最後の一つは、「録音がある」とうそぶいた方に、私が「録音があるなら聞かせてほしい」と言ったところ「そんなこと、できるわけがない」と怒鳴るなり電話をガチャンと切られたことである。実際のところ、私は読売新聞読者センターが読者からの電話を断りなく無断で録音したりする卑劣な行為はしていないだろうと思っている。もしそうだとしたら、「ねつ造」の証拠として「録音がある」と言った方は明らかにウソを付いたことになる。
 その一件以来私は読売新聞読者センターにFAXしたことがないが、このブログ原本は投稿後、プリントして久しぶりに読売新聞読者センターにFAXするつもりだ。もう一度、私を「ねつ造者」と決めつけ「録音という証拠がある」とうそぶいた「犯人」探しをぜひやってもらいたい。「犯人」が何と弁解したか、FAX後に電話で聞いてみる。何と答えるか、楽しみだ。

 今回のブログはこれで終えるが、私が言いたいことは、該当者の話はすべて「眉唾」で聞け、ということである。特に責任を追及されるようなケースで、該当者が「否定したから指摘されたような事実はないと判断した」と責任者がうそぶいた事件が最近あった。皆さんご存知の桜宮高校の事件である。もちろん「該当者」とはバスケットボール部の顧問教諭であり、「指摘されるような事件」とは日常的に顧問教諭が行っていた体罰、責任者とは桜宮高校の校長および大阪市教育委員会(特に教育委員長)のことである。
 顧問教諭の体罰を苦にして自殺した桜宮高校の2年生男子の親は警察に教諭を暴行罪で被害届を出したという。おそらく警察はすでに教諭を暴行罪で送検すべく証拠固めを行っているはずだ。
 むしろ、親は民事で教諭と校長、教育長、大阪市に対しそれぞれの責任範囲に応じた損害賠償訴訟を起こした方が効果があると思う。その結果、裁判で莫大な損害賠償命令が出れば、日本の体育教育で伝統的に重要視されてきた体罰を伴う精神主義が崩壊する。それが一人の高校生の死を無駄にしない最大の成果だ。



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